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独立採算のままで鉄道の維持・発展は可能か

鉄道を学問する vol.4【都市計画・交通計画】

  • 観光まちづくり学部
  • 観光まちづくり学科
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  • 政治経済
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観光まちづくり学部 准教授 大門 創

2022年6月3日更新

 今年、開業から150年を迎える日本の鉄道事業は特有で、運賃収入で鉄道運営にかかる経費を賄うという「独立採算」の考え方に基づいている。一方、欧米諸国の国々では移動する権利を保障する一種の「公共サービス」という位置付けにある。観光まちづくり学部の大門創准教授(専門:都市計画・交通計画)は、「地球温暖化や少子高齢化などのさまざまな社会課題が浮上している中で、鉄道が果たすべき役割は大きい」と話す。日本の鉄道が持続的に運営していくためには、鉄道事業に対する固定観念を解き放てるかどうかがひとつの鍵となる。

【後編】まちづくりと交通が共創する社会の姿とは

―― 日本と世界の鉄道事業の考え方の違いは

 日本では、電気やガス、水道は生活に欠かせない一種の「公共サービス」という考え方が根付いている。これに対し、鉄道事業は「独立採算」を原則としており、運賃収入で、整備費、維持管理、人件費を賄うことが求められている。

 海外では、人が移動できる権利は最低限保証されるべきという「公共サービス」としての考え方が主流だ。鉄道は主に国等が保有し、事業運営にかかるコストの3~5割を運賃収入で賄えればよい。例えば、フランスには、人の移動する権利を保障する法律があり、国は移動する権利を保障するために、沿線の受益者から税金を徴収し、鉄道や軌道の整備に充てている。

人と環境にやさしい交通システムとして、世界各国から注目を浴びるストラスブール(フランス)のトラム(大門准教授提供)

―― 独立採算を原則とする鉄道事業は持続可能か

 日本の鉄道の独立採算については、バスや航空機など他の輸送モードとの競争において不利な条件を強いられていると指摘する専門家もいる。

 例えば、A地点とB地点を結ぶ路線を運行する鉄道事業者と、同じ区間を運行しているバス事業者の経営条件を比べてみると、鉄道事業者は用地を取得し、鉄軌道を敷き、安全施設を設置したうえで、車両と運転手を用意しなければならない。一方のバス事業者は、車両と運転手は用意するが、道路整備をする義務はないし、もし、道路に穴が空いたら、国や地方自治体が修繕する義務を負う。

 輸送サービスに関して、施設インフラを「下」、その上で行う運行サービスを「上」と表現することがある。鉄道以外の輸送サービスは、「下」部分は国・自治体が責任を持つ「上下分離」であり、交通政策の観点からは、双方が対等の立場で競争が行えるよう、条件を同一に揃える「イコール・フッティング論」を主張する声は根強い。

―― 独立採算の考え方が、鉄道事業に与える影響は

 平成28年の交通政策審議会答申「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について」では、具体的な鉄道プロジェクトの検討結果を取り上げ、意義と課題について提示。この中で、課題に触れた部分では、「事業性や収支採算性の確保」など独立採算をベースにした考え方が目立っている。

 鉄道の新規プロジェクトに関しては、分厚い「鉄道プロジェクトの評価手法マニュアル」に従って、綿密な費用便益分析が行われる。簡単に言えば、鉄道整備によって、利用者と供給者と社会全体が得られる効果(便益)を足し合わせたものを、建設投資、維持改良などにかかる費用で割って、いわゆる「コスパ」をみようとするものだ。その数字が「1」を超えるかどうかは、鉄道整備を望んでいる人にとっては天国と地獄を分ける。

 鉄道を「公共サービス」として捉えるのならば、利用者にとって必要な路線であるかどうかを基準に判断できるが、日本では「独立採算」の考え方に縛られてしまうため、実現しない路線も多い。

―― 日本の鉄道は転換点を迎えているのか

 日本でも、鉄道は「公共サービス」という考え方が取り入れられる方向に進んでいる。平成25年施行の交通政策基本法では、交通政策に関する基本理念やその実現を図るために講ずべき施策を規定するとともに、国、地方公共団体、民間事業者、そして国民がそれぞれ責務と役割を有し、適切な役割分担と有機的・効率的な推進の下に交通政策を推進すべき、と定めている。

 持続可能な社会を実現するためには、運輸部門で二酸化炭素排出の大部分を占めるガソリン車依存からの脱却が欠かせない。さらに、高齢者運転の自動車事故が増える中で、マイカーに変わる代替の移動手段が求められているなど、人と環境に優しい公共交通としての鉄道の果たすべき役割は大きい。自動車依存社会から脱却し、公共交通に回帰できるかが問われており、そうした社会背景が、ネットワーク型コンパクトシティというまちづくりへの関心につながっている。

大門 創

研究分野

都市計画、交通計画、ロジスティクス

論文

地方都市における自動車の保有動機の特性に関する研究(2022/04/)

都市のスマート化が居住地選択へ及ぼす影響に関する基礎的研究 -テレワークの推進,ネット通販,自動運転車両の推進を想定して-(2022/04/)

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