大正12年5月、皇典講究所・國學院大學は飯田町から渋谷に移転した。授業は6月より開始されたが、9月の関東大震災により校舎の一部が損壊し、その後、復旧に努めた。また、同年10月には久邇宮邦彦王を皇典講究所第4代総裁に推戴する。
翌、大正13年11月25日、総裁推戴式と損壊した本館の竣工式が行われ、あわせて記念展覧会が行われた。これには宮地直一〔明治19年(1886)―昭和24年(1949)〕、山本信哉らが尽力している。
宮地は神道史学者であり、東京帝國大学において国史・国文学者の萩野由之〔万延元年(1860)―大正13年(1924)〕に師事した。卒業後は内務省に入り、神社考証などを担当する。皇典講究所・國學院大學との関係では、明治42年より神職養成部において「神祇史」を担当し、後に本学教授となっている。
この展示に宮地は『諸国大明神神名帳』を出品している。同資料は萩野由之が京都で買い求め、宮地に譲ったものである。
萩野は東京大学文学部古典講習科の一回生であり、明治34年に東京帝國大学教授となっている。古典講習科の同期生には、池辺義象、落合直文がおり、萩野を含め、彼らは明治23年
11月に皇典講究所を母体として開院した國學院の講師となった。
宮地直一が収集した資料等は平成15年に本学へ寄贈され、和装本については研究開発推進機構伝統文化リサーチセンター(オープン・リサーチ・センター整備事業「モノと心に学ぶ伝統の知恵と実践」、平成19年〜24年)において調査・整理された。現在は國學院大學図書館に収められ、研究・教育活動に利用されている。このうち、『古文書 一』には、他の神道・神社に関する資料とともに宮地が萩野より譲り受けた神名帳の写しが綴じられている。
この資料は京都府向日市周辺に流布する勧請神名帳の一本にすぎないが、総裁推戴式并復旧竣工式の際の記念展示や本学の研究にゆかり深い人々を想起させる資料である。学報連載コラム「学問の道」(第3回)
大東 敬明
研究分野
神道史、神道思想史、祭祀・祭礼
論文
神道印信類の集成と伝播―真福寺大須文庫所蔵資料にふれながら―(2023/09/00)
『神道沿革史論』以前の清原貞雄―外来信仰と神道史(2023/03/20)