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「人間としての総合力」を伸ばす学部教育・研究のあり方

経済学部・星野広和学部長が目指す、学部の姿 ー後編ー

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経済学部長・教授 星野 広和

2023年5月1日更新

 令和5(2023)年度から2期目を迎えた経済学部の星野広和学部長。同学部が人材育成の面で目指すのは「So What(そこから何が言えるのか)」を突き詰めて社会に貢献できる人材。そのために「人間としての総合力」を伸ばしたいと考える。具体的にどのような教育を行うのか。また、本学部が研究機関としてこれからやるべきことも同氏は明確に掲げる。教育・研究の両面で具体的な話を聞いた。

 

「インプットなきアウトプット」と向き合っていく

 学生が人間性やコミュニケーション能力、熱意といった「総合力」を養うために、本学部では毎年、1年次に企業や行政、団体と連携した課題解決型のプレゼンテーション大会を開催してきました。外部組織から提示される「正解のない課題」に対し、グループに分かれた学生が提案を行います。

 また、それぞれのゼミが集まった成果発表会を3年次に行い、従来の論文を書いて提出するだけでなく、その場で教員の批判や質問に学生が答えるなど、コミュニケーション能力を養う場を強化しています。

 真のコミュニケーション能力を伸ばすには、緊張感のある場で社会人と会話することが必要です。社会に出れば、会話の至るところに交渉ごとが含まれ、相手の深層心理を引き出す、要求を承諾してもらう技術も求められる。この能力は学生同士の雑談ではなかなか育まれません。

 一方、学生同士のグループ作業においては、発言力の大きい学生がリーダーになり1人で進めるのではなく、全員がそれぞれの役割を作り、シェアドリーダーシップで進める形を重視しています。集団組織で力を発揮することが社会で活躍する要素であり、グループや集団を意識しながらその立ち振る舞いを学ぶことも本学部の特色なのです。

 一連のカリキュラムでは、学生のアウトプットだけでなく、その前提となるインプット、情報収集の力を養うことにも力を入れています。

 スマートフォンをはじめとしたテクノロジーは、学生の学びの手段を大きく変えたと感じています。かつて情報をインプットする場合、ニュースや新聞、大学の図書館などから自分で探して取捨選択するか、学生同士、あるいは教員との議論をきっかけに情報を入手していました。議論で負けたくないという思いから自分で情報を調べインプットしたものです。

 しかし今はそうした「無意識の競争」姿勢を持つ人が少なく、議論は生まれにくい。それどころか、スマートフォンでインターネット検索すれば“正答らしいもの”にたどりつくことができます。すると学生が注力するのは、それら情報を集めてうまく加工し、綺麗にプレゼンすること。これでは大学の学びと言えません。

 アウトプットの技術は場数を踏めば一定程度備わるものです。それ以上に身につけてほしいのは、目の前の情報を鵜呑みにせず精査する真のインプットです。近年はデータサイエンスの重要性も増していますが、仮に2つの変数に相関関係があったとして「相関がある」とすぐに受け入れるのは本質ではありません。その相関の裏にどんな因果関係があるのか。あるいは因果ではなく、第3の要因で起きた相関なのかを考えることも重要です。

 繰り返しになりますが、情報を集めて加工することが大学の学びなのかという疑問を常にもっている私にとって、現代の学生に広がる「インプットなきアウトプット」を正していくことが重要であり、議論を呼び起こすカリキュラムはその一翼を担っていると考えています。

 

教員の働き方を改善し、さらなる教育成果を生んでいく

 大学は、研究機関として質の高い研究を世に出すことで、良い教育を施していきます。そしてその成果を社会に還元することを使命としています。このために、教員の労働環境改善を継続的な取り組みのひとつとして、大学の中期5ヵ年計画にも盛り込んでいます。

 本学部は学生数が多く、教員数が相対的に少ないいわゆる“ST比が高い”学部です。ゼミ加入者の増加により、教員の時間的な制約が増える可能性もあるでしょう。

 その中ですでに対策を考えており、たとえば本学部では、定期テストの採点作業の軽減に向けた取り組みを進めています。

 講義形式にも改善の余地があります。コロナ禍での新しい授業形態からの発見として、対面よりもオンライン授業の方が教育効果の高い科目があると考えています。ゼミや英語の授業は対面講義が最適解でしょうが、知識伝達型の授業ではオンラインの方が優れている場合が多く、学生アンケートでも希望者が多い結果が出ています。教員にとっても授業効率が良い場合があります。一層の検証は必要ですが、対面とオンラインを使い分けながら、効率化との組み合わせによって時間を創出し、それを教育・研究活動に活かすサイクルの実現を引き続き目指したいと考えています。

 教員の働き方を改善し、研究時間を確保することは教員の満足度向上をもたらします。結果として、良い教育が加速して学生満足度の向上にも結びつくでしょう。教員が質の高い研究を重ね、世の中に還元する姿を間近で見せることで、学生も本質を見失わず、突き詰める姿勢を学ぶことができるのです。

 

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星野 広和

研究分野

経営管理論、経営組織論、経営戦略論

論文

「なぜ経営学では小倉昌男とヤマト運輸を学ぶのか」(2023/09/30)

「イノベーションの停滞と製品不具合に関する一考察:自動車用エアバッグの技術進化のケース」(2021/03/31)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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