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ちっちゃな頃から古墳好き 古墳が遊び場だった考古女子は今もひたすら土を掘り発掘に夢中!

シブヤの"沼"学

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文学部史学科 神澤 郁美 さん

2022年4月22日更新

 令和3(2021)年8月、長野県安曇野市にある穂高古墳群からオンラインで行われた國學院大學の発掘調査現地説明会で、F9号墳第1トレンチ※1の中に入って元気に報告をする女学生がいた。史学科の神澤郁美さんである。
 「この第1トレンチはF9号墳の前に位置しているトレンチになります」
 表情はとてもイキイキして楽しそう。実際、神澤さんは「発掘調査しているときがいちばん楽しい」と言い切る考古女子なのである。

 

そもそも考古学に興味を持ったきっかけは?

 「私は群馬県出身で、家の近くにあった大室古墳群が小さい頃からの遊び場でした。そんな土地柄ですから、小学校でも古墳についての授業がありました。古墳っておもしろいな〜と興味を持ちはじめた頃、親が休みの時に博物館に連れて行ってくれ、さらに興味を深めてくれたんです」

 それでも子どもの頃の「好き」が大人になってまで続くことはあまりない。神澤さんはどのように興味を持ち続けられたのだろう。

 「決め手は中学校の自由研究で、古墳をテーマにしたことかもしれません。調べることはできても考察することはできず、古墳について書かれた本や資料をまとめただけの発表になってしまったんです。自分としては「これでは『自由研究』の『研究』はできてないじゃないか、悔しすぎる!」 という思いでいっぱいだったんですね。考察までするには、専門の勉強をする必要があると実感しました。それが、考古学コースに進む遠因になったのかも」

 そんな神澤さんだからてっきり部活動も歴史研究部のような部に所属していたかと思いきや、中学、高校を通して夢中になっていたのは陸上だった。

 「短距離走の選手として、かなり熱心に活動していました。体育系の大学へ行こうかと考えたぐらいです。でも、心のどこかに考古学への思いはありました。よく考えると、陸上部に入った理由の中に『将来、考古学の調査に参加するときには体力が必要だから鍛えよう』という気持ちもあったと思います」

 進路を考える時期に、最終的にはやはり子どもの頃からの夢だった考古学の道を選んだ。両親も「体育系の大学に行くよりは考古学のほうが向いている」と応援してくれたという。
 ではどの大学を受けるか。その時に神澤さんが「譲れない条件」にしたのは実習である。

 「考古学を学べても、発掘実習がない大学もあります。私は絶対に自分で発掘をしたかったのです。國學院大學を受けたのも、発掘実習があるのを知っていたからです」

 

初めての発掘調査は超充実!

 そして平成30(2018)年、晴れて國學院大學文学部史学科へ入学。まだ発掘の実習がない1年生のときから先輩や教授に直訴して調査に参加させてもらった。初めて行ったのは、國學院大學がこれまで調査してきた長野県安曇野市の穂高古墳群である。

 「感想ですか? もう、とにかく“楽しい!”しかなかったです。毎日が充実して、もっともっと考古学を学びたいという気持ちが強まりました!」

 初めての調査について語ると今も目がキラキラ輝く神澤さん。とはいえ、楽しい一辺倒ではもちろん、ない。

 穂高古墳群の調査は夏休みに行うので、真夏の暑さと戦いながらの作業となる。調査はどんなふうに行われるのかというと、まず調査区の設定や図面作製を行うための基準杭の位置を、測量機器を用いて確認し、掘るところからがスタートだ。


本学考古学研究室の調査は、故吉(土に口)田恵二教授の計画策定をに基づき、平成21(2009)年度に開始。以降、13年にわたって調査を行っている。珍しい出土品も多数。

 

 草が生えていたり落ち葉がかぶさっていたりする土地なので、それらをきれいに取り除く。大掛かりな調査の場合、ユンボ※2などの機械を使って掘ることもあるそうだが、穂高古墳群では調査隊が人力でスコップ等を使って掘っていく。この時にかき出した土を袋に入れて保管し、埋戻しの時に使うのだという。そう、この古墳調査は掘り出して調査したらまた元の地面に戻すのである。もちろん、やみくもに土を掘るのではなく、かなり神経を使い集中しながらの作業となる。

 「どんな地層になっているのかを知ることで、かつての地形が分かることもあります。遺構がある場所の土の色が、ほかと違っているということなどは重要な情報なので、きれいな地層断面になるように意識して掘らなければいけません。集中力が必要です」


 実習地である穂高古墳群の現地説明会での神澤さん。令和3年はオンラインでの実施となった。

 

 暑さは容赦なく体力を奪い、参加者はうちわや携帯用扇風機を持参したり、首を冷やすタオルを巻いたりと猛暑から身を守った。神澤さんも汗まみれになりながら、それでも一度も音を上げることはなかった。ひたすら作業に没頭する毎日だった。

