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アスリートのセカンドキャリアに
「学び」という選択肢を(後編)

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人間開発学部 健康体育学科 幸山 一大 さん

2022年11月1日更新

 人生を賭けて、スポーツに打ち込んだアスリートたち。しかしどんな形であれ、いつかは引退という日がやってくる。プロ野球界では、900人近い選手のうち、毎年約100人が戦力外通告を受け、引退していく。その平均年齢は29.6歳。引退したアスリートは、どのようにしてその後の人生を充実させていくのか。國學院大學と日本プロ野球選手会が協定を結ぶ「セカンドキャリア特別選考入試」を利用し、大学進学という道を選んだ幸山一大さん(元福岡ソフトバンクホークス選手)にお話をうかがいました。

子どもファーストじゃない教育現場を垣間見て

 元プロ野球選手であり、現在は國學院大學の4年生である幸山一大さん。入学当初は教員となり、故郷である富山県の学校で野球部の指導をしたいと考えていた。しかし卒業を来春に控えたいま、新たな夢が幸山さんの中に生まれつつあるようだ。

 

 「いま、インターンでbase5という会社にお世話になっていて、そこで展開しているプロジェクトに関わっています。『ベースボールプロジェクト』といって、放課後、学童保育で運動部に所属していない子どもたちに運動の楽しさを体感してもらう試みです。いま、野球も含め、スポーツ人口全体が減少しているんです。その歯止めになりたいということと、子どもに運動に親しんでもらいたいという思いが根底にあります」

 子ども時代に運動することの重要性は、国も提唱している。厚生労働省が提供しているe-ヘルスネットの「発育・加齢と身体活動量」という記事には「子ども時代の運動経験は、成人期以降の体力レベルあるいは身体活動状況を左右するというトラッキングの可能性が指摘されています」と記されており、小学校5年生では1週間の総運動時間が60分(1日10分)に満たない者が男子で7.2%、女子で13.3%にものぼっているとも書かれている。

 幸山さんはプロジェクトによって、「子どもたちの運動能力の低下をなんとか防ぎたい」と、考えている。現在、八王子市と契約し、小学1〜3年生の子どもたちを対象に学童でスポーツ体験をさせているという。

 その中で、幸山さんは教育について考えることが多くなった。

 

 「いまの教育現場を見て、教員が子どもより、親を見ているような気がしました。子どもファーストじゃないんですね。

 できるだけ問題を起こさないように、もし起きたとしても大きくしないようにというところに一番気を遣っているように思えるんです。いまの学校は、教員が子どもの方を向きたくても向けないような環境になってしまっているのかもしれないと感じました」

 

 もし自分が現場にいるなら、子どもファーストで、熱量高く指導したい。自分はほかの先生たちがしていない経験をしてきたのだから、それを活かした指導ができるのではないか。

 

 「子どもへの声掛けやアプローチに教員としての経験値が必要だとしたら、自分にはそれはありません。でも、プロ野球選手だったという経験を生かして、子どもの可能性を広げてあげることができるのではないかと思っているんです」

 

 幸山さんは「いまの学校や社会が、子どもの可能性を広げるより絞る方向に熱心なのではないか」と感じている。子どもが運動に興味を持ったとしても、公園でボール遊びはダメ、この場所でスポーツはダメという具合に、広がりかけた可能性を環境がつぶしてしいるのではないかと危惧している。

 

 現在、小学1〜3年生を対象としているベースボールプロジェクト。今後は、対象年齢の幅を広げていきたいという。

 ということは、すぐに教員にはならないのだろうか?

 

 「そうですね。教員免許取得予定ですが、採用試験は受けていません。将来、人生のどこかで教員になりますが、いまは『ベースボールプロジェクト』にもっと深く関わって、経験を積みたいと思っています」

 プロ野球選手引退後に「野球を続けるよりも、別の道のほうが充実した人生を送れそう」と判断した通り、幸山さんは大学での学びやインターン経験を土台に、さまざまな可能性を手に入れたようだ。

 しかし、幸山さんの入学後、2020年に元千葉ロッテマリーンズの島孝明さんと、元広島東洋カープの岡林飛翔さんが入学して以来、プロ野球界から「セカンドキャリア特別選考入試」の制度を活用した選手はいないという。

 

 「一度プロ野球選手を経験したあとに、『もう1回勉強するなんて』という思いもあるかもしれません。しかし、プロ野球の世界では得られなかった視点や、意見を交わすおもしろさを経験できたのは大学に入ったからです。この経験は、これから社会で働く上で必ず役立つと思っています。

 もし、戦力外通告を受けたり、あるいは自分で引退を考えたりしている球界の人が、『ちょっと大学のことを聞きたい』と思ったら、いくらでも連絡してください。いま、この場で伝えるとしたら『國學院大學には、ほかにはない新しい出会いがあって、それは必ず君の役に立つよ』ってことでしょうか」

 

 何年後かに、幸山さんが教壇に立ち、野球の指導をする日が来ることだろう。そのときはどんな熱血教師になっているのか、そのときにまたお話をうかがってみたい。

 

幸山一大(こうやま・かずひろ)

1996年富山県生まれ。富山第一高校では2年秋から4番・レフトとして県大会優勝、第49回全国高等学校野球選手権では富山県出場校として40年ぶりにベスト8進出を果たす。2014年育成ドラフト1位で福岡ソフトバンクホークス入団。2018年引退。2019年、國學院大學人間開発学部健康体育学科入学、2023年卒業予定。

 

取材・文:有川美紀子 撮影:庄司直人 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

 

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