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日本最古の書物『古事記』。世界のはじまりから神様の出現、皇位の継承まで、日本の成り立ちがドラマチックに描かれています。それぞれの印象的なエピソードには今日でも解明されていない「不思議」がたくさん潜んでいます。その1つ1つを探ることで、日本の信仰や文化のはじまりについて考えていきます。
ヤマトタケルは『古事記』の中巻に登場する英雄です。第12代景行天皇の御子ですが、力が強すぎて、誤って兄を死なせてしまい、父である天皇に疎まれます。
天皇は彼に、朝廷に従わないクマソタケルを討伐しに西方へ向かうよう命じます。ヤマトタケルは伊勢にいる叔母ヤマトヒメからもらった衣装で女装して敵に近づき、見事に討ち取りました。
悲劇の英雄を待ち受けていたもの
大和に戻ると、休む間も与えず天皇は東の敵を倒すよう命じます。さらなる試練を与えられて嘆くヤマトタケルに、ヤマトヒメは草薙剣を与えて送り出しました。この剣は、スサノオが怪物ヤマタノオロチを退治したときにオロチの尾から現れたもので、アマテラスに献上され、さらに天孫へと下され、三種の神器の一つとなったものです。
ヤマトタケルはこの草薙剣を手にいくつもの困難を乗り越えます。その最後に尾張国で伊吹山の神を討つことにします。そのとき彼はこれまで危機を救ってきた草薙剣を置いていきました。素手でも大丈夫。おごる気持ちがあったようです。ところが白い猪の姿をした神の圧倒的な力に負け、瀕死の状態に。なんとか故郷に帰ろうと歩みを進めますが、とうとう能煩野(三重県亀山市)で力尽き、亡くなります。
父に疎まれながらも、その父の命令に従って戦い続け、故郷を思いながら亡くなったヤマトタケル。まさに悲劇の英雄です。
武器を持つ世界の神々や英雄
彼の亡くなる原因の一つと考えられるのが、草薙剣を置いていったこと。それだけこの剣はヤマトタケルにとって重要なものだということでしょう。
自分の代名詞ともいうべき武器を持つ神や英雄は少なくありません。インド神話のインドラはヴァジュラ(金剛杵)で怪物を退治します。ギリシャ神話のゼウスは雷霆で戦います。北欧神話のオーディンであれば槍のグングニルです。イギリスの伝説の英雄アーサー王は聖剣エクスカリバーを持ちます。彼はエクスカリバーを岩(あるいは鉄床)から抜いて、周囲に正当な王と認めさせ、亡くなるときには湖に剣を投げ込ませました。
すぐれた武器を持つということは、それを使いこなす能力があり、持つにふさわしい資格があるということ。だからこそ、その武器を失ったときが英雄の最期となるのかもしれません。
~國學院大學は平成28年度文部科学省私立大学研究ブランディング事業に「『古事記学』の推進拠点形成」として選定されています。~