学部長挨拶

2024年4月1日更新

 本居宣長が寛政10年に『古事記』の注釈書である『古事記伝』を完成させた後、初学者のために著した『うひ山ぶみ』という書物があります。これから学問をはじめようという人に対する貴重なアドバイスが簡潔に記されています。
 多岐にわたる学問を残らず学ぼうとしても「一人の生涯の力を以ては、ことごとくは其奥までは究めがた」い、と宣長は言います。
 ではどうするか。宣長の答えは、「主(むね)としてよるところを定めて、かならずその奥をきはめつくさんと、はじめより志を高く大きにたててつとめ学ぶべき也」というものでした。そして、「主としてよるところ」とは、「道の学問」である、と言います。
 「はじめより志を高く大き」く立てて、「道の学問」につとめること。宣長は、今日ほど複雑で膨大ではないにしても、すでにさまざまな学問分野や知識が並立していた時代において、このような構えを大切にしようと唱えたのです。
 現在、生成AIの発展が話題を呼んでいます。生成AIの諸々のサービスが蓄えている知識の量や、それをもとにした推論により出力されるテキストの的確さ、妥当性は、それを利用する大半の人の能力を追い抜いていくことでしょう。
 しかし、学問をはじめようというときに人が抱く「志」までを、それらのサービスが代替してくれるわけではありません。ましてや学びの方法の習得をさしおいて、発展途上のサービスに頼り切るのもあやういことです。
 神道文化学部では、神道を中心とする日本の伝統文化と、国内外のさまざまな宗教文化を学ぶためのカリキュラムを提供しています。そして、ここでの学びを国際化、情報化が進んだ社会の発展に生かせる人を育てることを目的にしています。
 日本の伝統文化に対する人々の関心は、ポップカルチャーにそうした要素がしばしば含まれていることからも感じられます。人口減少社会において、地域の文化継承の担い手が求められています。また、グローバル化と価値観の多様化が進む世界で、対話や相互理解をどのように進めるかという重い課題も存在しています。そうしたことから、神道文化学部での学びの成果が適用可能な場面は、今日の社会においてある程度の広がりをもつことでしょう。
 ですが、それ以上に皆さんに期待していることは、神道文化学部での学びが、皆さんの一生涯を支えるかけがえのないものになることです。そのために、皆さんひとりひとりが主体的な「志」を立てて、正課・正課外の学修に臨むことを願います。

神道文化学部長 黒﨑 浩行
(令和6年度 神道文化学部ガイドブックより)

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