令和元年は、創部100年を迎えた國學院大學柔道部にとって歴史に残る1年だった。学生柔道の個人日本一を決める全日本学生柔道体重別選手権大会(以下、全日本学生)男子73kg級で、主将(当時)の島田隆志郎選手(健体4)が優勝。全日本ジュニア柔道体重別選手権大会(以下、全日本ジュニア)では男子66kg級で武岡毅選手(日文2)と新井雄士選手(史2)が決勝で相見え1、2位を占めた。武岡選手は世界ジュニアで準優勝にも輝いている。
1年次から国際大会で実績を残す相田勇司選手(法2)は、講道館杯全日本柔道体重別選手権大会(以下、講道館杯)で、坂本大記監督以来23年ぶりに優勝。世界の強豪が集まったグランドスラム大阪2019(以下、グランドスラム)ではリオデジャネイロ五輪のメダリストらを退け、3位に入る活躍を見せ、注目を集める。
男子柔道界で屈指の強豪が揃う66kg級。相田、新井、武岡の3選手は、くしくも同学年で同じ階級でしのぎを削り、さらなる高みを目指している。3人が胸に秘める令和2年の目標とは。

左から相田勇司選手、新井雄士選手、武岡毅選手
―――令和元年シーズンを振り返って
相田勇司選手(以下、相田) ものすごく大きく成長できた1年だったと思います。6月に行われたオーストリアジュニア国際大会で優勝し、運よくシニアの大会(グランプリタシケント、9月)にも呼んでもらい、優勝こそできませんでしたが、シニアの大会でも戦えるという自信がつきました。
講道館杯も優勝でき、グランドスラムにつなげられたという点では良かったのではないかと思います。ただ、準決勝で対戦して敗れた阿部一二三選手(日本体育大学)との差がありすぎたのが自分としてはショックでした。東京五輪の先を見据え、まだまだ時間はあるので追い上げ、追いついて、追い越すことができればと思ったのが1年の感想です。

グランドスラム大阪2019で3位に入った相田選手
武岡毅選手(以下、武岡) 一昨年までは60㎏級で戦っていましたが、階級を上げて挑んだ1年でした。減量がきつく、1年次に全日本学生柔道体重別団体優勝大会で、高校時代の先輩と対戦して敗れ、無理だなと思ったのが契機となりました。
全日本ジュニアで優勝できたのですが、講道館杯の準決勝で相田に負けたし(5位)、世界ジュニアでも勝たなければいけない試合(決勝)で負けて詰めの甘さが出てしまいました。
新井雄士選手(以下、新井) 全日本ジュニアには1年次に初めて出場しましたが、1回戦で敗れて悔しい思いをし、次こそは優勝しようと思って臨みました。しかし、決勝で武岡と対戦して負けてしまいました。全日本学生で優勝すれば国際大会につなげていくことができましたが、ここでも1回戦で敗れました。最後のチャンスである講道館杯も1回戦で負けてしまい、トータルで見たら負け続けたかなという感じです。全日本学生、講道館杯とレベルが上がるにつれて、自分は力が足りなかったのかなと思っています。

全日本ジュニア男子66㎏級決勝で対戦する武岡選手(右)と新井選手。武岡選手が技ありを奪って優勢勝ち
―――お互いの存在はどのように感じている?
武岡 高校時代から関東の大会で一緒に戦ったので、同じ大学に入り何かしらの縁があったのかなと感じます。
相田 武岡は階級を上げてきたばかりだし、出場する大会が重なればやはり意識していました。新井とは一昨年の東京都ジュニア大会でも戦っているので対戦するとなったら、2週間くらい前から練習しなかったりして手の内がばれないようにしていました(笑)
新井 試合の直前は、乱取りはしませんね。普通に話はしますけど。
武岡 講道館杯の準決勝で相田と対戦しましたが、対戦したくなかったです。
相田 (武岡選手とは)2年間一緒に練習をやってきましたけど、絶対に負けたくないという思いでした。一昨年の東京都ジュニア大会で新井と対戦した時も、講道館杯で武岡と対戦した時も同じで、対戦前は一切会話をせず、勝つためだけの準備をするという感じです。試合の後は勝っても負けても気まずさはあります。
新井 私も本当にいやでしたね。頼むから(トーナメントを)勝ち上がって来ないでくれと思っていると、そんな時に限って上がってくるんですよ。めちゃくちゃモヤモヤするんです。相手の手の内が分かっているけど、それは相手も同じですから。
1年生の時に相田と、去年の全日本ジュニアは武岡と対戦したのですが、両方とも負けているの試合で対戦する機会があったら次は必ずぶっ倒してやろうという思いです。

