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クリエイティブな産業はなぜ大都市で発展するのか

答えを導くカギは「コワーキング」という働き方にある

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経済学部准教授 山本 健太

2019年7月11日更新

「コワーキングスペース」にはどのような機能が期待されているのか。

 近年、「コワーキングスペース」という仕事空間が急速に増えてきた。フリーランスや特定のオフィスを持たない小規模事業主などが主に利用し、同じ空間で仕事をすることでコミュニケーションを取り、各々の得意分野を生かしながら協働する。そのような場所が「コワーキングスペース」だ。

 ただし、働き方のスタイルや機能面などが取り上げられることは多いものの、コワーキングスペースが持つ機能性や、その空間から生みだされるイノベーションの過程などを細かく検証したものは少ない。國學院大學経済学部の山本健太准教授は、「コワーキングスペースを産業集積という視点で捉えると、違った側面の可能性やポテンシャルが見えてくる」と語る。

 同氏は、特定の産業などが特定の地域や範囲に集中して立地する現象「産業集積」の研究者。「コワーキングスペースというと、働き方やそこで生まれるシナジーの質に議論の中心があったが、コワーキングスペースを産業集積のひとつとして捉えると、大都市の持つ“文化創造性”ともつながっていくことに気が付かされる」という。山本氏の話をもとに、その意味を考えていく。

 

國學院大學経済学部准教授の山本健太氏。博士(理学)。東北大学大学院理学研究科博士課程修了。九州国際大学特任助教、同助教、同准教授を経て現職。地理学の視点から日本の経済・地域経済の振興を研究する。「ひたすら歩き、話を聞くことで地域の経済が見えてくる」を信条に、フィールドワークを中心とした実証主義に基づく研究を続ける気鋭の地域経済専門家。

大都市の「文化創造性」が高いのはなぜか

――山本先生は「産業集積」について研究されていますが、そもそもどんな研究でしょうか。

山本健太氏(以下、敬称略) 産業集積の研究とは、簡潔にいえば「なぜその地域でこの産業が発展したのか」を、地理、歴史、風土や文化など、あらゆる側面から考察する学問だと捉えています。

 特に私が着目しているのは、文化産業と地域の関連性です。アニメや演劇、エンタメといった文化産業、コンテンツ産業は、大都市で発展する傾向があります。なぜ特定地域で「つながり」ができるのか、産業構造と大都市の関係性を分析してきました。

 2つの関係を示すものとして、分かりやすい例があります。たとえば、演劇産業が大都市で特に発展しているのは、多くの人が感覚的に理解できるのではないでしょうか。1つの要因として、大都市では「副業が担保されていること」が挙げられます。

 たとえば、演劇の世界では、役者一本で生活できる人は一握り。そのため、彼らは役者仕事のかたわらで「副業」をしています。それを可能にするのは、アルバイトなど多様な仕事の機会がある大都市だからこそ。実際、東京の役者さんを対象として調査をすると、少なくない方たちが副業の収入で生活していながら、本業は「役者」と答えます。

 対して、地方は都市に比べて仕事の多様性に乏しく、彼らの希望に合うような副業を見つけにくい。結果、あくまで本業は仕事で、役者の活動は「趣味」と答える人が多くなります。つまり、大都市の持つ「仕事の多様さ」は、演劇役者のクリエイティビティ発現を担保しているといえます。それが、大都市に演劇産業が集積する理由の1つでもあります。

 今回、コワーキングスペースを研究したのも、演劇やアニメと同様に、なぜ大都市でクリエイティブな産業が発展するのか、大都市の持つ文化創造性の実態に迫れると考えたからです。

 

創造性を発揮する「クリエイティブネクサス」とは

――具体的にどのようなことでしょうか。

山本 大都市と文化創造の関係性は、さまざまに議論されてきました。先述の副業もその1つですが、こと大都市という「空間」と創造性がどうつながっているかは、研究の余地が多い分野でした。

 ただし、要因として考えられることはあります。それは、大都市が多くの「クリエイティブネクサス(創造的な結節点)」を有している点です。クリエイティブネクサスとは、創造性を発揮する上で有効な人と人とのつながり、ネットワークを構築する結節点のことです。

 ヒントになるのが、アニメ業界の産業構造です。アニメ業界では、異なる分野の専門家や知識を持った人が「スタジオ」という1つの空間で働きます。作画監督や演出家、進行スケジュールの管理や事務的な作業をする人までさまざまです。いろいろな専門知識を持つ人が、同じ時間と空間を共有します。

 アニメはプロジェクトごとにチームが編成されるため、スタジオに集う人たちもプロジェクトによって変わることがあります。きわめて流動性が高く、結果、スタジオは異なる専門知識を持つ多様な人が集う「結節点」となります。そして、これらスタジオはそこで働く人々の取引関係や師弟関係などによってネットワークを形成します。スタジオがクリエイティブネクサスになり、より創造的な作品が生まれるのです。

――そのクリエイティブネクサスが、東京のような大都市にはたくさんあるということでしょうか。

山本 はい。多様な人がそれぞれに結節点を持ち、ネットワークをつなぐことが文化的創造の源泉であるならば、大都市はまさにその結節点が密集しているのではないかと。多様な会社、人、働き方が共存しており、それらが何らかの結節点でネットワークをつないでいると見ることもできます。

