射撃部に所属する小林直人選手(史4)が、昨年9月に埼玉県内で開催された「平成29年度関東学生スポーツ射撃選手権大会秋季大会」の50mライフル伏射60発競技男子個人で準優勝を飾り、学生部長賞を受賞した。日本ではマイナースポーツとして見られがちな射撃競技だが、小林選手は初心者として大学から新たに競技を始め、4年間のひたむきな努力を結実させた。精神力が求められる競技で自分自身とひたすら向き合い続けながら成長を遂げた小林選手に、競技を続けていく上での苦労や競技の魅力を聞いた。
引き金を引く楽しさと難しさ
――射撃競技を始めようと思ったきっかけは何ですか。
小林選手(以下、小林)…中学ではソフトテニスをしていました。高校では特にスポーツをしていなかったのですが、大学に入ったら何かを始めたいと漠然と考えていました。そんなとき、テレビのドキュメンタリー番組で、ある高校の射撃部の活動が紹介されているのを見て、銃を構えて集中している姿を魅力的に感じました。心を落ち着かせて標的を狙うという競技の特性にも興味を持ちました。大学から始める人も多いので、スタートラインが同じなら新しく始めても上位を狙えるのではないかと考えました。ただ、個人で始めるにはハードルが高いので、入部することにしました。
――練習はどのようにしているのでしょうか。
小林…練習場所の神奈川県立伊勢原射撃場(神奈川県伊勢原市)に週1、2日、通っています。射撃場では1日50~100発程度を撃ちます。射撃場に行けない日は、バランス感覚や自分の体、銃を支える力をつけるための体幹トレーニングやイメージトレーニングをしています。
――かなりの費用がかかるのではないですか。
小林…覚悟していたとはいえ、大変です。銃は部の所有物を使っているので助かるのですが、付属品は1個数万円単位です。銃には技術革新があります。命中の精密度は技術革新が直結しますから、他大学の選手と対等に勝負するためには必要な経費です。他にも、体を安定させるために着るコートは十数万円、実弾は高い物で1発60円くらいします。銃の所持許可などにも一定額が必要です。初期投資で30万円程度、射撃場での練習は雑費を入れると1日5000~6000円はかかっています。金銭面から、射撃場で練習できるのは週1、2日が限界なんです。
――費用はどのように捻出しているのですか。
小林…アルバイトです。飲食店でウエーターをしています。週4、5日で、授業がない日は1日働くこともあります。授業とアルバイトの合間に練習をしている感じです。特に4年の5~6月は春季大会と就職活動、教育実習が重なり、実習中は練習ができず、就活中は気持ちにも余裕がなくなり、しんどかったです。
――日本では銃規制が厳しいこともあり、射撃競技は一般的なスポーツとはいえません。苦労もあるのではないですか。
小林…スポーツとしての射撃がどのようなものか認知されていないのが実情です。銃を所持することを快く思わない方がいたり、BB弾を用いたソフトエアガンなどと混同されたりすることもあります。マイナースポーツな上に銃や射場設備にも法的規制が多いので、環境面や資金面での支援をいただくことも難しくなっています。また、銃の所持許可の申請も複雑で、未経験の人に競技の魅力を伝えることが難しく、競技普及や部活への勧誘のハードルも高いです。
――競技としての難しさは、どんなところでしょうか。
小林…始めて感じたのは、想像以上に繊細な競技だということです。射撃という競技は「意思のスポーツ」だと思うんです。標的を狙って静かに引き金を引くというシンプルな動作のなかに、練習不足や心の乱れ、迷いがあると成績に如実に表れてしまいます。それから、個人競技なので自分の感覚によるところが大きいことです。力が入ってはいけない競技なのですが、力が入っているかどうかは自分にしか分かりませんから、自分の感覚で最適なフォーム(撃ち方)を見つけるのはすごく難しいです。結局、最後は自分で考えなければなりません。僕は日本学生ライフル射撃連盟で幹事長を務めていることもあり、他大学の選手に多くの友人がいます。たくさんの経験者から、どういう視点で練習や試合に向き合っているかについて話を聴くようにしています。聴いたことを取捨選択したり、自分に合うように改良したりもします。これをすれば必ず当たるようになるという答えはありませんから、なるべく視点を増やすようにしています。
