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「修理固成(つくろひかためなせ)」の人育てとは~我が国古来の人育て~

おやごころ このおもい

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國學院大學名誉教授・法人特別参事 新富 康央

2023年10月23日更新

近くて遠い? 遠くて近い? そんな親の気持ちや大学生の子どもの気持ちを考えます。


 

 前号で述べたように、欧米の「つくる」文化に対して、日本のそれは「(自ら)なる」文化です。「他」を「自己」との対峙と見る欧米の「狩猟文化」に対して、日本のそれは、「他」と「自己」を包括的に捉える「稲作文化」と総括されます。

 それは、我が国の子育てにおける「しつけ」の語源にもなっています。 田植えの季節に入ると、地方では今日でも古老は、「そろそろしつけ時だな」という言葉を交わします。実は、我が国の子育ては、早苗を本田に移す田植え、すなわち「しつけ」に象徴されるのです。

 今、「実りの秋」ですが、我が国には「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という格言があります。一般に「偉くなっても、頭を低くして謙虚に生きるべき」という処世訓ととらえられてもいます。

 しかし、その真意は、社会的自立や精神的自律の尊さを促す子育てに関する格言でもあります。何故、首を垂れるのか。それは、茎がしっかりとまっすぐ立っているからであり、子育てにおける「なる」の成果なのです。「外」から手をかけ「つくろう」としても、本人自身が「なろう」としない以上、いくら「外」から持ち上げようとしても、稲穂の頭は垂れることができません。地べたに、はいつくばかりです。

 今年の夏の全国高校野球選手権大会では、慶応高校野球部の自由を重んじる「エンジョイ野球」が話題になりました。実は、慶應大学創設者・福沢諭吉も、‘education’を「教育」ではなく「開発」と訳した人物です。

 したがって、その系譜を辿れば本学の「修理固成」に行きつくのです。

 同じく、我が国の「なる」子育てを象徴する言葉の一つに、「啐啄同時(そったくどうじ)」という禅宗由来の格言があります。これは、鳥の雛が孵化する時に卵の殻をつついて音を立てるのと、それを聞きつけた母鳥がすかさず外から殻をつついて殻を破る手伝いをするのが同時であるという意味です。「母親が雛の自立を待てずに殻をつつくと、雛は死んでしまう」という戒めなのです。

 これも「(自ら)なる」ことを子育てのモデルとする我が国固有の人育ての格言と言えます。

 他にも、「紡(つむ)ぐ」、「育(はぐく)む」などの子育て用語も、「伸びたいという気持ちが出るのを待つべき」という我が国古来の「修理固性」の子育てに基づくものです。

 今回は、逆境に際して勇気づけられる明治天皇御製で締めくくります。

 「大空に そびえて見ゆる たかねにも 登ればのぼるほど 道はありけり」

 

 

新富 康央(しんとみ やすひさ)

國學院大學名誉教授/法人参与・法人特別参事
人間開発学部初代学部長
専門:教育社会学・人間発達学

学報掲載コラム「おやごころ このおもい」第18回

 

 

 

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