 まさに、アニメスタジオのようなミクロな空間が、都市というマクロな空間の中で展開しているのではないでしょうか。そして、そこで築かれたネットワークからクリエイティブなものが生まれているのではないかと考えています。

 だとすると、大都市の文化創造性を考える上で、その発端となるクリエイティブネクサスの実態を見ることが重要になります。これは、コワーキングスペースにも共通しているのではないではないかと私は考えています。アニメスタジオもその1つですが、異なる産業や職種の人が集まり、ネットワークの結節点となる場所を見てみたい。これが研究の発端です。

 

シリコンバレーの強みから分かる、空間の考え方

――コワーキングスペースの見方として、新しい切り口かもしれません。

山本 コワーキングスペースという空間を分析し、大都市の文化創造性とのつながりを考察することは、コワーキングスペースの本当の意義や、「どう在るべきか」を想像することにつながると思います。

 コワーキングスペースの空間を理解するのに役立ちそうな研究に「サード・プレイス論」というものがあります。先述したアニメスタジオは、さまざまな職種にある“同業者”の集まる空間です。それに対し、産業の枠を超えて人が集まり交流する空間としてサード・プレイスがあります。

 サード・プレイスとは、住む場所を「第一」、働く場所を「第二」とした場合に、それ以外の、家庭と仕事の領域を超えて、個々人が集って語り合う場などをいいます。分かりやすい例が飲み屋や、昔でいうサロンやカフェなど。そこでの交流により、目新しいことを発見したり、人生観に影響を受けたりします。

 ある研究者は、シリコンバレーの特徴として、仕事ではライバル関係にある他社の社員同士が、プライベートではともに遊び、情報交換をするなどの交流が多数あることに着目しました。そこにはビジネスを度外視して、アドバイスをしたり、モチベーションを分かち合ったり。いわば、そういったサード・プレイスのような関係性の自然発生が、シリコンバレーのシナジーの源泉や優位性になっていると語っています。

 コワーキングスペースは、このようなサード・プレイスと似て非なる空間といえるでしょう。完全なプライベートではない、仕事上での交流、結節点となるものです。先のシリコンバレーの考察と同様に、この空間を分析することは、働き方の変化を捉えるだけでなく、働く空間によって創造性を発露させるヒントにもなるのではないでしょうか。

 単純に孤独だからコワーキングスペースに集って、さまざまな人とつながっているのではなく、そこには創造性を発揮するための明確な理由があると考えられるのです。

 実際、コワーキングスペースはただ集まって働くだけの場所ではありません。あくまで“結節点”の機能を持っており、さまざまな組織、バックグラウンドを持つ人がつながり、ネットワークをつくる仕組みが用意されています。具体的な内容については、今後お話ししますが、意図的に交流やネットワークを築くことが、大きなポイントです。

 

コワーキングスペースが持つ「ミドルグラウンド」の価値

――今のようなお話をもとに、コワーキングスペースの調査を始めたとのことですが、具体的にどのようなことを行ったのでしょうか。

 

山本氏が調査対象とした、東京都内のコワーキングスペースの立地。(2017年2月時点)

山本 東京都内に立地するコワーキングスペースの店舗189件に対し、アンケート調査を実施しました。まだ研究の最初のフェーズであり、回答が得られたのは38事業者41件と、統計的に優位なもの、業界全体の傾向を示すものとは言い切れません。しかし、この種の調査はまだ少なく、結果から一定の分析をする意義は見えたと感じています。

 まず分かりやすい結果として示したいのが、実際にコワーキングスペースを利用している人の属性です。調査で上位を占めた職種を挙げると、個人利用者ではクリエイティブ、コンサルタント、WEB・インターネット・ゲーム、法人登録者ではIT・通信・インターネット、コンサルティング、サービス・レジャーなど、さまざまな職種・業種の人々が利用していることが分かります。

 さらに重要なのは、フリーランス(個人事業主)と企業に属する人が、ともにスペースを利用している点です。

 これまで、企業間のネットワーク(アッパーグラウンド)と個人間のネットワーク(アンダーグラウンド)が交わることは、非常に稀だと考えられてきました。なぜなら、各々のネットワークは行動原理が大きく異なるからです。企業は利益追求が大きな目的を占めますが、個人は利益だけでなく自己実現やチャレンジの面が大きくなりやすい。そのため、2つのネットワークをマッチさせるのは、労働市場にとって難しいテーマでした。

 しかし、コワーキングスペースは企業と個人がつながる「ミドルグラウンド」のネットワークを生む可能性があります。多様な職種が集まるだけでなく、企業と個人の垣根を超える、新たな「クリエイティブネクサス」としての機能が垣間見えます。

――文字通り、組織や業界を超えた人たちがネットワークを作る場になっているわけですね。

山本 はい。それともう1つ、この調査で見えたのが、コワーキングスペースと立地場所の関係性です。コワーキングスペースは、いわば「場所を問わない働き方」として捉えられることが多いのですが、調査を見ると、利用者は「どこの街、どのコワーキングスペースで働くか」を意識しているように見てとれます。

 この意味については、次回、調査結果を紹介しながら説明していきたいと思います。

 

(つづく)

研究分野

経済地理学、都市地理学

論文

大都市の創造性とアニメーションスタジオの役割:労働者の働き方とネットワークに着目して(2018/04/01)

アメリカ議会図書館蔵初期外邦測量図データベースの構築(2017/02/01)

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