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暴れん坊からスーパーヒーロー爆誕へ スサノヲの成長譚

『古事記』が語る神々の姿に学ぶ⑤

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神道文化学部 教授 武田 秀章

2022年6月30日更新

 荒ぶる神スサノヲは、姉神アマテラスの「石屋戸隠れ」を引き起こした罪を問われて高天原を追われます。下向した出雲(島根県)では、国つ神の娘クシナダヒメを救うために難敵・ヤマタノオロチを倒し、娶ったクシナダヒメにわが国最初の和歌を贈ることで、武人から詩人へと華麗なる変身を遂げるのでした。そうしたスサノヲの成長譚は、「中央(=天つ神)と地方(=国つ神)の連携が国作りに不可欠だとの伝えだった」というのが、『古事記』講読の授業を長年担当する神道文化学部の武田秀章教授(神道史)の解釈です。

①「ヒーロー爆誕」「人生大逆転」 『古事記』は面白い

②失敗も成功も― イザナキ、イザナミの国生み、神生み

③愛する人との別れで定まった「死の宿命」と「世代交代」

④天の石屋戸神話が示す「出口が見えない暗黒」からの脱出法

⑥スサノヲからオオクニヌシへ 試練と継承の「国作り」

⑦神々の相互連携で進む大事業「国譲り」とは?

⑧地上の世界に稲の実りをもたらした「天孫降臨」

⑨「日向三代」がつなぐ天上・地上の絆

⑩神武天皇のチャレンジ精神、「人の代」を切り開く

「八俣大蛇」二宮昌世(125期神道文化学部卒業生)(作品の転載はご遠慮ください)

「地上国家」の国作りの端緒となる「ヲロチ退治」とは?

 天照大御神の「石屋戸開き」によって、天上・地上に「光と秩序」が蘇りました。天照大御神は、「天の石屋戸」の試練を経て、名にし負う天上の「日の大神」として、高天原の主宰神として、見事にステップアップしたのです。

 天照大御神を戴く「天上国家」の形成に呼応して、地上では須佐之男命を担い手として「地上国家」形成の端緒が開かれることになります。高天原で狼籍の限りを尽くした須佐之男命は、八百万の神々の協議でお祓いをうけたのち、ヒゲと手足の爪を切られ、天上から追放されました。

 地上の「出雲」に降り立った須佐之男命は、肥の川の川上で、「運命の女神」櫛名田比売(クシナダヒメ)と出会います。これこそが、須佐之男命の転機となった「出会い」でした。櫛名田比売は、「八俣遠呂智(やまたのをろち)」なる巨大モンスターの生贄として、今晩まさにその餌食にされようとしていたのです。

 須佐之男命は、「私は天照大御神の弟なのだ」と堂々と名のりを上げました。そして、恋人の櫛名田比売や出雲の国つ神たちを救うために、雄々しく立ち上がったのです。

 それにしても、ヲロチはあまりにも巨大な敵でした。ヲロチを倒すために須佐之男命が企てた「はかりごと」が、「八塩折り(やしおおり)」作戦です。「ヤシオオリの酒」(幾度も繰り返して醸した酒)を呑んで正体を失ったヲロチは、須佐之男命の自慢の剣で、完膚なきまでに切り刻まれました。こうして出雲の国つ神たちと共に、知略の限りを尽くして、「未開と混沌」の象徴のような巨大モンスターを倒したのです。それまで鼻つまみの乱暴者だった須佐之男命が、「出雲の救世主」として劇的に生まれ変った、「ヒーロー爆誕」の瞬間でした。

「草薙の剣」献上と「三種の神器」の成立

 ヲロチを倒した須佐之男命が、その尻尾を切り裂いたところ、すばらしい霊剣が現れました。須佐之男命は、その霊剣を、天上の天照大御神に、和解と恭順のしるしとして献上します。この剣こそ、「三種の神器」の最後の一つ、「草薙の剣」にほかなりません。

 「天の岩屋戸」の段で「鏡」と「玉」の二つまで揃っていた「三種の神器」。この「ヲロチ退治」で、三つ目の「剣」が現れました。天上において、ついに「三種の神器」が勢揃いするに至ったのです。

 「草薙の剣」献上による須佐之男命と天照大御神の劇的な和解は、同時に高天原における「三種の神器の成立」でもありました。「草薙の剣」出現は、国譲りと天孫降臨、さらには「草薙の剣」を奉戴した倭建命(ヤマトタケルノミコト)の東征へと繋る伏線となったのです。 

「元祖シンガー」だった須佐之男命

 天照大御神と和解した須佐之男命は、櫛名田比売と結婚し、新居の稲田宮(いなだのみや)を作りました。須佐之男命が宮を建てた際、雲出ずる国「出雲」の「八雲」が、空いっぱいに立ち昇ります。その様子を見た須佐之男命は、わが国ではじめての和歌(やまとうた)を詠みました。

八雲立つ 出雲八重垣
妻籠みに 八重垣作る
その八重垣を

 猛々しい英雄神・須佐之男命が歌い上げた、かくも優美なラブソング。そもそも「八雲の道(和歌の道)」の端緒は、神代のはじめ、須佐之男命のこの神詠にあると信じられてきました。和歌の韻律は、これ以降、人と人の心を繋ぐわが国ならではのコミュニケーションツールとして、連綿と歌い継がれてゆくこととなったのです。

 こうして須佐之男命は、愛する妻・櫛名田比売と相携え、稲田宮を拠点として、葦原の国土に「五穀豊穣の農耕社会」をもたらす「地上国家」の国作りをスタートアップすることとなったのでした。

 伊耶那岐命・伊耶那美命が始めたわが国の国作りは、天上において天照大御神が、地上において須佐之男命が、諸々の試練を乗り越えて、受け継いでゆくことになりました。国作りは、世代から世代へ、しっかりと繋がれていったのです。(つづく)

●『古事記』講読の受講生の声

  • 悪いことをしてしまった人間は、悪い人間のまま終わってしまうのだろうか。人は劇的に変わり得るということを、須佐之男命が、身をもって教えてくださっているのではないか。須佐之男命のストーリーは、そのような生き方の指標を、私たちに教えてくれているのだと感じた。
  • 須佐之男命の才能の開花は、櫛名田比売と育んだ「愛のパワー」の賜物ではないだろうか。彼女こそは、須佐之男命を「英雄神」へとステップアップさせた「力の源泉」ともいえる存在だったのではないだろうか。
  • 『古事記』の伝えは、国の成り立ちを語るとともに、各自の努力と皆の協力、そして試練を乗り越えることの大切さを教えるものではないでしょうか。

※武田教授担当授業での受講生のコメントをもとに再構成

 

 

 

武田 秀章

研究分野

神道史、国学史

論文

「御代替りを考える」(2020/03/24)

「明治大嘗祭再考―祭政と文明と-」(2019/11/15)

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