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実は持ちつ持たれつ、サウジとアメリカの微妙な関係

産油国経済のしくみと実情

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経済学部教授 細井長

2015年11月30日更新

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サウジアラビアのサルマン国王(2015年7月撮影)© AFP/SPA

「このまま石油を使い続けるとあと40年で枯渇する」

石油資源には限りがある、だから無駄遣いはできない。石油を消費する我々日本人にはそう刷り込まれている。だが、実際はどうなのだろうか。

11月10日、国際エネルギー機関(IEA)は、今後アジア各国で需要が増えることを見込み、2020年には現在の倍近い1バレルあたり80ドルの原油価格になるとの予想を発表した。

昨年、アメリカはサウジアラビアを抜き世界最大の産油国となったが、中東諸国は今後もオイルマネーで潤っていくのだろうか。

國學院大学 経済学部教授の細井長氏は国際経済学、とくに中東地域の経済を専門とする日本では数少ない研究者の1人だ。中東産油国の経済のしくみや実情について話を聞いた。まずは「産油国経済のしくみ」について、大枠を捉えてみたい。
制作・JBpress

可採年数のからくり

ー「石油はあと40~50年で枯渇する」と聞いたことがあるのですが・・・。

細井氏(以下、敬称略):実質あと何年掘れのるか、つまり石油の「可採年数(現存埋蔵量を生産量で割った数字)」は原油価格の動向で変わってきます。

まず、石油の採掘コストは掘る場所によって異なります。ひとえに中東と言っても、サウジアラビアやクウェートの辺りで石油を掘るコストは安く、1バレル当たり10ドルするかしないか。もっと安いところでは1ドルもかかりません。一方で世界の産油国の中には、100ドル程度の費用をかけているところもあります。

最近の原油価格は1バレルあたり40ドル前後ですが、コストが100ドルだったら、採算割れするので、積極的には掘りません。逆に、原油価格が100ドル近かったときは、コストの高い油田でも掘っていました。

生産量はその時の原油価格に左右されるため、可採年数も絶対的な値ではないのです。

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ー採掘のコストに差が生じるのは地質的な問題ですか?それとも人件費でしょうか?

細井::基本的には全て機械で掘っているので地形・地質の差と言えます。それによって必要な採掘技術も変わります。

「油田」といっても必ずしも原油の池のようなものがあるとは限らず、スポンジに含まれた水のように原油も地中に保持されています。そこから分離することが難しいのですが、サウジアラビアには、いわば“石油をめいっぱい含んだスポンジ”のような油田が多いので、比較的低コストで採れるのです。

ー今後、技術力が高まれば状況が変わる可能性も?

細井:そこに石油があると分かっていたとしても、今の最新技術では全ての石油を採ることはできません。ムダなく全ての石油を採ることができるようになれば、当然、可採年数も変わります。つまり「可採年数」は価格動向と、技術力によって変動しています。

なぜ原油価格の先読みが難しいのか

ーでは「あと40年」というのも迷信だったのでしょうか。

細井:正確な埋蔵量を把握できるかどうか、という技術的な課題は別にあるとして、実際のところ、その国の政府や石油会社が外に伝える情報はコントロールされていますから正確な数字を把握することは難しいですね。一方で、石油がなくなるより先に地球温暖化の方が深刻になって石油を使えなくなるという見方もできます。

日本人に「40年」という数字が刷り込まれているのは、教科書の影響が大きいと思います。日本にとって石油・ガス資源の安定確保は重要課題で、しかも海外に依存するという不安要素を抱えています。だからこそ「化石燃料は大切に使おう」という意識を植え付ける意図があったのかもしれません。

ー仮に、中東の石油が底をつきそうになったとしたら・・・。

細井:そうなったとしても、対外的には絶対に言わないと思いますよ。大混乱に陥るのは目に見えているので「まだまだある」と言い続けるのではないでしょうか。

ー現時点で、すでに枯渇のリスクが高い国はありますか。

細井:先ほどの話の通り、政府や石油会社は実情をなかなか明かさないので、枯渇リスクがあるかないかは判断できませんが、石油がもともと少ないのはオマーンです。サウジアラビアやクウェートに比べたら格段に少ないです。バーレーンは湾岸で最初に石油が出たところですが、現在ではもう枯渇状態でしょう。

ー「いつかなくなるかもしれない」という危機感を逆手にとって、希少価値を高めた方が高値で売れるとは考えていないのでしょうか。

細井:あまりにも高値すぎても、今度は再生可能エネルギーの活用など、本当に石油を使わない方向になってしまいます。それでは産油国は困るわけです。高くつり上げた結果、代替資源の活用が進めば、自分の首を絞めることになるので「ほどほど」の価格で売ることが重要です。

