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天の石屋戸神話が示す「出口が見えない暗黒」からの脱出法

『古事記』が語る神々の姿に学ぶ④

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神道文化学部 教授 武田 秀章

2022年6月15日更新

 イザナキの禊によって誕生した「日の大神」アマテラス。『古事記』に語られるその後の神話では、失敗や困難の連続となり、ついには「天の石屋戸」に引き籠ってしまい、世界が暗闇と化します。この一大危機を救ったのは、知恵とスキルを出し合って女神を支える天上の神々でした。『古事記』講読の授業を長年担当する神道文化学部の武田秀章教授(専門:神道史)は「心折れた女神の姿、その女神を支える神々のチームワークには、学ぶべき点が多い」と指摘します。

①「ヒーロー爆誕」「人生大逆転」 『古事記』は面白い

②失敗も成功も― イザナキ、イザナミの国生み、神生み

③愛する人との別れで定まった「死の宿命」と「世代交代」

⑤暴れん坊からスーパーヒーロー爆誕へ スサノヲの成長譚

⑥スサノヲからオオクニヌシへ 試練と継承の「国作り」

第4回古事記アートコンテスト(令和2年度)特選「天照大神と建速須佐之男命の宇気比」龍野由衣(作品の転載はご遠慮ください)

「宇気比」がもたらした伏線

 伊耶那岐命の禊による生命力の「よみがえり」の中から、もっとも貴い三柱の神として、「国作り」のあとを受け継ぐ「第二世代」が誕生しました。伊耶那岐命は、まず長女の天照大御神(アマテラスオオミカミ)に、天上(高天原)を治めることを命じます。ついで月読命(ツキヨミノミコト)には「夜の世界」を、末っ子の須佐之男命(スサノヲノミコト)には「海原」を治めることを命じました。

 けれども「元祖荒ぶる神」須佐之男命は、亡き母を慕う号泣で、地上世界に大干魃をもたらします。ついで須佐之男命は、姉の天照大御神を求めて、天上に昇りました。ところが天照大御神は、弟が高天原を奪いにきたと誤解し、武装して須佐之男命の前に立ちはだかります。

 須佐之男命は、姉の誤解を解くために、「宇気比(うけひ)」を行って各々の心の証しを立て合うことを申し出ました。まず天照大御神が、須佐之男命の剣から、多紀理毘売命(タギリビメ)、市寸島比売命(イチキシマヒメ)、多岐都比売命(タキツヒメ)という三女神を生み出しました。玄界灘の守護神として宗像大社に祀られる「宗像三女神」の誕生です。

 次に須佐之男命が、天照大御神の勾玉によって、正勝吾勝勝速日天之忍穂耳(マサカツ アカツ カチハヤヒ アメノオシホミミ)以下の五男神を生み出しました。ここに、天照大御神の「子孫誕生」というミラクルがもたらされたのです。正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命は、のちに天孫として降臨する邇邇芸命(ニニギノミコト)の父で、現代に続く皇室の歴史に繋がる神です。そして次男以下の神々もまた、「出雲国造」「武蔵国造」はじめ中央・地方の氏族・豪族の祖神となりました。二神の「宇気比」は、その帰結として、国作りの次のステージに繋がる「伏線」を縦横に張り巡らしたのでした。

須佐之男命の乱暴、そして天の石屋戸

 「宇気比」の結果をうけ、須佐之男命は高々と勝利宣言しました。ついでその勢いのままに、天照大御神の神聖な田んぼ「営田(つくりだ)」を破壊し、収穫の秋祭りの斎殿「大嘗聞こし召す殿(おおにえきこしめすとの)」を穢しました。須佐之男命は、天上で最も神聖な「稲作りと祭」を台なしにする「天つ罪」を犯し、高天原を大混乱に陥れたのです。荒ぶる弟神を畏れた天照大御神は、「天の石屋戸(あめのいわやと)」に身を隠します。 「日の大神」として世界に秩序をもたらしていた天照大御神が、その姿を隠したことによって、天上も地上(葦原の中つ国)も「暗黒と混沌」の中に閉ざされてしまいました。その結果、諸々の災いが次々に起こり、ついにこの世界は滅び去るかに見えました。

 このカタストロフィに際して、天上の八百万(やおよろず)の神々が立ち上がります。神々は、全員参加で大御神復活のためのミーティング「神議り(かむはかり)」を開き、「所役分担(役割分担)」を行います。まず知恵第一の神、思金命(オモイカネノカミ)が、天照大御神を引き出す作戦を考えました。ついで伊斯許理度売命(イシコリドメノミコト)が「八咫の鏡(やたのかがみ)」を、玉祖命(タマノオヤノミコト)が「八尺の勾玉(やさかのまがたま)」を製作しました。皇室ゆかりの「三種の神器」、その「鏡」と「勾玉」のおこりです。

 いよいよ神々総出の「お祭り」が始まります。まず布刀玉命(フトダマノミコト)が大真榊に飾りつけた「勾玉」と「八咫の鏡」を幣帛(みてぐら)としてご神前に奉りました。ついで高天原一の美声の持ち主、天児屋命(アメノコヤネノミコト)が大御神のお出ましを願う祝詞を奏上しました。

 最後に舞の名手、天宇受売命(アメノウズメノミコト)が登場し、神がかりの神楽舞を舞い狂いました。それを見て、八百万の神々の大笑いが起こります。絶体絶命のピンチを、天地に轟く「爆笑」パワーで乗り越えようとしたのでした。こうして天上の神々の心を一つにした「祭り」と「祈り」を承け、天照大御神が完全復活しました。天上・地上に光が漲り、世界は再び甦るに至ったのです。

「天の石屋戸」二宮昌世(125期神道文化学部卒業生)(作品の転載はご遠慮ください)

神々のチームワークがもたらした天照大御神の復活

 わが国最初の「祭り」によって、天照大御神は石屋戸からお出ましになり、偉大な日の大神として生まれ変わりました。当初、天照大御神は、須佐之男命の荒ぶる振る舞いになすすべもなく、天の石屋戸の中に引き籠り、世界を混乱に落としいれてしまうような未熟な神でした。天の石屋戸の物語は、大御神が「天上の主宰神」「光の大御神」として、ステップアップするに至る物語です。それはまた、天照大御神の子孫を戴くこの国の「秩序」のおこりを伝える物語でもありました。
 天照大御神を石屋戸から引き出すために、天上の神々が行ったことは、各々の得意分野を活かすこと、一緒に祈り、一緒に笑うことでした。困難と苦しみが大きいほど、再生に向けた祈りはいよいよ深くなります。復興に向けて全員が一心に行動するとき、それが日本人にとっての「お祭り」になるのです。「天石屋戸の物語」は、「出口のない暗黒」に迷い込んでしまった時、私たちがどうすればよいのかを教えてくれます。(つづく)

●『古事記』講読の受講生の声

  • 天照大御神を岩窟から引き出そうとするとき、その大きなきっかけは神様たちの「笑い声」であった。笑うことが、人々の希望の光に繋がるということが、神々の時代から知られていたのだ。 
  • 「天の石屋戸」伝説は、今の日本人が直面している困難、乗り越えなくてはならない試練を暗示しているように思えました。困難を前ににして、なすすべもなく絶望するかもしれません。でもそんなときこそ、八百万の神々のように、誰かの手を力強く引っ張る側の人間になりたいと思いました。

※武田教授担当授業での受講生のコメントをもとに再構成

武田 秀章

研究分野

神道史、国学史

論文

「御代替りを考える」(2020/03/24)

「明治大嘗祭再考―祭政と文明と-」(2019/11/15)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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