ARTICLE

コワーキングスペースで「つながり」が生まれる理由

協働を生み出すカギは「多様性」と「画一性」のバランス

  • 経済学部
  • 全ての方向け
  • 国際
  • 政治経済
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

経済学部准教授 山本 健太

2019年9月5日更新

 

コワーキングスペースが「コワーキング」を促す仕組みとは。

 新たな「働く場所」として、近年増えているコワーキングスペース。これまでも、レンタルオフィスのように、所属する組織などにかかわらず仕事ができる場所は存在していた。しかし、コワーキングスペースはそれらと明確な違いがあるという。

「コワーキングスペースの最大の特徴は、人と人とのつながりを生む“機能”や“サービス”が設けられていることです。加えて、ただつながるだけでなく、それが具体的なシナジーにまで発展するための環境が整えられているといえるでしょう」

 そう話すのは、國學院大學経済学部の山本健太准教授。同氏は、コワーキングスペースの機能やサービスを分析することで、この新しい空間の“あるべき姿”や意義が見えるという。山本氏の研究結果とともに紹介していく。

【前回の記事】「働く場所は、組織よりも『街』で選ぶ時代へ

 

國學院大學経済学部准教授の山本健太氏。博士(理学)。東北大学大学院理学研究科博士課程修了。九州国際大学特任助教、同助教、同准教授を経て現職。地理学の視点から日本の経済・地域経済の振興を研究する。「ひたすら歩き、話を聞くことで地域の経済が見えてくる」を信条に、フィールドワークを中心とした実証主義に基づく研究を続ける気鋭の地域経済専門家。

レンタルオフィスとの違いは、つながる機能があること

――今回は、コワーキングスペースの機能面をピックアップしていきたいと思います。

山本健太氏(以下、敬称略)初回の記事で述べましたが、コワーキングスペースの価値は、「人と人をつなげる空間」になり得ることです。実際、店舗の機能面を分析すると、そのためのサービスや仕掛けを用意しているケースが目立ちます。

 今回、東京都内のコワーキングスペースにアンケートを行い、各施設が持つ機能やサービスを調べました。すると、「交流会の主催(58.5%)」や「セミナーの主催(56.1%)」など、つながりのきっかけとなるイベントを行っている施設が半数を超えました。

 また、コワーキングスペースが一足先に発達した欧米では、利用者と利用者の間を取り持ったり、話を聞きながら人をつなげたりするホストやファシリテーターが存在するところが数多くあります。日本の施設でも、このような役割の人材を配置している施設が増えています。

――イベントやつなぎ役を用意して、人と人とのつながりを生む構造をつくっているということですね。

山本 はい。これが、従来のレンタルオフィスとコワーキングスペースの大きな違いでしょう。人と人との関係構築を促進するサービスは、従来のレンタルオフィスにはほとんど見られませんでした。いわば“箱を貸す”イメージでしたが、コワーキングスペースは利用者同士がつながる機会を創出します。あるいは、つながりを生むために運営者が積極的に利用者とコミュニケーションをとります。

 これはコワーキングスペースの機能として非常に重要ですし、むしろこれらの施設の「あり方」を考えたとき、外せない不可欠な要素でしょう。

――この連載では、多様な人たちがつながり、その結節点から生まれるシナジーの重要性にたびたび触れています。まさにそういったつながりを生む役割として、上述の機能があるわけですね。

山本 初回の記事でお話ししたように、これまで「個人事業者」と「企業」のつながりを生むのは簡単ではありませんでした。なぜなら、お互いの行動原理が異なるからです。

 しかし、コワーキングスペースのつながりを生む機能により、企業もこの空間を共有でき、個人事業者との接触が容易になります。個人同士の協働ももちろん発生しますが、大きいのは個人と企業という、今までつながりにくかった両者が近寄れる点ではないでしょうか。

 機能に加えて、前回話したように、コワーキングスペースは施設の立地によって、集まる人々の業種や属性にゆるやかな傾向が見られます。実はこれも、価値あるつながりを促進する大きな要素になっています。

 

カルチャーが利用者の共通項になり、自然につながる

――どういったことでしょうか。

山本 コワーキングスペースは、業界や組織を超えて多様な人が集まる空間です。とはいえ、あまりに多様になりすぎると、他者とのつながりによる化学反応が生まれにくくなるともいえます。まったく離れた業界では、その距離を一気に飛び越えてシナジーに至るとは考えにくいですし、他にも仕事へのモチベーションや価値観など、一定の共通項や相通じるものがないと、つながりは発生しにくいでしょう。

 コワーキングスペースは、店舗の立地によって、ある程度近い業界や目的意識を持った人が集まる傾向にあります。すると、お互いの関わる仕事や意識、経験も関連性が出てきます。だからこそ共有しやすく、つながりが生まれやすいといえます。

 その意味で、コワーキングスペースは「多様性と画一性のバランスが取れた空間」なのかもしれません。逆に言えば、このバランスこそが、コワーキングスペースの生命線とも考えられます。

