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地方交通の「復活」を期待させる2つの潮流(連載第3回)

「デマンド・バス」と「市町村による公共交通網の再整備」

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フリーライター 有井 太郎

2020年2月25日更新

 地方のバスや鉄道といった「公共交通」の危機が取り沙汰されている。過疎化による利用者の減少で“廃線”になるケースも少なくない。それは、地域やそこに暮らす人々にとって死活問題となる。

「地方部の公共交通が衰退すると、高齢者、特に車の運転が難しい人たちは外に出る機会が減っていきます。それは健康や生活満足度を下げる要因になりますし、地域経済を考えても、消費機会が減るためマイナスです」

 こう指摘するのは、交通政策をはじめとした行政法を研究する國學院大學法学部の高橋信行教授。同氏は、上述の問題を解決するため「近年、新しい交通システムや法整備が進んでいる」と話す。詳しい内容を聞いた。

➢前回の記事「第二種免許の規制緩和」がどうしても必要な理由

國學院大學法学部教授の高橋信行氏。東京大学法学政治学研究科博士課程修了(公法)・行政法専攻。今まで、警察庁の第二種免許制度に関する有識者会議や高齢者講習に関する研究委員会などに参加し、現代の道路行政に関する問題へ研究者としての知見を提供してきた経験を有する行政法の専門家。

「デマンド・バス」は地方交通を救えるか

――公共交通を考える上で、避けては通れないのが地方部、特に過疎地域の現状です。最近は、廃線のニュースなどが相次いでいますよね。

高橋信行氏(以下、敬称略) そうですね。この連載の最初に話したように、高齢者の運転免許返納を促す動きは強まっています。しかし、地方部では車を運転できないと“足がない”という現実もあります。特に最近は、高齢者の重要な移動手段となる路線バスの廃線が相次いでいます。その中で、地域住民の移動手段(モビリティ)をどう確保するかが大きな課題です。

――私も地方の出身ですが、デパートに行くにも徒歩ではかなりの距離があることがほとんどです。

高橋 日本の地方部は、都市部と違い集落が点在・分散しているケースが多数です。スーパーや病院が10km先ということも珍しくありません。家族や近所の方が送迎してくれれば問題ありませんが、核家族化や近所付き合いが減る中では難しい面もあるでしょう。かといって、タクシーで往復すれば数千円はかかります。

 その結果、高齢者の外出機会が減少します。健康への悪影響や生活クオリティの衰退はもちろん、消費行動が減ることは地域経済にもよくありません。となると、いかに低いコストで移動できるか、その仕組みを作ることが地方部では急務となっています。

――何か有効な手立てはあるのでしょうか。

高橋 近年注目されているのが「デマンド・バス(デマンド・タクシー)」です。

 これは予約制の乗合バスで、幾つかの種類がありますが、例えば車両が走る大まかなエリアと運行の時間帯が定められています。といっても、従来のバスのように、決められたルート・時間をきっちり守るのではありません。「何時頃に〇〇エリアを走る」というレベル感です。

 利用方法は、デマンド・バスに乗りたい人が事前に「乗りたい便」と「乗る場所」「降りる場所」を伝えて予約します。例えば、乗る場所を「自宅」にすると、自宅まで車両がやってきます。

 “乗合”要素があるのはここからで、バスはエリア内を巡回して、同じ便を予約した人を順に乗せていきます。そして、目的地のエリアに向かい、今度はそれぞれの利用者が希望する場所で降ろすのです。

※茅野市ウェブサイトより抜粋https://www.city.chino.lg.jp/soshiki/chiikisenryaku/1075.html

――時間になると自宅まで迎えに来る上に、希望する場所まで連れて行ってくれるのであれば、これまでの路線バスより便利なイメージですよね。

高橋 そうですよね。ただ、複数の方の希望を合わせるので、たとえば自分の希望時間ちょうどに乗車できるとは限りません。一定の範囲内で乗車時刻が前後しますし、目的地への到着時間も、途中で乗る人が多ければ遅くなる可能性もあります。

 とはいえ、高齢者は時間に余裕のあるケースが多いでしょう。うまく使えば、時間が多少かかるのは大きなデメリットにならないのです。運賃も、路線バスと同じような価格帯、数百円代がほとんどです。近年、このシステムは非常に増えていますね。

非効率な交通網ができてしまった要因とは

――利用者のメリットはわかりますが、事業者の負担は路線バスに比べて軽減されるのでしょうか。

高橋 はい。従来型の路線バスは、運行ルートと運行時間が決められています。「路線定期運行」といい、過去においては、道路運送法では、原則としてこのような路線定期運行にしか事業免許が与えられていませんでした。自由に乗降場所や時間を選べるタクシー事業との「棲み分け」という意味もあったでしょう。

