教授

花部 英雄

ハナベ ヒデオ

専門分野
口承文芸
本学就任
2004年04月01日
担当教科
伝承文学演習1(4)、伝承文学概説1、伝承文学概説2、伝承文学史1、伝承文学史、伝承文学史2、卒業論文、前期課程・伝承文学研究(演習)、後期課程・伝承文学特殊研究(演習)

著書・論文紹介

 祭文は歴史的に見ていくと、神仏への祈願や死者供養等の、さまざまな宗教、儀礼の中で行われてきた。その一つ、奈良の元興寺から発見された中世の祭文「夫妻和合祭文」を検討する。この和合祭文では、まず神将を勧請し、夫婦の和合を祈念する。その際の呪術的作法に、人形を接合して呪う部分がある。この祭文を文学的表現ではあるが、現実に応用した室町物語「時雨」という作品があり、呪術が確実に浸透していたことがわかる。そのことは、その後の民間呪術にかかわるテキストにおいても読みとることができる。

 西行話がどのように形成されてきたのかの問題を、昔話・歌謡との接点においてとらえていく。問答歌謡の裾野の上に、一つの昔話が誕生する。その昔話の主人公が西行に仕立てられることで、それまでの機知を笑いにした昔話から、笑われる西行へと変質を遂げるという、伝承の妙味がここにある。民俗的歌謡、昔話を通過しながら換骨奪胎しつつ、庶民の西行イメージ上に西行話を形成していく過程を具体的にたどりながら、変質の姿を明らかにする。

 昔話「桃太郎」を伝承学的に再検討する。正統で標準的な桃太郎に対し、異端と思われる桃太郎を拾い上げていくと、グリム童話「六人組み世界歩き」へと近づいていく。世界のタイプインデックスのAT513「援助者たち」の日本バージョンである。これは近代に入っての翻約以前に、すでに伝播していた可能性が高い。昔話研究を一民族(一国家)的現象から解き放って、比較研究への道筋をつけていく時代がきていることを確認する。

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教授からのメッセージ

「伝承文学」とは何か? 
いまそれを、好きな萩原朔太郎の詩「こころ」の一節になぞらえていえば、次のようになろうか。
伝承文学をば何にたとへん
伝承文学は民草(たみぐさ)の記
昔話に花咲く日はあれど
独創(オリジナリティー)ばかりはせんなくて
…………
 個人の独創的な文学が、空に高くのびた樹とすれば、「伝承文学」は地面に生えたしたくさ下草である。すぐれた才能が生まれる背景には、豊かな文化的土壌が必要であり、その文化的土壌の一端を担うのが「伝承文学」といえる。その意味では地盤的、基層的であり、また大衆的なものである。
文学用語でいえば、「説話」や「口承文芸」(昔話、伝説など)がそれにあたる。近代の学校制度以前の教育は「口から耳へ」の伝承であった。それを記録したのが「説話」であるが、文字の習得のできなかった多くの庶民は、口伝えの「口承文芸」によって学んできた。母親が歌ってくれたわらべ歌、コタツや布団の中で聞いた昔話、子供同士で遊んだナゾナゾ、自然物や行事、制度のいわれ・伝説などなど‥‥。これらが情操、知識、思想形成の役割を果たしてきたことは、差こそあれ、否定できない事実であろう。いうなら日本の庶民のあか証しがここには詰まっている。
大学生である皆さんは、そうした基層的な段階を通過してしまったが、振り返って日本の庶民のルーツをたどる意義は十分にある。そしてそれは、きっと今の自分を新たにとらえ、相対化することになるはずである。学問が自己とは何かを究めるものであるとすれば、「伝承文学」はその基層的な部分を、確かに究明してくれると思う。

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