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「鉄道もバスも生かす」地方自治体の役割は

鉄道を学問する vol.2【行政法】

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法学部 教授 高橋 信行

2022年5月19日更新

 平成19年に施行され、令和2年に一部改正された「地域公共交通活性化再生法(正式名称は「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律について」)」によって、意欲のある地方自治体が主導し、公共交通を再生させようという機運が生まれ始めている。法学部の高橋信行教授(専門:行政法)は「法制度と仕組みは揃っており、いかに実行に移すかが問われている」と語る。鉄道、バス、乗り合いタクシーなどを組み合わせ、地域の交通網を線ではなく面で捉えることが課題となっている。地域の実情に合わせた適切な活性化計画を描き、潜在的な移動需要を掘り起こすことが公共交通再生の鍵となっており、今後は地方自治体のリーダーシップがますます重要になっている。

【前編】地方鉄道の存続・再生のカギは何か

地域公共交通の活性化の代表的な成功例とされる富山地方鉄道のLRT

―― 公共交通再生の成功例は

 富山市で平成18年に整備された富山ライトレール(当時)は、JR西日本富山港線を継承して運行を開始した。第三セクター会社による日本初の本格的LRT(次世代型路面電車)で、線路と駅を引き継いだだけでなく、駅数を増やし、新しい車両を導入するなどして地域住民の利便性を高めており、現在では地域公共交通の活性化の代表的な成功例と評価されている。とくに、沿線住民へのアンケート調査によって、人々の行動様式に変化をもたらしたことが明らかになっている。気分転換に出かける人が増えたほか、生活必需品やそれ以外の買い物の需要を高め、地域の活性化、賑わいに貢献している。高齢者のQOL(生活の質)を高めるという期待もある。

 令和2年には、富山軌道線(市内電車)を運営する富山地方鉄道に吸収合併され、富山港線に改称された。同年3月には富山駅周辺が整備され、市内電車と富山港線の相互直通運転が始まり、利便性は更に向上している。

 地域公共交通活性化法に関する国土交通省のスタンスは、地方自治体のリーダーシップに多くを任せていると言える。つまり、地域公共交通の再編に関する地方自治体の役割を重視しており、それに向けて努力する自治体を支援するということだ。令和2年の一部改正により、その姿勢がより一層鮮明になっている。

――今後、地方鉄道には何が必要か

 地方では鉄道単体による経営改善は難しい。沿線エリアを線ではなく、面で捉えた全体構想を描き、移動需要を掘り起こしていかなければならない。高松琴平電気鉄道(ことでん)の活性化を目指す高松市地域公共交通利便増進実施計画では、郊外部から高松駅まで伸びる幹線バスを路線再編して合理化し、鉄道とバスの重複を解消するなど、地域旅客サービスの効率性の向上を狙っている。

 地域公共交通の活性化に際しては、やはり鉄道が中心的な地位を占めると考えられる。高松市でも、「ことでん」を中心に計画を描くのかという背景には、「鉄道にはバスにない特別なメリットがある」というレールボーナスの考え方がある。住民に対するアンケートでは、「鉄道は安全で快適」「時間通り動く」「あったほうがいい」という意見が多いことが知られている。「今は使わなくても、いざと言うときにあると安心だ」という声も根強い。高松市は「ことでん」を交通網の中核に据えて、国交省の「地域の公共交通ネットワーク再編に向けた支援」にあるフィーダー(支線)再編の考え方を採用した。

「公共交通ネットワーク再構築のイメージ」[高松市地域公共交通計画(令和3年9月改定)より]

 宇都宮で整備が進むLRTも同じ考え方だ。LRTの停留所まではバスや乗り合いタクシーで移動し、そこから市街地の中心部までLRTで移動する。鉄道に人を集めることで、鉄道の収益性が上がるだけでなく、バス輸送の効率性も上がり、結果的には収益性も改善する。短い路線を多頻度で運行することで、無駄を省きつつ利便性を高めることが可能だ。また、駅や停留所の待合室には商業施設を併設し、待ち時間を有効に使って、買い物を楽しめるようにする。乗り換えによって、料金が高くなってしまうことを避けるために、運賃体系を変え、共通乗車券や乗り換え自由な1日乗車券を導入するなど、エリアを面で捉えた集客を目指す。こうした方法がうまくいくには、既存路線を運行するバス事業者を説得する必要性があるために、地方自治体のリーダーシップがきわめて重要になる。

―― JRの不採算路線撤退論が高まっている

 存続が危ぶまれる地方鉄道をいかに維持するか、という点について、国の検討会でも様々な議論がなされたところである。最近でも、JR西日本などから赤字の地方路線について線区ごとの収支を公表する動きが出ている。鉄道事業者側が厳しい経営事情を示したうえで、路線を維持すべきか、廃線やバスなどへの転換を図るべきか、今後議論が進められる見通しだが、こうした問題でも、重要な役割を期待されているのが地方自治体である。

 そもそも、鉄道が地域住民のためのものである以上、住民の代表者である地方議会や首長が鉄道の未来について検討しなければならない。その意味では、今やボールは地方自治体にあると言える。戦後、ローカル線の廃止論議が高まっていた時は、公共交通を総合的かつ長期的に発展させていくという視点がなかったために、場当たり的な対応に終始した。しかし、法制度や仕組みが整った今、経営の苦しくなった鉄道を再生する成功例が増えていけば、「うちの街でもできるのでは」という機運が盛り上がっていくのではないだろうか。その意味で、先進的な自治体の取り組みに期待したい。

研究分野

公法(行政法)

論文

雑誌『法学教室』演習欄(行政法)(2019/04/01)

「1962年憲法改正とルネ・カピタン」宇賀=交告編『現代行政法の構造と展開 : 小早川光郎先生古稀記念』 (2016/09/01)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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