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東京に迫る高齢化の危機、「移住」は防御策となるか
~コロナ禍でさらに懸念される医療・介護の不足~

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経済学部教授 田原裕子

2020年7月3日更新

 高齢化の先進国であり、対策を求められてきた日本。これまでは、多くが「地方」の課題として取り上げられてきたが、近年は東京圏の高齢化が深刻になっており、今後大きな問題になると指摘する声が増えている。

 高齢者の人口移動や高齢社会を研究する國學院大學経済学部の田原裕子教授も、その一人。若者が多く、高齢化には困らない印象を抱きがちな東京圏だが、対策は急務であり、ひとつの方策として、高齢者の「東京圏から地方への移住」をあげる。

 本連載では、高齢化対策としての移住に注目。第1回となる今回は、東京圏の高齢化の実情を取り上げる。

國學院大學経済学部教授の田原裕子氏。博士(学術)。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。職歴:東京大学大学院総合文化研究科・教養学部助手、國學院大學助教授を経て現在に至る。少子高齢化や都市再生など、現代社会が抱える様々な問題を“街のコミュニティー”を通じて考察する専門家

 

約40年前の人口移動により、2020年に問題が表面化

――東京圏の高齢化が顕著になっているとのことですが、具体的にどういった状況なのでしょうか。

田原裕子氏(以下、敬称略) 一都三県(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)からなる東京圏は、すでに急速な高齢化が始まっており、これから深刻な問題が表面化すると考えられています。

 それを示したのが、2015年に発表された「東京圏高齢化危機回避戦略」でした。日本創成会議によるもので、東京圏が抱える高齢化の厳しい未来を予測しています。

 資料によると、東京圏の高齢化率(65歳以上の高齢者比率)は、2000年時点で14.4%。全国平均が17.3%に対し、約3ポイント低い数値でした。2010年においても、20.5%(全国平均23.0%)となっており、地方よりも高齢化の度合いは低い状況だったと言えます。

 しかし、東京圏の人口動態から考えて、2020年以降は高齢化率が26%を超えると指摘しています。また、2015年からの10年間で、後期高齢者が175万人増加すると予測。これは、同じ10年間で増加が見込まれる全国の高齢者572万人のうち、およそ3分の1の規模となります。

――東京圏は、まさに今年あたりから高齢者が一気に増加するということですね。5年前の予測ですが、状況は変わっていないのでしょうか。そしてなぜ、東京圏は急速な高齢化を迎えるのでしょうか。

田原 はい。状況は大きく変わっておらず、今まさに表面化するタイミングだと考えられます。

 東京圏の高齢化が急激に進む大きな要因は、戦後の高度経済成長期に起こった人口移動です。1955年〜1973年の間に、非大都市圏から大都市圏へ、大量の人口が移動しました。

 特に多いのが、団塊の世代(1947年〜1949年生まれ)です。この世代が各年代でどの地域に住んでいたか、居住分布を分析していくと、団塊世代が10〜14歳の期間は、7割近くが非大都市圏に居住。しかし、高度経済成長期の中で分布が逆転し、大都市圏の居住者が増えます。

 その後、一部は非大都市圏に戻りますが、団塊世代の5、6割は今も大都市圏に居住し続けています。象徴的な事象が“帰省ラッシュ”で、多くの人が生まれ故郷の地方から東京圏に移り住んだことを示しています。まさに上述の人口移動がもたらした現象と言えます。

 団塊の世代、あるいはそれに近い世代は「一定期間で大量に東京圏へ移り住んだ世代」であり、当然、同じタイミングで一斉に高齢化します。その境目がまさに今なのです。

地方の資源活用、さらには雇用確保にも「移住」は有効

――人口の多い世代である分、影響も大きいと言うことですよね。

田原 そうですね。すでに問題が表面化しているケースも見られます。東京圏の住宅団地やニュータウンが代表で、これらは同時期に多数建設され、入居者の大半が同じ世代でした。その住民が、このタイミングで一斉に高齢化を迎えています。

 なお、この問題を論じる際、最初に東京圏へ移り住んだ世代を「第1世代」、その子世代を「第2世代」と呼んでいます。第2世代以降は東京で生まれ育つので、次第に「故郷が地方にある」ケースは少なくなります。先ほど話した帰省ラッシュも、今後は少しずつ緩やかになる可能性が考えられるでしょう。

――とはいえ、今も地方から東京圏に出る若年層は多いですよね。それでも、高齢化は進むのでしょうか。

田原 確かに、若年層が地方から東京圏に出る状況は昔も今も変わりません。ですが、昔と比べて地方の若年層の地元定着率が上昇しています。何より、団塊世代と今の若年層では人口規模が全く異なります。

 