ー高すぎても売れない、安すぎても儲からない。そこをコントロールしたいと。

細井:そうですね。1980~90年代頃、当時世界最大の産油国だったサウジアラビアは「スウィングプロデューサー」役を果たしていました。

サウジアラビアが市場への供給量をコントロールすることで高価格が維持されていたのですが、そうすると、抜け駆けで安価な石油を供給する国が出てくる。結局、サウジアラビアの石油は売れなくなり、経済が混迷し、80年代半ばにはスウィングプロデューサーを放棄しています。

ーでは、現在の原油価格を左右するものは?

細井:最近は需要と供給だけでは原油価格が決まらなくなっています。その最大の要因は「投機」です。今の原油価格の動向において、投資の影響は非常に大きいのです。個人投資家もいますが、基本的には機関投資家が原油市場でファンドを運用して一儲けしようとしています。

ー単に需要・供給のバランスだけでは、先が読めなくなっているということですね。

細井:中東に限らず、石油が採れるところは、政治的に不安定なところが多いですよね。そうした政治情勢の影響も受けるので、どう転がってもおかしくない。そういう意味で、実需とはちょっと懸け離れたところで動いてしまっているのが、今の石油市場です。

1980年代の初めに石油の先物市場ができて以降、こうした状況は加速しています。産油国側の意思(供給量)だけでは価格がコントロールしにくくなっています。

アメリカから奪還したい「世界一」の座

ー中東の産油国とアメリカの関係は、現在どうなのでしょうか。

細井:サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、クウェートをはじめGCC(Gulf Cooperation Council)機構の6カ国は、安全保障などアメリカの傘下に入っているので、政治的にはアメリカと良好な関係を築いています。ただし、最近サウジアラ ビアは、石油政策をめぐっては、アメリカにあまり同調しない傾向が見えます。

ーその理由は?

細井:アメリカでシェールガス、シェールオイルの採掘が本格化したことです。

シェールオイル、シェールガスは、地下深い頁岩(けつがん=シェール)層に封じ込まれていて、そこから掘削することが難しかったのですが、1990年代に低コストでの掘削が可能になり「シェール革命」が起こりました。高圧水流でシェール層を破砕するので、ヨーロッパでは環境破壊を懸念する声が強いのですが、北米では採掘がどんどん進められています。

ついに2014年には、アメリカがサウジアラビアを上回って世界一の産油国になりました。アメリカは以前ほど原油価格の高騰を恐れないでしょうし、サウジアラビアは首位の座を奪われていい気はしません。

加えて、それまでアメリカは自国で生産した石油を輸出しない方針を示していましたが、輸出を解禁する路線に転換しています。市場が競合してしまうので、サウジアラビアにとっては余計おもしろくないのです。

ですから、サウジアラビアは以前よりも供給量を増やしています。それによって昨年、石油価格は大きく下落して、現在は1バレル40ドル前後まで落ちています。けれどもサウジアラビアは減産しようとはせずに、シェアを取り返そうと必死です。

その背景に何があるかというと、アメリカに市場の主導権を握られたくないということでしょう。原油価格の相場が下がれば、当然、シェールの価格も落ちる。以前より低コストで採れるとはいえ、採算割れしてしまいます。

ただ、サウジアラビアはアメリカのシェール企業を追いつめるまではしないでしょう。原油価格があまりにも下がり過ぎないよう調整はしていると思います。

ーそれは、やはりアメリカとの関係性を考えてのことでしょうか。

細井:そうですね。軍事的にもアメリカに依存していますし、王族はコレクションなのではないかと疑ってしまうほど、アメリカから最新鋭の武器を大量に買っています。

逆に、アメリカもサウジアラビアの政治や人権問題には強く口出ししないのです。サウジアラビアでは選挙もなく、女性に関しては車の運転や旅行がかなり制約されています。

また、サウジアラビア国民も「独裁だ」「人権抑圧だ」と政府を批判しません。批判が許されない環境ということもありますが、不満が表面化しないのは、潤沢なオイルマネーの恩恵に預かっているからです。

サウジアラビアにとっても、石油を掘るには技術が必要です。その技術はアメリカをはじめ海外の技術者に頼らなければ難しい部分もあります。サウジアラビアとアメリカの持ちつ持たれつの利害関係はこれからも続いていくでしょう。

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