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地方の交通を変えるために「住民」は何をすべきか(連載第5回・最終回)

公共交通が地域経済や子どもの未来を担うという意識

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フリーライター 有井 太郎

2020年3月9日更新

路線バスの廃線が相次ぐなど、地方交通の衰退が顕著になっている。それらの解決策として、LRTやデマンド交通といった最新の交通手段、あるいは市町村主導での交通再編が可能になるなど、解決に向けた動きは出ている。

「地方の交通を復活させる手段は、少しずつ揃ってきていると感じます。しかし、交通の変革は大事業になり、多額の税金がかかります。反対意見により進まないことも多いでしょう。となると、その地域の交通がよみがえり、街に活気が溢れるかは『地域の住民の意思にかかっている』とも言えるのです」

 このように話すのは、行政法をベースに地域交通を研究する國學院大學法学部の高橋信行教授。道路行政を軸に交通の変遷をたどってきた本連載、最終回の今回は地域交通の未来における「住民の役割」を考える。

➢前回の記事「地方の「負のスパイラル」、宇都宮のLRTで救えるか」

國學院大學法学部教授の高橋信行氏。東京大学法学政治学研究科博士課程修了(公法)・行政法専攻。今まで、警察庁の第二種免許制度に関する有識者会議や高齢者講習に関する研究委員会などに参加し、現代の道路行政に関する問題へ研究者としての知見を提供してきた経験を有する行政法の専門家。

都市部でも行われている「交通の再編」

――前回までのお話で、地方を中心に交通が転換期にあることや、実際に行われている再編事業について伺いました。

高橋信行氏(以下、敬称略) 実は、再編を迫られているのは地方だけではありません。たとえば、これまでにお話しした「デマンド・バス」は、都市部にも取り入れられ始めています。

――都市部は公共交通も充実しており、不便がないイメージでした。どういったことでしょうか。

高橋 一例として紹介したいのが、東急田園都市線たまプラーザ駅(神奈川県横浜市)近くの住宅街で実験運行されたデマンド・バスです。

 このエリア一帯は、1960~1970年代に急激な発展を遂げ、住宅街として多くの人が移り住んできました。結果、住民の高齢化が顕著になっています。同時代に移り住んできた人が多い郊外の住宅地も似たような傾向にあります。

さらにデマンド・バスを取り入れた背景に関係するのが、このエリアの地形です。たまプラーザ駅周辺は丘陵地帯で、ちょうど“谷底”のような場所に駅が立地しています。駅から家に帰る際、谷底から丘を登るルートになりやすいのです。高齢の方にとっては、徒歩での移動が厳しくなりますよね。

――これまでにバスなどの交通手段はなかったのでしょうか。

高橋 もちろんありました。しかし、路線バスでは非常にロスの多いルートだったと言えます。時間とルートを決めて走る路線定期運行では、日中の乗客が少なく、またバスの事業者も人員をそこまで割けず、本数を削らざるを得ません。一方、高齢者はより家の近くまで送迎できる交通手段を必要としています。

 そこで、デマンド・バスの実験が始まったのです。このように、交通網の再編が迫られているのは地方だけに限りません。多くの地域にとって切迫した問題です。

――そういった課題の中で、地域交通を再編する際のポイントは何でしょうか。

高橋 以前話した法改正(地域公共交通の活性化及び再生に関する法律)により、市区町村などの自治体がイニシアティブをとって交通網を整備できるようになりました。しかし、それは「各自治体に任せられた」とも取れるわけで、今後、意欲的な自治体とそうでない自治体で大きな差が生じると感じています。

 特に地方は、交通の衰退が地域経済を悪化させ、人口流出につながるという「負のスパイラル」に直面しつつあります。より状況が悪化すれば何をしても手遅れになりかねません。余力のあるうちに交通網の再編をすべきです。

 しかし、交通網の再編事業はとにかく大掛かりです。当然、税金を投入するケースがほとんどですので、住民の意思が成否を大きく左右します。これこそが、今後の交通を考えるポイントではないでしょうか。

住民の意識によって「町の発展が変わる」
交通不便が人材流出につながる。地方の「負のスパイラル」とは

――確かに公共交通の見直しは、多くの場合で「住民の支持を得られるか」という問題が発生しますよね。もちろんその裏には、これまでの公共事業の失敗や不信感もあると思いますが。

