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地方鉄道の存続・再生のカギは何か

鉄道を学問する vol.2【行政法】

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法学部 教授 高橋 信行

2022年5月19日更新

 乗降客の減少や相次ぐ災害によって全国各地で苦境に立たされている地方鉄道。存続が危ぶまれる赤字路線を再生、維持するための代表的な方策として、第三セクター方式と上下分離方式がある。これまでは地域の実情に合わせた柔軟な経営ができるメリットを狙って、地方自治体などの公共セクターが経営に参画する第三セクター方式を採用するケースが多かった。ただ、法学部の高橋信行教授(専門:行政法)は「半官半民の組織では経営改革への意欲が乏しく、経営合理化が進みにくいとの指摘がある」と話す。そのため、近年では、鉄道施設の整備・管理と列車の運行・経営の役割を分けるという上下分離方式を採用する事例が増えている。

【後編】「鉄道もバスも生かす」地方自治体の役割は

―― 地方鉄道をめぐる現状は

 地方の鉄道事業は苦境にある。人口減少で需要が減少していることや、自家用車が普及し、道路が整備される中で、地域の足としての鉄道離れも進んでいる。また、バスやタクシーといった公共交通機関と競合することもあり、少ないパイを争っている。鉄道事業者はインフラ整備も自前で行うことを余儀なくされているため、バス事業者と比べると不利な競争環境に置かれている。そのため、公的支援を拡充するなどの対策を実施しないと維持できない状況になっている。

―― 第三セクター方式のメリット・デメリットは

 最近20年の地方鉄道をめぐる動きを見ていると、廃線の危機に追い込まれた赤字路線については、地方自治体が参画した第三セクター方式を採用して、鉄道路線の維持を目指すケースが主流だった。第三セクターとは、地方自治体と民間企業が共同出資して事業を経営する企業のことを指す。鉄道業界では、旧国鉄の赤字路線廃止をめぐる議論をきっかけに、赤字路線を存続させるために地方自治体などが事業に参入するようになった。この第三セクター方式では、一つの企業が施設の保有・保全と車両の運行・経営の両方を担っているのが特徴である。地元の実情に合わせた柔軟な経営ができるメリットがあるが、半官半民なので経営合理化や改革の意欲が乏しく、新しいアイデアが発揮されにくいという面がある。

 近年、新しく第三セクター方式が採用された例としては、福井市、勝山市、坂井市などが出資しているえちぜん鉄道(福井市)がある。京福電気鉄道(京都市)が福井県下で運営していた越前本線(現在の勝山永平寺線)と三国芦原線を引き継いだ。京福電鉄は平成12年と13年に相次いで列車衝突事故を起こし、全線で運行停止に追い込まれ、経営が悪化していたために、地方自治体が支援することとなったのである。

平成14年に京福電鉄の路線を引き継いだ第三セクター・えちぜん鉄道

―― 近年、注目を集めている上下分離方式の特徴は

 様々なパターンがあるが、代表的には駅や線路、橋梁、信号設備等の鉄道施設の整備・維持と列車の製造・整備・運行を別々の事業者が担うことである。車両の運行が「上」、施設保有が「下」に当たり、この二つの分けることから上下分離と呼ばれている。

 一般に、鉄道施設の整備・維持は国や地方自治体、第三セクターが担っている。道路や橋と同様にまちづくりにかかせない持続性のある社会基盤として、公的セクターが担当しているのである。他方で、列車の運行については、主に民間セクターが担っていて、民間のノウハウを活かした効率的な運行や良質なサービスを提供することが期待されている。例えば、公的セクターが施設・車両を貸し付け、民間セクターが運賃収入の一部から施設利用料などを払う。鉄道施設の維持等に不足する分は補助金等の公的財源が用いられる。。

 栃木・宇都宮で令和5年の開業に向け整備が進むLRT(次世代型路面電車)は上下分離方式で行われている。宇都宮市と芳賀町が軌道や停留場などの施設、車両を整備・保有し、宇都宮ライトレール株式会社がこれらを借り受け、運行を担う仕組みだ。

令和4年10月1日の全線開通が決まった只見線

―― 上下分離による地方鉄道再生は様々な活用が行われている

 例えば、高速バスの経営を手掛けるウィラーグループが、上下分離方式を活用して鉄道事業に参入し、話題を集めた。その子会社であるウイラートレインズが北近畿タンゴ鉄道(KTR)から列車の運行や乗車券の販売などの事業を受け継いでいる。ウイラートレインズは新しいアイデアを導入して鉄道の活性化を目指している。上下分離方式は、鉄道の運行に異業種の参入を促し、革新をもたらすことが期待されている。

 また、上下分離方式は、鉄道の災害復旧にも活用されている。例えば、福島県の会津若松駅から新潟県の小出駅までを結ぶJR東日本の只見線は、平成23年7月の新潟・福島豪雨により大きな被害を受けた。JR東日本は、廃線も視野に地元自治体と交渉を提案したが、最終的には、復旧にかかる費用を、国、福島県、JR東日本で三等分して負担するスキームがまとまった。また、復旧後には上下分離方式が採用され、鉄道施設は福島県が第三種鉄道事業者として保有し、JR東日本が第二種鉄道事業者として運行を担当することが決まっている。

 只見線の運行収益は元々大きな赤字であり、JR東日本としては、民間企業である以上、経済的に合理性のない計画に賛同することはできない。そのため、鉄道の運命は国や地方自治体が支援するか否かにかかっている。災害の被害を受けた地方鉄道の多くが廃止される中、只見線は逆に珍しい例であると言える。国や福島県が負担を引き受けたのは、只見線が新潟県と会津地方を結ぶ重要な交通インフラであるだけでなく、観光需要が大きいことも理由であろう。少子高齢化で地域の衰退が進む中、それぞれの地方自治体が真剣に鉄道の未来について考える時期が来ているといえる。

 

 

 

研究分野

公法(行政法)

論文

地域公共交通の再生と地方自治体の役割(2023/06/01)

高齢者の自動車運転 : 近年の道路交通法の改正について (特集 高齢社会と司法精神医学)(2022/01/01)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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