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働く場所は、組織よりも「街」で選ぶ時代へ

コワーキングスペースに見る、街のイメージと仕事の関係

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経済学部准教授 山本 健太

2019年8月16日更新

コワーキングスペースの立地は、どのような意味を持つのだろうか。

 ここ最近、耳にすることが多くなった「コワーキングスペース」。フリーランスや特定のオフィスを持たない小規模事業主などが利用する仕事空間といえよう。

 彼らの多くは、パソコンとスマホなどいくつかのアイテムがあれば“どこでも”働くことができる。だが、実際はコワーキングスペースを選ぶ上で、 “場所”を重要に考えているようだ。働く場所を選ばなくても仕事ができる彼らは、なぜ働く場所にこだわりを持つのか。

「コワーキングスペースについて調査したところ、利用者や店舗の事業者は、店舗の立地を非常に重視していることが分かりました。さらにその内容を深く分析してみると、コワーキングスペースの雰囲気や利用者の属性にこだわりを持つ利用者像が明らかとなり、コワーキングスペースはその街の縮図ともいえそうなことも分かってきました」

 こう話すのは、國學院大學経済学部の山本健太准教授。なぜ、コワーキングスペースの利用者は場所を重視するのか。研究の結果をもとに紹介していく。

【前回の記事】「クリエイティブな産業はなぜ大都市で発展するのか

 

國學院大學経済学部准教授の山本健太氏。博士(理学)。東北大学大学院理学研究科博士課程修了。九州国際大学特任助教、同助教、同准教授を経て現職。地理学の視点から日本の経済・地域経済の振興を研究する。「ひたすら歩き、話を聞くことで地域の経済が見えてくる」を信条に、フィールドワークを中心とした実証主義に基づく研究を続ける気鋭の地域経済専門家。

首都圏と関西圏、コワーキングスペースの分布に差

――今回は、先生の調査結果をもとに、コワーキングスペースと場所の関係を考えたいと思います。

山本健太氏(以下、敬称略) コワーキングスペースやその利用者というと、働く場所を選ばない自由度の高さをイメージするかもしれません。しかし、実際はコワーキングスペースと場所の関係は強く、さまざまな傾向が見られます。

 顕著な例が、全国47都道府県におけるコワーキングスペースの分布です。主要なポータルサイトに登録されているコワーキングスペースの数を都道府県ごとに調べたところ、表のような結果になりました。

 

主要なポータルサイトに登録されている、全国47都道府県におけるコワーキングスペースの分布(2017年4月時点)。

 結果を見ると、都市部に集中していることが分かります。中でも、東京都内の立地は圧倒的に多く、2位の大阪と比べて3.4〜4.8倍になっています。

 興味深いのは、ともに都市エリアである首都圏(1都3県)と近畿圏(2府5県)での立地傾向の違いです。近畿圏では、大阪を中心に兵庫や京都など、広範囲に分散して立地しています。しかし、首都圏を見ると、東京都内に一極集中しており、埼玉、千葉、神奈川は、その都市の規模の割には立地が少ないといえます。

 この違いは、そのまま首都圏と近畿圏における、各都市間の力関係の差が影響しているとも考えられます。

――具体的にどのようなことでしょうか。

山本 つまり首都圏の場合、東京で働くか、それ以外の県で働くか、その違いが非常に大きいということです。そしてそれは、コワーキングスペースの利用者が「働く場所」を大切な要素にしていることを意味します。

 コワーキングスペースでは、1人〜数人で経営しているような小規模企業の経営者や、フリーランスの利用者が非常に多いです。前回の記事でも触れた東京都内のコワーキングスペース調査では、会社登記ができると回答した店舗が8割以上ありました。

 利用者は特定のオフィスを持っていなかったり、さまざまな場所で自由に働いているケースが多いのですが、とはいえ、名刺にはひとつの住所を書く必要があります。フリーランスにとっては、それが「普段から働いている場所」になりますし、小規模企業にとっては会社の所在地になります。

 コワーキングスペースでは、店舗の住所で会社の登記を行えるサービスや、オフィスとしての貸出を行っているケースが多々あります。つまり、コワーキングスペースの立地場所そのものが、みずからの住所となるのです。

 この前提で首都圏と近畿圏の差を考えると、その違いの理由も見えてくるのではないでしょうか。たとえば首都圏の場合、名刺の住所に「東京」と書かれているか、その他の県が書かれているかで、大きなイメージの差が生まれます。

 一方、近畿圏になると、大阪や神戸、京都などは、東京と他県ほど印象に差はないのかもしれません。店舗の立地を決めるのは利用者ではなく事業者ですが、彼らは利用者のニーズも加味して出店場所を決めるわけですから、立地の分布は「利用者の好みの表れ」とも言えます。

 このような地域のイメージとの関連性は、東京都内のコワーキングスペースを分析しても見えてきます。

 

働く場所を選ぶ上で、重要になる「街のイメージ」

――東京都内でも、街のイメージとコワーキングスペースの状況が紐づいてくるということでしょうか。

山本 はい。まず、東京都内のコワーキングスペースがどのように立地しているかを見てみます。

山本氏が調査対象とした、東京都内のコワーキングスペースの立地。(2017年2月時点)

 東京都内では、おおむね山手線沿線に店舗が多く立地しています。その中でも、特にコワーキングスペースの集中しているのが、東京駅付近のエリアです。東京駅を中心に、新橋から日本橋、さらには秋葉原にかけて、面的に立地しています。