――別の立場にある人がつながる際、お互いの共通項や結びつける何かが必要になると。その意味での「画一性」ということでしょうか。

山本 そうですね。繰り返しになりますが、あまりに共通項のない人同士が出会っても、効果的なつながりは生まれにくいもの。たとえば学者の世界でも、専門分野が異なると同じ単語でもまったく意味が変わります。言語が異なるので、コミュニケーションが取りにくくなります。

一方、たとえ業界の違う人同士でも、ある程度隣接した業界なら、言葉のニュアンスや価値観は似通ってくるでしょう。コワーキングスペースは、多様な人が集まりながらも、何となくコミュニケーションが通じる場になっているといえます。その画一性を生んでいるのが、立地や街なのかもしれません。

――前回の記事で、店舗を出す際、運営側は「最寄り駅」や「街」のイメージを重視し、そこからどんな利用者が来るか想定して店舗づくりを行っていることに触れました。

山本 その街のイメージが、そのまま利用者の共通項になってくるのかもしれません。
 もちろん、店舗が稼働してからは、実際の利用者によって空間は再構築されていきます。運営者と利用者のコミュニケーション、ある種のネゴシエーション(交渉や話し合い)によって、その店舗のカルチャーができていくのでしょう。

 余談ですが、そもそも街のカルチャーやイメージも、同じようにつくられていきます。自治体やデベロッパーが最初のコンセプトを設定しつつも、結局はそこを訪れる人によって本当のイメージやカルチャーが形成されます。街を歩く人が街をつくっているわけです。

――コワーキングスペースも、利用者によってその店舗のカルチャーや機能が構築されていき、それが、両者のつながりを生む共通項となるのかもしれません。

山本 一方で、店舗側が最初から明確な共通項やコンセプトを打ち出しているコワーキングスペースもあります。たとえば今回調査をする中で、託児サービスを提供している都内の店舗が2件ありました。

 これらの店舗では、子育て中の女性を含め、「働きたい女性」に特化したサービスを提供していました。運営者も女性で同じ経験値があり、一種のサロン的な情報交換が行われています。「子育て女性の社会進出」という、ひとつの共通項、画一性が設けられている例でしょう。

 

空間そのものだけでなく、時間と空間の関係を捉えられるか

――そのほか、コワーキングスペースの機能面で注目すべき点はありますか。

山本 機能というべきか分かりませんが、「営業時間」に関する点です。調査をしたところ、「24時間利用が可能」という店舗が、都内の6割ほどに上りました。ほとんどが、東京メトロか都営地下鉄沿線に立地しており、都心部での多様な働き方の一端を示しています。

 働き方改革は重要ですが、決してすべての人が9時〜17時といったような働き方を望むわけではありません。その点、コワーキングスペースは多様な人の多様な働き方を許容できる空間です。いつ来ても利用できるというファクターは、都心の店舗において重要なのでしょう。

――コワーキングスペースの「営業時間」においても、立地との関連性が出てくるわけですね。

山本 さまざまな産業の発展を考える上で、その市場で働く人々の労働時間や働き方を分析することは大きな意味があります。

 渋谷を例に考えましょう。渋谷はある時期からIT企業が集まり、ビットバレーと呼ばれました。このとき、「なぜ渋谷にIT企業が集まるのか」というテーマで行われた研究があります。

 その中で、キーワードとして挙げられたのが「職住近接」です。プログラマーやデザイナーといった「技術者」は、職場の近くに住み、仕事とプライベートが混ざり合うようなライフスタイルを好む傾向があったのです。結果、渋谷にIT企業ができると、技術者はその近くに住むようになる。彼らは比較的フットワークが軽いですから。そしてIT企業も、スキルのある技術者を求めて自然と渋谷に集まる。職住近接を好む技術者が多く住んでいるためです。

 鶏と卵、どちらが先かという話ではありますが、職住近接をキーワードに、企業と技術者が近寄ってくるサイクルが生まれました。それが、渋谷におけるIT企業の集積を生んだ一因と考えられます。

 産業がどの地域で発展するかを考える際、その界隈の労働者がどんな時間感覚で働いているか、その点もかかわってきます。つまり、働く時間と空間には密接な関係があるのです。

 コワーキングスペースを考える上でも、空間だけでなく、時間と空間の関係を意識して捉えると、よりその本質に迫れるのではないでしょうか。

――コワーキングスペースの機能、そしてその“あり方”をどう考えるべきか、細かく見えてきました。なお、ここまでの連載では、先生の調査結果をもとに話を伺ってきましたが、次回は、実際にコワーキングスペースを運営する事業者の方との対談を通じて、この施設の意義や可能性をさらに探りたいと思います。

 

(つづく)

研究分野

経済地理学、都市地理学

論文

大都市の創造性とアニメーションスタジオの役割:労働者の働き方とネットワークに着目して(2018/04/01)

アメリカ議会図書館蔵初期外邦測量図データベースの構築(2017/02/01)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

MENU