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オイルマネーで潤うレンティア国家、サウジアラビアの苦悩

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経済学部教授 細井 長

2014年12月2日更新

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オイルマネーの利益を分配し権力を得るレンティア国家とは?

経済産業省から発表された「石油統計速報 平成26年9月分」によると、日本の石油輸入元1位はサウジアラビア、2位はUAE(アラブ首長国連邦)となっています。石油を他国に頼らざるを得ない日本にとって、サウジアラビアは中東諸国の中でも最も重要な国だと言えるのではないでしょうか。また、潤沢なオイルマネーの恩恵にあずかり高い生活水準を誇るサウジアラビアは、商品の販売拡大を狙う日本企業にとっても魅力あるマーケットとなるはずです。

今回は、日本経済に多大な影響を及ぼす国、サウジアラビアが抱えている問題を採り上げます。サウジアラビアは、オイルマネーに潤いながらもオイルマネーの副作用に苦しんでいるのです。

サウジアラビアは、国家が持つ天然資源を国王が管理し、国民に利益を分配するシステムを持つレンティア国家です。中東湾岸諸国に多くみられる国家形態です。同じレンティア国家でも制度の違いがありますが、国民は選挙権を求めない代わりに、多くの金銭的収入だけでなく、医療や教育、福祉などを無償で得ることができます。日本で高級車と位置付けられている自動車でも、サウジアラビアでは若者が最初に購入する車になったりしています。それだけ高い生活水準を王は担保してくれるのです。

ただし、実際に恩恵を受ける国民は国籍を有する者(以下、自国民)だけです。外国人労働者が多いサウジアラビアでは自国民は6割程度しかいません。ちなみに日本の石油輸入元2位のUAEではさらに少なく2割程度です。

石油が無くなる不安はない。あるのは使われなくなる不安のみ

石油を輸入に頼っている私たちは意外に思いますが、サウジアラビアをはじめとする産油国では「石油が無くなることよりも、石油が使われなくなること」に不安を抱いています。

実際に、現在の技術では埋蔵量の半分も採れていないといわれています。技術の進歩によって2倍、3倍となる世界が訪れることは十分考えられることなのです。それよりも、もう一つの世界。再生可能エネルギーの発達にみられるような「石油エネルギーの代替化」や、昨今トヨタやホンダが発表して話題になった燃料電池車や、エコカーにみられるような「石油エネルギーの利用効率化」などによって、石油需要が低下していく世界の到来に危機感を抱いています。

先ほどレンティア国家の仕組みについて触れましたが、王が支配の正当性を誇示するためには、天然資源である石油から得られる利益を自国民に分配する必要があります。石油の価格が下がった場合、中東諸国の中で自国民の数が最も多いサウジアラビアは大きなダメージを受けることになります。

もちろん中東諸国も石油以外の収入を増やそうとさまざまな取り組みを行っています。現在のところ先頭を走っているのは、UAEを構成する首長国の一つドバイです。2009年の「ドバイ・ショック」で高級リゾート施設や超高層ビルの建設などの不動産事業は停滞しましたが、もともと貿易拠点として発展した国なので、海運業や物流業などが堅調です。また、進出してくる外国企業が優遇処置を享受できる「フリーゾーン」を設け、企業を誘致しその賃料収入を国が得られる仕組みを整えています。

オイルマネーが生んだ副作用

ドバイが非石油産業を成長させている一方で、サウジアラビアは残念ながら後れをとっている状況です。しかし、膨大な石油の埋蔵量や購買力を持つ裕福な自国民の数を考えると日本経済にとってメリットの多い国です。その経済的重要性から進出を考える企業もかなりあるかと推測していますが、同地でビジネスを行う際には「若年層の雇用問題」に注意する必要があります。29歳までの若年層失業率は20%とも30%とも言われており、社会問題化しています。そのためサウジアラビアでは若年層の雇用機会創出が重要課題となっているのです。

サウジアラビアの自国民は、子供の養育も家事も基本的にメードに任せます。高い収入もあり、子育ても容易。当然出生数は増え、急激な人口増加が生じています。これまで自国民は公務員を中心に職に就いてきましたが限りがあります。そこで「サウダイゼーション」と呼ばれる、民間企業に勤める外国人の仕事を自国民に振り替えさせる雇用政策に取り組んでいます。職種・業界によって自国民の雇用率は変わりますが、規定を大幅に下回った場合は罰則を受けることになります。

生まれてから何一つ不自由なく育ち、努力しなくとも大学まで進める自国民です。外国人労働者よりも力量が不足していることは容易に想像ができます。雇用側からすると経営効率に注意しなくてはなりません。もちろん優秀な若者もいますが、彼らの多くは国の重要な職務に就くことになります。

石油価格が下落した場合、情勢はより苦しくなります。レンティア国家の根本を守るべく、自国民を保護する政策が次々と打ち出される可能性があります。サウジアラビアへの進出を検討されている企業は、経済情勢だけでなく、レンティア国家の仕組みも加味したうえで、今後の動向を読み取る必要がありそうです。

 

 

 

細井 長

研究分野

国際経済学、中東地域経済

論文

カタール危機の経済的影響-貿易面から見た経済制裁の成否-(2023/09/30)

湾岸諸国における産業政策としての政府系企業育成(2020/03/25)

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