 もうひとつ、顕著に多いのが、渋谷駅を中心としたエリアです。ここでは、渋谷駅の半径1km圏というかなり小さなエリアに多数の店舗が集中しています。また、そこから表参道駅、明治神宮前駅周辺にまで、コワーキングスペースが見られます。

 東京駅を中心とした山手線の東側エリアと、渋谷駅を中心とした西側エリアがあると言えるでしょう。そして面白いのは、各エリアにおけるコワーキングスペースの利用者を見ると、職種・業種の傾向が異なっている点です。

――詳しく教えてください。

山本 たとえば、コンサルティング業などを行っている人は、新橋や銀座など、東側エリアの店舗に多くみられます。また、神田周辺のコワーキングスペースでは、税理士や行政書士といった「士業」の利用者が見られます。

 対して、マスコミや、広告、デザインなどのクリエイティブ産業に従事する人は、渋谷を中心としたエリアの店舗で多くなります。つまり、東京都内のコワーキングスペースを見ると、利用者が自分の職種や業種に合わせて、特定のエリアを好む傾向が浮かび上がってくるのです。 

――なぜそのような傾向が生まれるのでしょうか。

山本 やはりこれも、「どの場所で働くか」という要素が、利用者にとって大きな意味を持つからでしょう。たとえばデザイナーなら、文化的なイメージのある渋谷で働いている、その住所を持っている方が、クライアントなどに与えるイメージが良かったり、信頼を得られやすかったりするではないでしょうか。また、自分の職業と重なりやすい街で働いていることで、自分のアイデンティティはどこから来たものなのかを強く意識しますし、それはその人のモチベーションにもつながると考えられます。

 そして、そういった地域には、実際にその産業が集積し、関連する人たちも集まっています。同業者や、自分の仕事と隣接する分野の優秀な人材が隣り合わせで仕事をしているかもしれません。つまり、ビジネス上のつながり、ネットワークを作りやすく、協働しやすい環境であることも想像できます。

 前回、さまざまな人がつながり、知識やスキルを共有して、より創造的な化学反応を起こすことが産業の発展で重要だと紹介しました。そして、そういったつながりを「クリエイティブネクサス(創造的な結節点)」と定義しました。

 コワーキングスペースを利用する人たちが、自分の職業に合わせて店舗の立地を選んでいるのは、どこかでそういったつながりを求めているからかもしれません。

 

コワーキングスペースは「街の縮図」になっている

――場所を自由に選べるからこそ、コワーキングスペースでは、より「どの街にあるのか」という要素が意味を持つのかもしれませんね。

山本 その意味で興味深かったのは、店舗側がなぜその立地場所を選択したのか、選択理由を尋ねたアンケート調査の結果です。

店舗側が立地場所選択の際に重視した理由。立地理由上位3点について、1位を5点、2位を3点、3位を1点としてポイント化した結果を表している。

 最上位に来たのは、ターミナル駅や都心部への「アクセス」に関するもの。やはりビジネスをする上で、駅や都心部との連結は非常に重要です。アクセスが悪ければ、時間的にも大きなロスになりますから。その点で、この2つが上位を占めたのは妥当な結果でしょう。

 注目したいのは、選択理由の3番目・4番目に「最寄駅のイメージが良い」「街のイメージが良い」という回答が来たことです。つまり、駅や街のイメージが、立地する街を選ぶ重要な検討要因になっています。

 駅や街のイメージは、その地域の持つ景観や、そこに集まる人・店舗などがすべて総合されて、人々の頭の中に形成されるものです。そして、事業者はそのイメージをもとに、どの場所にコワーキングスペースを設けるか決定しています。

 ということは、「この駅・街ならこんな利用者が来る」と、ターゲットとなる利用者像を明確に想定しているということです。そして、その店舗内の雰囲気は、そのような利用者の職種・業種などに合わせたものへと寄っていきます。

 実際、先述したように、渋谷にはクリエイティブ系のワーカーが多いスペースができています。コワーキングスペースは、ある意味で街のイメージや雰囲気と密接につながっているといえます。

――事業者も、街のイメージとコワーキングスペースの雰囲気、間取り、利用者を結びつけているわけですね。

山本 当然、「渋谷ならこんな利用者が来るだろう」と想定して店舗を作るでしょうから、街によってコワーキングスペースの中身も変わってくるはずです。単に、「店舗を作りました。さあ利用してください」では成り立ちません。その店舗独特のカルチャーを作り上げていく必要があります。それは必然的に街の色とリンクしてくるのではないでしょうか。

 なので、立地場所の周辺にどんな施設があるかだったり、住宅環境、オフィスの持つ機能性は、他の選択肢に比べ重視されていません。つまり、店舗の経営には、実際の店舗周辺の環境や店舗の入るビルの設備などより、街や駅の持つイメージの方が重要である。それを示唆する結果といえます。

――街のイメージが、事業者にも利用者にも大きな意味を持つことが分かりました。

山本 さらに、コワーキングスペースが実際にどんな施設であり、どういった機能を持っているのか、その中身をより深く調査すると、新たな働き方のスタイルや、人と人とがつながる仕組み作りが行われていることが分かります。

 次回はその点について説明していきます。

 

(つづく)

研究分野

経済地理学、都市地理学

論文

大都市の創造性とアニメーションスタジオの役割:労働者の働き方とネットワークに着目して(2018/04/01)

アメリカ議会図書館蔵初期外邦測量図データベースの構築(2017/02/01)

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