日々の稽古で互いに競い合う3人(写真は新井選手と武岡選手)
―――國學院大の柔道の特徴とは。
全員 後ろに下がらないこと、前に出る柔道ですね。いつも言われています。
相田 國學院大學の柔道は、釣手と引手を持ってしっかりと技をかけ切るという教えです。キレイな柔道です。自分の持ち味は粘り強さなので、この部分を見てもらえたらと思います。
武岡 前に出て泥臭くやるというのが高校時代から自分のスタイルになっています。いろいろな技を繰り出す半面、投げられる場面も多く、直していかなければなりません。
新井 私は負ける時も勝つ時も派手なので、一本を取る柔道を目指していきたいです。泥臭くというキーワードが出ていましたが、私は性格的にしぶとくできずメンタル面で未熟さがあると感じます。普段から自分をもっともっと追い込んで練習で行ってきたことを試合でも出せるようにしたいです。身近に良い柔道選手の手本がいるので、自分も早く世界に出て活躍できるように頑張りたいと思います。
相田 男子66㎏級は優れた選手が多く、競り合いになる場面が少なくありません。そうした状況を想定して準備し、練習することが大事になります。それを心掛けていきたいですね。一つのミスが命取りになります。
新井 後でノートに書いておこう。名言だよね(笑)
―――今年は東京五輪・パラリンピックがあり、正式種目の柔道は注目されることになるでしょう。今年の目標は
武岡 去年は自分がどこまでできるかを知りたいという1年でした。今年は今の自分が持っている力以上のものを発揮し、できれば優勝をしてしっかりとした成績を残したいです。次の出場予定は、3月にロシアで開かれるグランドスラム・エカテリンブルグです。試合に身体のピークを持っていけるように努力していくつもりです。
新井 このまま行けば次の試合は7月頃になり、期間が空いてしまうので、身体づくりから見直していこうと考えています。技術面も基礎から土台をしっかり作ったうえで今年の試合に臨みたいと思います。
講道館杯に出てみて、周囲と見比べて組手や体力面でも劣る部分があったと感じています。ジュニア大会ではあまり感じることはなかったのですが、シニアでは組手や技もレベルに達していないと思うので、一から鍛えていきます。
相田 今年はグランドスラム・パリ大会(2月)から始まります。この大会はレベルが高いと聞いていますが、外国人選手には負けないという自信はあるので優勝を狙ってしっかりと勝ち切っていきたいと思います。その後の4月に福岡で開かれる全日本選抜体重別選手権大会にも出場できる見込みですが、阿部選手、丸山城志郎選手(ミキハウス)と対戦できる機会もあると思うので、きちんと勝ち上がって、前回のグランドスラム大会で感じた相手との力の差が少しでも縮小していればいいかなと思っています。
東京五輪開催中は、試合はありませんが、講道館杯(10月31日~11月1日)があるので連覇してグランドスラム東京につなげ、優勝して1年を締めくくりたいと考えています。
―――講道館杯王者としてプレッシャーは。
相田 まったくありませんね。私はずっとチャレンジャーです。丸山選手、阿部選手という追いかける存在がいることにまず感謝しています。
阿部選手は一本を取る技に多くのバリエーションを持っています。丸山選手は内股が彼の代名詞になっています。私には絶対に一本取れる技がないので、「これ」という技をしっかり身につけていきたいと思います。上にいる2人を追って、ただただ努力するだけです。
―――新しい年も頑張ってください。ありがとうございました。