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ついに自国民を抱えきれなくなってきたサウジ

原油価格下落で問題噴出、雇用先延ばしのために大学を増設?

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経済学部教授 細井長

2016年2月16日更新

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サウジアラビアのジッダで、票を投じる女性(2015年12月12日撮影)〔AFPBB News〕© AFP

原油市場の底値が見えない状況が続く中、財源の7割以上を石油関連収入に頼るサウジアラビアでは、2015年の財政赤字が1000億ドルを超えている(参考:1月15日「サウジアラビアを崩壊に導く独断専行の副皇太子」JBpress)。

「当面はオイルマネーの切り崩しで乗り切れたとしても、国家百年の計として見れば、雇用、教育、民主化などサウジはいま大きな問題に直面しています」と中東経済を研究する國學院大学経済学部の細井長(ほそい・たける)教授は話す。

若年層の雇用問題はすでに顕在化し、雇用を先送りするために大学の数を増やして若者を押し込んでいるのだという。
制作・JBpress

深刻化する雇用問題

ー原油価格の下落でダメージを受けるのはサウジに限らないと思いますが、なぜサウジでは雇用問題がそこまで深刻なのでしょうか。

細井長氏(以下、敬称略):サウジが他の中東諸国と違う一番の点は自国民の多さです。UAEやカタールは極端に外国人が多いので、外国人と自国民の割合は9対1ですが、人口の多いサウジでは半々程度です。

ー外国人労働者をめぐる変化も起きているのでしょうか。

細井:原油価格の下落が続くことで、企業に自国民の雇用を促す「サウダイゼーション」の強制力が強まっています。中東諸国は労働力の自国民化を掲げていて、サウジなら「サウダイゼーション」、UAE(United Arab Emirates)なら「エミライゼーション」と呼ばれています。

ー具体的にはどのような施策がとられているのですか。

細井:サウジでは、タクシー運転手など一部の職業は自国民しか就けないようになっています。また、「ニタカット・プログラム」では、会社が雇用しているサウジ人の割合に応じて、その企業で働く外国人の滞在(就労)を許可する期間をコントロールしたり、サウジ人の割合が低い企業にはペナルティを与えています。また、外国企業でも人事部門のトップは必ずサウジ人でなければいけないことになっています。

profile
細井長(ほそい・たける)氏。國學院大學経済学部教授。2004年立命館大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。主著に『中東の経済開発戦略』、『アラブ首長国連邦(UAE)を知るための60章』

ー雇用に関して特に大きな課題は何でしょうか。

細井:若者の雇用問題です。サウジでは30歳未満の人口が国民の約7割を占めています。このままいくと、2030年までに労働人口が2倍になるとも予想されています。女性の雇用となると、さらに厳しいですね。

ー女性の就労が難しいのは、やはり宗教的な理由からですか。

細井:イスラムの中でもサウジは厳格な方で、宗教的な理由から女性の社会進出はかなり制限されています。まず、車を運転することができない(認められていない)ので、移動が制約されます。親族の男性に運転してもらうか、運転手を雇わないと仕事に行けません。また、家族以外の男性には顔を見せられないこともあって、勤めに出ること自体が難しい状況にあります。

一方で、女性でなければ就けない職業もあります。UAEの学校では男女で授業を分けていますが、サウジの場合は小学校から大学まで、学校自体が完全に男女別です。だから女子校では当然、教員も女性に限られます。その他にも、銀行の女性専用コーナーや、婦人服の販売員などは女性に限られますが、ごく一部の職業だけです。

女性抜きで成り立っている労働市場、経済構造を簡単に変えることは、かなり難しいと思います。だからサウジでは女子大生がものすごく多いんですよ。

溢れる大学生、就職先延ばしのため?

ー女子大学生が多いということは、進学率は高いのですね。

細井:サウジは国家予算の多くを教育分野に割り当てていて、公立学校は大学まで学費無料。近年は大学の数をかなり増やしています。

ただし、表向きは教育に力を入れているということになりますが、実態としては、若者の雇用を4年間先送りする意味合いが大きいのではないでしょうか。

ーなるほど。でも、卒業を迎えたらどうするのですか。

細井:女性の場合は、結婚相手も親が決めるので、大学生でも結婚していて、出産のために休学するケースは珍しくありません。卒業後はそのまま家庭に入る女子学生も多いです。

喫緊の課題は、若い男性の就職先がないことです。待遇の良い公務員が一番人気ですが、サウジは人口が多い分、競争率も高くなります。国営企業(石油会社など)もダメなら民間ということになりますが、国営と民間では歴然とした給料の差があるので、行きたがらない。

企業からしてみても、サウジ人よりも低賃金で仕事のできるインド人やフィリピン人に働いてもらった方が効率的です。

ーそれでは失業者が増える一方ですね。

細井:失業保険に相当するものがあり、暮らしていく分には困らないのですが、原油価格がここまで下がると、さすがに悠長なことを言っていられないという危機感はあります。

国の在り方が問われている

ー大学の教育レベルという点では、キング・ファハド石油・鉱物大学は2008年にアラブの大学で唯一、Times Higher Educationの大学世界ランキングに入っていますね。

細井:やはり国の基盤となる分野ですから、石油に関する教育は相当レベルが高いですね。また、優秀な人材は国が留学費用を全額負担して、海外に留学させます。その中でも特に優秀な人材では、帰国後に初任給200万円級のエリート公務員になる人もいます。

一方、いわゆる“時間稼ぎ”のための大学では、例えば、授業で行う実験でも、準備から片づけまで、すべて助手がお膳立てをして、学生は薬を混ぜて終わり。そんな話も耳にします。職員よりも学生の方が高級車に乗っているくらいですから。家にメイドがいるように教育現場でも助手が大勢いるのです。

ー国民全体の教育レベルを底上げするという方向にはならないのですか。

細井:単純に、増える若年層に対して教育現場が追いつていない面もあると思いますが、かなりうがった見方をすれば、国民の反発を避けるために「あえて賢くさせないようにしている」とも受け取れます。

ーそれでも、お金で国民を満足させられなくなれば、反発も強まるのではないでしょうか。国際通貨基金(IMF)の見込みでは、歳出維持に必要な資産が5年以内に底を尽くと言われています。

細井:IMFの勧告を受け、サウジを含む湾岸6カ国では、付加価値税(VAT:Value Added Tax)の導入が検討されています。VATは日本でいう消費税に相当するで、ヨーロッパやアジア諸国で導入されている税制度です。けれども、税金を徴収すると国民に選挙の機会を与えなければならないので(地方選挙制度はあるが)、それは避けたいというのが本音でしょう。

今は不要不急の公共事業を先延ばしにするなど予算の圧縮や、積立金を取り崩す、補助金を削減するなどして、どうにか食いつないでいる状況です。しかし、このままでは税制のあり方を検討せざるを得ない状況になるでしょう。その場合、一から徴税システムを築けるのか、という別の問題があります。

いずれにしても、このまま原油価格が下落し続ければ、今までオイルマネーで抑え込んできた国民のさまざまな不満が噴出する可能性が高まります。「今をしのげるか」ではなく、長期的な国のあり方が大きく問われている時期だと思います。

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