繰り返すことで身に付いた自信
――射撃競技には極度の集中力が必要とされます。練習で工夫していることはありますか。
小林…集中力には限界があるので、集中しないでできることをどれだけ増やせるかにかかっていると考えています。ですから、反復練習によって体で覚えていられることをいかに増やすかを意識しています。ミスショットを受け入れることも大切で、今すべきことに集中するよう心がけています。
――ルーティン(決め事)はありますか。
小林…ルーティンは大事です。銃を置いて弾を込め、体に銃を置いて呼吸を整え、最後にサイト(照準器)をのぞいて引き金を引く。この一連の動作でペースを崩さないようにしています。動作のペースが崩れると、気持ちのペースも乱れてしまうからです。それから、練習や試合前の試射では、空撃ちを必ずします。点数を気にせずに姿勢をチェックするためで、空の薬莢(やっきょう)を込めて引き金を引くんです。こうすることで、心を落ち着かせることもできます。
――印象に残っている試合はありますか。
小林…やはり、準優勝した昨年秋の関東大会決勝です。決勝はミスショットをした選手から脱落していきます。スリルがあり、サドンデスのような雰囲気もあるので、会場での注目度が高いんです。他大学の友人も応援してくれて、うれしかったです。
――関東大会では上位8人中6位で決勝へ進み、準優勝を勝ち取りました。何が原動力になったのでしょうか。
小林…実は、決勝当日(9月16日)がちょうど誕生日でした。競技を始めてからの一貫した目標が「学生時代に決勝に出る」でしたから、初めて決勝に出られて「最高の誕生日だなあ」ってリラックスしながら撃っていました。それで、だいぶ落ち着いて臨めたのだと思います。ただ、試合中は本当に集中していたみたいで、終わった瞬間にどっと疲れを感じました。
――射撃競技を続けてきて、自分が変わったと感じることはありますか。
小林…中学、高校時代は自信なく過ごしてきましたが、自分のしてきたことに自信を持てるようになりました。すべきことをして事に臨むという姿勢が身についたと思います。無駄な時間を過ごさなくもなりました。明らかに大学で成長できたと感じています。それから、緊張は必ずしもネガティブなことではないんだと思えるようになりました。緊張感を持って臨むからこそ、大事に競技ができるんだと、今は感じられます。射撃は個人競技ではありますが、競技面だけではなく、学連の活動などを通じ、人との関わり合いでも人間としての幅が広がったと、自分の成長を感じています。
――射撃競技の魅力は何ですか。
小林…緊張感などの感情を上手くコントロールして、集中する感覚が楽しいです。本当に集中しているときは的がハッキリと見えて、意識と無意識の間で身体が勝手に動くような感覚になります。これは他では味わえない射撃ならではの魅力だと思います。
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【50mライフル伏射60発競技】ライフル射撃競技の1種目。スモールボア(小口径)ライフルと呼ばれる22口径(口径5.6ミリ)の競技用火薬銃を使い、床に伏せた姿勢で50m先の標的を狙う。50分の競技時間内に60発を撃ち、満点は654点(10.9点×60発)。決勝は最大24発を撃ち、下位の選手から負け抜けしていき、最後は1、2位の選手が対決する。伏射は最も安定した姿勢で点差が開きにくいとされ、徹底した精密度が求められる。標的の直径は1点圏154.4ミリ、10点圏10.4ミリ、中心のX圏5ミリ。弾の通過位置をセンサーが瞬時に検出して点数をモニターに表示する電子標的と、紙標的がある。