 しかし、過疎化が進む地域では、決められた時刻に決められたルートを運行するのは効率が悪くなります。少ない利用者しかいないのに路線定期運行を維持することは、バス事業者にとって大きな負担でした。

 そこで国土交通省は、10年ほど前からバス事業者のデマンド運行を許可するようになりました。事業者としては、利用者の状況に合わせて車両を出すので、負担が少ない。利用者のいない日は運行しませんし、車両や人員もその日の利用人数に合わせて調整できます。

 ちなみに国交省では、デマンド・バスを許可する中で、既存のバス路線やタクシー事業者に過度な影響を与えないよう取り決めています。

――法整備をきっかけに、デマンド・バスという新たな公共交通が登場したと。

高橋 そうですね。さらにもうひとつ、公共交通に関して大きな動きが起きています。これまで、地域の公共交通は国(国土交通省)と民間事業者が主体となって整備していました。しかし、この形式では、現在の地方における交通課題を解決しづらかったと言えます。

――どういうことでしょうか。

高橋 これまでの仕組みだと、バスの路線網は民間事業者が主体となって決めていて、国はそれに免許を与えるという消極的な役割しか担ってきませんでした。もちろん、地方自治体が採算のとれない路線に補助金を支給することも多いのですが、その役割は二次的なものでした。その結果、近隣エリアに複数の路線が引かれていたり、路線の重複が起きたり、あるいは、路線のない「空白域」ができる。効率の悪い交通網が生まれていたのです。

 同じ地域とはいえ、民間事業者がそれぞれ路線を開設するのでは、どうしても非効率な計画になります。そして過疎化が進むと、そういった非効率な路線は採算が悪くなってしまうのです。

 一方で、いくら採算の悪い路線でも、簡単には廃止にできません。その路線をなくせば利用者の移動手段が完全に途絶えるケースがありますし、先ほど述べたように、自治体からの補助金が出ています。結果、赤字のまま路線を続ける事業者が増えていきました。

市町村が主体になると、なぜメリットが生まれるのか

――この問題に対し、どんな動きがあったのでしょうか。

高橋 国や民間事業者ではなく、市町村が主体となってエリア内の交通網、路線計画を組み直せるようになったのです。2007年に施行された「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」です。

 今までのように民間事業者がそれぞれ計画するのではなく、市町村がイニシアティブをとって交通網を再整備する。すると、バラバラだった路線、非効率だった路線を、市町村がひとつの視点で整理・統合できます。そして、市町村が作成した再編計画に対し、民間事業者は原則協力する。加えて、国や地方自治体は補助金を出す。そういった法律がつくられました。

――結果、どのような整備が可能になったのでしょうか。

高橋 たとえばバスの既存路線について、利用者が少なく採算の取れない部分は廃止したり、路線が重複していた場所は必要がなければバスの本数を減らします。ただし、路線バスが廃止されたエリアには、デマンド・バスを設定して、交通空白域をなくします。他方で、市街地に近く利用者が見込めるところは路線バスの本数を増やして利便性を高めます。というように、エリア全体の人の動きや実態を見ながら、効率やバランスを重視した交通網を再編できます。

――その方が利用者の実態にあった交通網ができそうです。ただ、主体者となるのは市町村ですよね。行政の職員は地域交通の専門家ではないので、難しい部分もあるのではないでしょうか。

高橋 その点は考えられます。ですので、実際は地域の大学や研究機関、あるいは民間事業者と意見交換しながら整備していると言えます。国としてもここに懸念を持っていて、行政担当者を集めた説明会を手厚く行っていますね。また、全国の市町村における「事例集」をウェブサイトに掲載するなど、各自治体のノウハウ共有にも力を入れています。

 なお、こういった再整備では、必ずしも一方的に「路線をなくす」「ダウンスケールさせる」ことは得策ではありません。それは地域の民間事業者の経営を圧迫する可能性もあるからです。すると、かえって再整備がその地域に逆効果になることもあり得ます。

――詳しく教えてください。

高橋 地方部の交通事業者は、地域経済の重要な位置を占めています。当然、企業規模も大きく、そこに勤務する地元の方も多い。もし無下に路線を減らし、経営が厳しくなった場合、地域経済への悪影響もでてきます。交通を切り口に市民の生活を良くしようとしたものが、結果的に市民の生活を圧迫する可能性があるのです。バランスを考えながら再整備しなければなりません。

――なるほど。もしよろしければ、具体的にどんな再整備の事例があるのかうかがいたいです。

高橋 わかりました。特に大規模な計画が進んでいるのが、宇都宮市です。詳しい内容については、次回お話ししましょう。

(つづく)

研究分野

公法(行政法)

論文

「1962年憲法改正とルネ・カピタン」宇賀=交告編『現代行政法の構造と展開 : 小早川光郎先生古稀記念』 (2016/09/01)

原子力行政と透明性 : フランス原子力情報公開と地域情報委員会(CLI) (2015/08/01)

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