高橋 そうですね。以前紹介したストラスブールや宇都宮でも、反対の声は多くあったと言われています。

しかし、多くの地域は負のスパイラルに突入する直前まで来ています。その中で住民が交通網再編にどんな意識を持つか。もちろん住民の支持を得られなければ事業は進みませんから、一人一人の意識によって町の発展が変わると言っても過言ではないかもしれません。

――逆に行政からすれば、住民への意識の浸透も大切な仕事になりそうです。

高橋 そうですね。これだけ高齢化が進み、自力での移動が困難な人が増えると、公共交通に対する人々の考え方を変えていく必要もあると思います。たとえばストラスブールのLRTは成功例の代表ですが、LRTの事業自体は決して採算性がよくありません。運行費用のかなりの部分は自治体が負担しています。しかし、それを上回るメリットを町全体に与えています。

フランスのストラスブールのLRT

 となると、交通網を整備する際に、住民は交通事業単体の採算性を見るのではなく、もっと広い視点で町全体の経済、あるいは自分の親世代や子どもにとってプラスになるか、豊かな暮らしになるかという点まで見るべきかと思います。すべての世代が移動しやすく、気軽に外に出られることが「良い暮らし」ならば、それをつくるために、公共交通を稀にしか利用しない人も含めた全世代である程度の負担をして、公共交通を維持するのが大事だと。

 なかなか難しいことですし、まだ移動に不便のない世代は自分ごととして捉えにくいのも事実です。しかし、この意識を今から持たないと、地方の今後は厳しくなると思います。

コンパクトシティが厳しい現実。都市開発とリンクした交通再編を

――ちなみに、交通問題を解決する文脈でも「コンパクトシティ」の必要性を説く声が多いと思います。こちらについてはどう考えますでしょうか。

高橋 もちろん、コンパクトシティを実現できれば、移動の課題解決につながるでしょう。住民の生活エリアを分散させず、なるべく近距離にまとめることで、公共交通の維持や移動面のメリットが生まれます。

 ただ、コンパクトシティの実現は簡単ではないでしょう。なぜなら、日本の都市計画は開発に寛容だからです。

――どういったことでしょうか。

高橋 たとえば地方で新たな施設を作る際、まだ未開発の地域にゼロから施設を建てることが多いですよね。今までの市街地を再開発するより、それまで大きな施設のなかった場所に新しく何かを建てる。すると、その施設の周りにまた新しいお店が増え、やがて“新市街”が生まれます。

 昔からの旧市街は空洞化し、離れた場所に新市街地ができます。この流れは街の分散を生み、コンパクトシティとは逆の流れになりやすいでしょう。

土地開発を担う側からすると、大都市であれば、大きなコストをかけて既存の施設を解体し、再開発を行っても採算は取れますが、地方ではそうもいきません。再開発にコストをかけるなら、何もないエリアへの新規開発を選択します。

 そういったことを考えると、コンパクトシティの実現もそう簡単にできるとは考えにくい。実際、新施設が郊外にできたことで、旧市街が空洞化した例は今もたくさん見られます。

――となると、ある程度分散した街をつなぐ交通を再編していくしかないですね。

高橋 それが今の時点での現実的な目標ではないでしょうか。とはいえ、もちろん交通再編と都市計画は密接な関係があります。国も、地域公共交通の活性化及び再生に関する法律において、交通網整備と都市計画はリンクしなければならないと定めています。セットで考えなければなりません。

 どんな方法論が正解かは簡単に出せませんし、地域ごとに違うでしょう。しかし、いずれにしても地域の交通網再編と都市のあり方は、今考えるべき喫緊の課題だと思うのです。

ですので、地域住民のみなさんには、この問題を他人事とは捉えないで、自分たちの生まれ育った街を今後も守り続けるためにはどうすればよいか、という観点から見てほしいと思います。特に、普段から自家用車を使っている方には中々意識できないと思いますので、一度「車の無い生活」を試してみるのも良いかもしれません。とんでもなく不便な思いをすることになりそうですが、その不便さに気付くということが、問題解決の第一歩になるはずです。

(おわり)

研究分野

公法(行政法)

論文

「1962年憲法改正とルネ・カピタン」宇賀=交告編『現代行政法の構造と展開 : 小早川光郎先生古稀記念』 (2016/09/01)

原子力行政と透明性 : フランス原子力情報公開と地域情報委員会(CLI) (2015/08/01)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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