 
右)「作業着もあった方がよかったですね・・・」と神澤さん。発掘のときはいつも汚れてもいい作業着を着用。
左)愛用のポーチは発掘作業の必需品でいっぱいに。

 


ポーチの中身を一挙公開。右端の測量野帳は「ヤチョラー」と呼ばれる愛好家がいるほど、フィールドワークに最適のノート。

 

 遺構を掘り出したらあわせて遺物を探し、見つかった場合はすぐに取り出さず、どの場所で何が見つかったかを、自身の野帳に図で描いたり、撮影したりして記録する。その後、遺物を壊さないようていねいに掘り出し、宿舎に帰ったら撮影する。出土した遺物の撮影やナンバリング、拓本取りなどの記録作業が夜10時過ぎまで続く。これを10日間繰り返すのだから、体力自慢の神澤さんも最後の数日はへとへとだったという。それでも好奇心や楽しさは最後まで消えなかった。

 「やっぱり調査、土を掘り返しているときがいちばん楽しいです。『いま、自分が掘っているのはどういう土なんだろう、もしかしたらここでかつて生活していた古代の人たちを知る重要な土かもしれないな』とか、『ここにもかつて人が住んでいたんだなぁ、あ、ここで土器を捨てちゃったんだ、あ、ここにお墓を作ったんだ。それはなぜなんだろうなあ』と考えたり……。そもそも重機がない時代の人たちにとって、家やお墓を作るのはすごく大変だったはず。掘るのがこんなに大変なんだから、土を盛るのは一苦労だっただろうと思います。そんな想像をしながら掘るのが本当に楽しいんです」

 モノからいにしえの人々の生活を想像し、考察していく。幼い頃から知りたかったことを追求していく楽しさに、神澤さんは夢中なのだ。

このおもしろさを人に伝えられたら

 しかし発掘の実習が始まる2年生に進級したとき、思いもよらなかったことが起きた。新型コロナウイルス感染症の拡大で、調査が中止になったのである。これからが本番なのに……。しかし神澤さんはめげなかった。

 求人媒体に掲載される発掘のバイトに応募したり、教授や全国の博物館や自治体の文化財を扱う部門に在籍している國學院大學のOB、OGから現場を紹介してもらったり、自分から「この自治体は発掘調査をしている」という現場を調べて、電話で「掘ったことがあるので参加させてください」と売り込んで、現場での経験を積んだ。まさに考古女子の面目躍如である。

 そんな1年が過ぎ、3年生になったとき、感染対策を万全にしたうえでの穂高古墳群調査が再開された。その様子はYouTubeにアップされているオンライン現地説明会で見ることができる。神澤さんだけではない。参加者それぞれが、遺構や遺物から何かを読み取ろうと必死かつ楽しみながら一体となって調査をしていることが伝わってくる。夏休みの調査終了後、持ち帰った遺構の実測図やデータ、遺物などの整理作業もまた、教員や上級生の指導のもと発掘調査に参加した学生を中心におこなわれた。


成果をまとめた発掘報告書は令和4年2月に刊行された

 

 「遺跡や遺物からなにかを読み取っていくという考察の作業は、簡単にできることではありません。発掘調査や調査後の整理作業に取り組む中で、遺構や遺物を調査した際の所見を正確に把握し、情報を誰もがわかるように報告することで多くの人々が考察し研究出来ると考えるようになりました。中学生の頃に出来なかった「考察」を出来るようになりたい、という気持ちはもちろんあります。しかし、まずは「考察」必要な材料を適切に整理し、扱う方法を教わりました。パソコンとにらめっこしながら、古墳を一緒に掘った仲間と報告書を作る作業は苦しいこともありましたが、とても楽しいものでした。
 いよいよ4年生。神澤さんは、将来どのような道に進みたいと考えているのだろうか。

 「いろいろ考えても、結局は『歴史に関する仕事がしたい』という中学時代からの夢に戻るんです。同じような興味を持つ人と切磋琢磨して勉強し続け、自分がいま感じているようなワクワクを、どんな人にも味わってもらいたい。この楽しさを人に伝える仕事ができたらと思っています。もう少し専門性を高めるために大学院に進学したいと考えています。進学するための勉強も進めなければなりません(笑)」

 博物館の学芸員や自治体の文化財を扱う部署の職員ということになるのだろうか。専門職に就くことへの意志が強まったという。
 どのような道を選択するとしても、発掘から得られる喜びやときめきは、神澤さんをこれからも明るい光の差す方向へ導いていくに違いない。

 

※1 トレンチ: 試掘坑
※2 ユンボ:  油圧ショベル、パワーショベル

【参考】「2021/8/12 穂高古墳群発掘調査〈オンライン現地説明会〉」https://youtu.be/vUu6xJI3WNg (國學院大學博物館 Online Museum)

取材・文:有川美紀子 撮影:押尾健太郎 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

 

 

 

 

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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