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「第二種免許の規制緩和」がどうしても必要な理由(連載第2回)

進行する二種免許の法改正、その背景を考える

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フリーライター 有井 太郎

2020年1月21日更新

モビリティ分野では、テクノロジーの進化とともに、法律の改正も近年盛んになっている。なかでも直近で動いているのが「第二種免許の規制緩和」だ。

「第二種免許は、タクシーやバスなど、営利目的で運転するドライバーに必要な免許。その取得を緩和する議論が進んでいます。背景にあるのが、高齢化による人手不足。自動運転などのテクノロジーと同様、やはりこの課題から法改正が検討されています」

 こう説明するのは、行政法を研究する國學院大學法学部の高橋信行教授。具体的に、どんな理由で規制緩和が行われるのだろうか。警察庁の有識者会議にも出席する同氏に、法改正の側面からモビリティの最前線を聞いた。

➢前回の記事「高齢ドライバー問題、日本の法律はこう変わってきた」

國學院大學法学部教授の高橋信行氏。東京大学法学政治学研究科博士課程修了(公法)・行政法専攻。今まで、警察庁の第二種免許制度に関する有識者会議や高齢者講習に関する研究委員会などに参加し、現代の道路行政に関する問題へ研究者としての知見を提供してきた経験を有する行政法の専門家。

年齢と運転年数を引き下げ、講習を追加

――前回は、高齢者を対象とした第一種免許(普通免許)の法改正についてうかがいました。今回は、第二種免許の話を聞きたいと思います。

高橋信行氏(以下、敬称略) 二種免許は、一種免許と比べて取得までに厳しい条件が課せられています。旅客を乗せたり、料金を取ったりするのですから、当然と言えるでしょう。ただし、この取得条件のうち、受験資格について規制緩和の議論が進んでいます。背景には、やはり「高齢化」と「人手不足」の問題があります。

ーーどういったことでしょうか。

高橋 はじめに、現行の受験資格を説明しましょう。まず、「21歳以上」という年齢要件があります。加えて、一種免許を取得してから「3年間」の運転経験が必須です。この条件を満たすと受験資格を得るので、次に筆記試験と技能試験それぞれに合格する必要があります。

 試験を受ける際は、事前に教習所へ通い、二種免許用の教習を受けるケースが一般的です。教習所に通わず、直接試験を受けるのも可能ですが、二種免許の難易度は高く、全体の合格率を見ても40%台。一種免許の合格率は70%台ですから、ハードルが高いことが分かります。

 何回目かのチャレンジでようやく合格するケースも多く、敷居の高い資格と言えるでしょう。

「運転免許統計 平成30年度版(警察庁交通局運転免許課)」より抜粋

――それがどう変わろうとしているのでしょうか。

高橋 今話し合われているのは、受験資格の年齢要件と経験要件を緩和することです。年齢を「19歳以上」に引き下げ、運転経験も「1年」に短縮する。ただし、単純に緩和するだけでは、二種免許に必要な技能や経験を担保できるかリスクがあります。そこで、特別な講習を設けた上で、この講習を受けた人に受験資格を緩和する方向で動いています。

 先ほど話したように、二種免許を取る場合、通常は教習所で二種免許用の講習を行い、試験を受けます。今回の案では、受験資格を緩和するための特別な講習を追加します。その講習はかなり長時間で高度なものになる予定です。規制は緩和しつつ、合格者のクオリティに配慮する形です。

 すでに警察庁の有識者会議では、検討がかなり進んでいます。早ければ来年には法律が改正されて、おそらく1~2年後に施行となるでしょう。

交通事業者が頭を抱える、若手採用の「空白期間」

――この改正の裏に、人手不足や高齢化が関連しているのでしょうか

高橋 はい。たとえばタクシーの場合、大都市圏では慢性的に運転手が不足している状況です。タクシー会社が保有する車両に対して、ドライバーが足りない、車両が稼働していないケースも出ている。そこで運転手を増やしたいという要望があります。

 また、観光バスや路線バスも、インバウンドにより需要が増加しています。数年前、バス運転手の過密勤務が問題となりましたが、適切な運行スケジュールで回すには労働力が足りなくなっています。近年、タクシーやバスの運転手の賃金が上昇傾向にあるのは、労働力確保の意味合いもあります。

 加えて、タクシーもバスも運転手の高齢化が顕著です。歯止めをかけて若返りを図りたいのですが、ここでネックになるのが先ほど説明した二種免許の受験資格です。

――どういうことでしょうか。

高橋 21歳以上、かつ3年の運転経験が必要となると、たとえば高校を卒業したばかりの18歳を企業が採用しても、21歳までは二種免許を取れず、タクシーやバスの業務につけません。運転以外の業務に従事することとなります。企業にとってはここが課題ですし、雇用される側も、二種免許を取るまでモチベーションを保ち続けるのは難しいかもしれません。

 その結果、タクシー会社やバス会社に若い労働力が集まりにくくなっています。今回の規制緩和は、若返りを図るという意味合いがあるのです。

実際、労働力の若返りは、運送の安全を確保する上でも重要でしょう。一種免許における高齢ドライバーの問題と同様で、高齢化が進むことは安全の面で望ましくありません。企業としては、若い人材を採用して長く雇用していきたいのです。

年齢引き下げによる「不安」をどう解消するか

――そういった課題感が規制緩和の動きにつながったのですね。

高橋 はい。もともとは、内閣府の「規制改革推進会議」からの提案でスタートしました。この会議は、各業界のさまざまな規制を審議しており、警察庁に二種免許の規制緩和が提案されました。当然、それまでにタクシーやバスなどの業界から声が挙がっていたのでしょう。

 この提案を受けて、警察庁で検討を開始しました。私もその過程に参加して、どのように緩和するか話し合っていきました。

 規制緩和を考える上で、一番課題となったのは合格者のレベルをどう維持するかです。二種免許は人を乗せて運ぶ、あるいはお金をもらう事業ですから、当然、運転技術は高いものが要求されます。

 技能だけでなく、精神力もポイントです。人を乗せるので、精神的な安定、冷静な判断や思考が求められるでしょう。その点で、年齢要件を引き下げることに問題はないのか、懸念する声もありました。

 これらの不安を解消する意味で、かなり厳しい形での特別講習を設けたのです。

――年齢要件についても、相当慎重に進めたのでしょうか。

高橋 そうですね。20歳以下の方に特別講習の模擬体験を受けてもらい、技能がどれだけ向上したか、効果測定を行いました。その結果から効果を実証できたので、ほぼ骨子が固まった形です。

ーー前回うかがった一種免許の高齢者講習といい、今回の話といい、モビリティにまつわるトピックは「高齢化」や、それによる「人手不足」がキーワードになっていると痛感します。

高橋 そうですね。今回の話とは別に、地方や都市部の郊外では、行政が新たなモビリティ政策を多数行っています。やはりこれも、背景には高齢化や人手不足があります。

 たとえば路線バスは、人手不足や経営の難しさにより削減されるケースが増加。その一方で、生活者の中には運転できない高齢者が増えている。ますます“生活の足”を求めている現実があります

 その背反した状況の中で、行政を主体に新たな交通インフラが生まれているのです。次回は、その視点でお話をしたいと思います。

 

(つづく)

研究分野

公法(行政法)

論文

「1962年憲法改正とルネ・カピタン」宇賀=交告編『現代行政法の構造と展開 : 小早川光郎先生古稀記念』 (2016/09/01)

原子力行政と透明性 : フランス原子力情報公開と地域情報委員会(CLI) (2015/08/01)

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