 団塊世代は、1年で260万人以上が生まれています。4人ほどの子どもがいる家庭も多く、一人が地元に残り、他のきょうだいは上京するケースが多数ありました。一方、今から20年前、2000年の出生数は120万人弱。たとえ流出率に変化がなかったとしても、実際に東京に転入する若年層の人数は大幅に減少することになります。

――今も若年層は東京圏に流入しているものの、それをはるかに上回るペースで、高齢者が増えていくということですね。

田原 はい。その結果、東京圏の医療・介護に問題が起きる可能性があります。地方とは比較にならないほど高齢者が増えるだけに、施設が不足する可能性も。東京圏高齢化危機回避戦略でも、入院需要は10年間で20%以上増加し、医療不足が生じると予測されています。介護需要も、50%近い増加が見込まれています。

――何か解決策はあるのでしょうか。

田原 ひとつの案として挙げられているのが、東京圏から地方へ、高齢者の移住を促進する施策です。

 東京圏にくらべ、一足先に高齢化問題に直面した地方部では、やはり医療・介護の不足が生じないよう、2000年以降から設備を増やすなど、体制構築に力を入れてきました。

 そして今、多くの地方自治体では、人口が減少し始めています。高齢者の割合は依然として高いままですが、人数は減っているため、ピーク期に作った医療・介護の施設が余り始めているのです。

 これらを背景に、高齢者の移住施策が出てきます。東京圏から地方へ、高齢者の移住が促進されれば、東京圏は医療・介護の不足を防ぎ、地方は余剰施設を活用できる。win-winの状態になるという考えです。

 さらに、地方にとっては「若年層の雇用確保」にもつながります。多くの地域において、若者の重要な雇用先になっているのが医療・介護の現場です。これらの施設が余る状態が続くと、自然と雇用もしぼみ、若年層の流出を加速させる可能性があります。その意味でも、東京圏の高齢者が移住することで、地方の医療・介護資源を活用するというアイデアが出ています。

リモートワークの広まりは、高齢化問題に追い風か

――東京圏と地方の状況を考えると、確かに合理性はあるかと思います。

田原 最近では、高齢者の移住を促進し、東京圏と地方部の課題解決を目指すことを「日本版CCRC*」と定義し、政府施策としてスタートしています。CCRCは、もともとアメリカで生まれた概念であり、日本のものとは少し意味合いが異なります。「日本版」と付くのはそのためですが、これについては別の回で詳しく説明したいと思います。
*現在は「生涯活躍のまち」に名称変更

 ポイントは、たとえ移住施策に合理性があったとしても、実際に高齢者が移住するのは容易ではないこと。長く親しんだ場所を離れ、環境が全く異なる田舎に引っ越すのですから。

――確かに、多くの人が移住を前向きに捉えなければ、高齢化の解消には至りませんよね。
田原 ただし、実際に移住した方に話を聞くと、移住の動機やメリットは明確に聞こえてきます。たとえば、会社を退職した方の中には、人口減少の地域で地域おこしを手伝いたいなど、仕事に変わるやりがいを探す人が多数見られます。

 東京圏にいれば人口約3600万人のうちの1人ですが、地方なら数万分の1人、小さな市町村ならより人口は減ります。一人一人の役割や影響力は強くなるでしょう。加えて、高齢者が多い地域にとっては60代でも“若者”ですから、当然、地域から必要とされます。

 その意味で、地域・社会への貢献や、他者とのつながりを求めて、地方に移住する方は多く見られます。データによると、男性の方が強いニーズがうかがえます。

――そういった動機を入口に、どこまで移住を促進していけるかということですね。

田原 加えると、今回の新型コロナウイルスによって、移住のニーズも高まる可能性はあります。というのも、東京圏から移住する際、大きなハードルは「仕事」でした。移住に合わせて地方で仕事を探すのは大変ですし、東京圏の企業に勤めたままの移住も容易ではない。出勤しなければなりませんから。

 しかし、今回リモートワークが広まり、情勢が落ち着いた後も、この働き方が浸透する可能性は高いです。出勤の自由度が上がるため、職場から離れた地域への移住はしやすくなるでしょう。

 そういった環境が整う中で、各地域が移住施策を用意し、流れを促進できるかがポイントになると思います。

――具体的に、どんな移住施策が考えられるのでしょうか。

田原 それについては、さまざまな地域で過去に行われた移住施策を見ていくと、ヒントがあるかもしれません。施策自体は、1980年代頃から多数行われてきたのです。

 次回、日本での移住施策について、これまでの変遷を振り返ってみましょう。 

(つづく)

田原 裕子

研究分野

地域社会問題、高齢社会と社会保障

論文

「都市再生」と渋谷川(2018/03/10)

高齢人口移動の理論とモデル(2017/11/01)

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