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「ヒーロー爆誕」「人生大逆転」 『古事記』は面白い

『古事記』が語る神々の姿に学ぶ①

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神道文化学部 教授 武田 秀章

2022年5月1日更新

 編纂から1300年余を経た『古事記』は、日本最古の歴史書かつ日本初の物語として八百万(やおよろず)の神々が活躍するファンタジーを語り継ぎます。人間味あふれるキャラクターの魅力は近年、漫画やアニメにもなるなど再評価されますが、『古事記』講読の授業を長年担当する神道文化学部の武田秀章教授(専門:神道史)は「わが国の成り立ちを伝える貴重な語りごと。ぜひ原文で読みこむことを勧めたい」と話します。

②失敗も成功も― イザナキ、イザナミの国生み、神生み

③愛する人との別れで定まった「死の宿命」と「世代交代」

④天の石屋戸神話が示す「出口が見えない暗黒」からの脱出法

⑤暴れん坊からスーパーヒーロー爆誕へ スサノヲの成長譚

⑥スサノヲからオオクニヌシへ 試練と継承の「国作り」

⑦神々の相互連携で進む大事業「国譲り」とは?

⑧地上の世界に稲の実りをもたらした「天孫降臨」

⑨「日向三代」がつなぐ天上・地上の絆

⑩神武天皇のチャレンジ精神、「人の代」を切り開く

第1回古事記アートコンテスト(平成29年度)特選「古事記との出会い」新井麻美(作品の転載はご遠慮ください)

『古事記』は面白い!

 「入学後の嬉しい驚きは、『古事記』との出会いです。スピーディーで、ドラマチックで、時にユーモラスな物語の面白さ! 入学前は想像もつきませんでした」。これは『古事記』を講読する授業の受講生の言葉です。

 『古事記』の物語は、まず何よりも面白い。原初の命を受け継ぐ神々の活躍は、底知れぬバイタリティに満ち溢れています。まずは『古事記』の破天荒なストーリー性の面白さを、素直に楽しむことから始めてみてはいかがでしょうか。

 もちろん『古事記』は、現存する日本最古の書物であり、わが国古典中の古典です。進む国際化の中で『古事記』への関心は、「もう一度日本らしさの『根っこ』を見つめ直したい」という人々の思いから、ますます強まっているのではないでしょうか。

古事記の「言葉」

 そもそも『古事記』編纂を命じた第40代天武天皇は、それまでの行き過ぎた中国化政策の反省の上に立って、あくまでも古来の「国語」をもって日本の神話と歴史を伝えよと仰せになりました。天武天皇の没後、太安万侶(おおのやすまろ)は、苦心の末、「やまと言葉」の発音を、大陸渡来の漢字を用いて記す表記法を編み出したのです。

 江戸時代に入って、「国学」の学問が興りました。本居宣長は、『古事記』の表記の仕組みを生涯かけて研究し、『古事記』本文に正確な「読み」を与えました。宣長の努力によって、『古事記』は千年に及ぶ眠りから目覚め、神代の息吹を伝える書として蘇ったのです。 『古事記』の魅力は、まず何よりもその「やまと言葉」ならではの多様なニュアンス、豊かな「言霊の音楽」のハーモニーにあるといえましょう。

古事記をエンジョイしよう!

 私が『古事記』講読の授業でもっとも大切にしていること。それは、本文の和語の徹底した「素読」です。その上で、担当の授業では、学生たちがより古事記をエンジョイできるよう、次のようなワークを行っています。

 一つ目は「語り部」ワーク。自らの「推し神」を選び、その「物語」を自分の言葉で語りおろすチャレンジです。学生たちは、自らの心に刺さった伝えを、各々活き活きと語ります。元祖ヤンキー・須佐之男命の「ヒーロー爆誕」伝説を、元祖いじめられっ子・大国主神の「人生大逆転」を…。

 二つ目は「古事記アート」の制作。学生たちが各々心惹かれた神話の情景を、アート作品で表現するワークです。今どきの学生たちは生粋の映像世代です。神話ならではの「あり得ない場面」を、あたかもアニメやCGのように、鮮やかに映像化して描き出します。

神話は「事実」ではありません。けれども…

 もちろん神話は歴史上の「事実」ではありません。けれども私たちは、神話を通じてわれわれの父祖にとっての大切な「真実」を知ることができるのではないでしょうか。「子々孫々、こうやってどん底から蘇ってきたのだ」「日本人は、これでいいのだ」…。そんな父祖のエールが、『古事記』の行間から聴こえてくるかのようです。

 そもそも『古事記』は、宣長によって、千年に及ぶ忘却の淵から蘇った奇跡の書にほかなりません。『古事記』が、学生たちのこれからの人生の大切な心の糧、「蘇りの力」となることを切に願っています。(つづく)

●『古事記』講読の受講生の声

  • 『古事記』に登場する神々は、思わず「おいおい」と突っ込んでしまいたくなるような性格や行動が目立ちます。私は欠点も含めて彼らがとても大好きですし、また心の底から尊敬しています。
  • 『古事記』の魅力はストーリーにもありますが、ストーリーを語る音=「やまとことば」にあり、古事記原文の響きを感じ、音に込められた意味を理解することで、神話の魅力は倍増するのだと感じました。

※武田教授担当授業での受講生のコメントをもとに再構成

 

 

 

武田 秀章

研究分野

神道史、国学史

論文

「御代替りを考える」(2020/03/24)

「明治大嘗祭再考―祭政と文明と-」(2019/11/15)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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