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脳科学と教育の視点で考える。組織キャンプはなぜ脳の発達に良いのか(連載第9回)

ランタントーク Vol.5 「育脳」<前編>

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人間開発学部・子ども支援学科 准教授 青木康太朗

2021年12月17日更新

他者とのコミュニケーション能力や、メタ認知といわれる客観的な思考力、知的探究心、最後までやり抜く力――。これらは学力やIQでは測れない「非認知能力」と呼ばれ、特に幼少期に養う能力として重要だと考えられている。また、最近は非認知能力の向上が認知能力を上げることにも関係しているという報告が増えてきた。

そんな中、子どもの非認知能力を上げるためにキャンプが有効だという人がいる。脳科学者である東北大学 加齢医学研究所の瀧靖之教授だ。同氏は、脳科学の面からキャンプが脳の発達に与えるメリットを発信しており、著書『脳科学者が教える!子どもを賢く育てるヒント「アウトドア育脳」のすすめ』(山と渓谷社)でもその大切さを説いている。

一方、教育の分野からキャンプの有効性を考えてきたのが、國學院大學の青木康太朗准教授(人間開発学部 子ども支援学科)。青木氏は「青少年自然の家」で知られる独立行政法人国立青少年教育振興機構にかつて在籍し、“組織キャンプ”を通してキャンプの教育的な意味を追求してきた。

今回は、この2人が対談。キャンプが子どもにもたらす有効性と、そのメリットを意図的に活用する組織キャンプについて考える。

脳の発達を考えると、子どもにとっての「外」は奥行きがあるほど良い

 脳科学の立場からすると、キャンプやアウトドアは脳の発達にいいことばかりなんです。子どもたちの脳は、同時期にすべての領域が同時に発達するのではなく、順を追って各領域が発達していきます。たとえば2歳頃になると、自分の世界と外の世界、あるいは自者と他者の区別がついてくる。すると外の世界に興味を持ち、いろいろな事象に疑問や関心を抱きます。いわゆる「なぜなぜ期」と呼ばれる時期になります。

 この時期は、できるだけ子どもの知的好奇心を伸ばしてあげることが重要で、そのためには子どもにとっての「外」の対象ができるだけ広くて深くて奥行きのある方が良い。まずそこで自然は適しているんですよね。同じ場所でも季節や時間で見えるものが変わりますし、昆虫や植物を見始めれば毎日違う発見があります。

子どもの非認知能力を高めるために「アウトドア育脳」を提唱する瀧氏

青木 “奥行き”という表現はまさにおっしゃる通りだと思います。人工で作られたものは、デジタルなどもそうですが、どうしても“ここまで”という境目があります。自然は境目がなく、無限大の奥行きですよね。くわえて人工物よりもずっと多様でパターン化されない刺激や情報があふれています。

 さらに3歳頃になると、運動に関わる脳の動きが発達してきます。アウトドアはまさしく運動そのものですよね。この点もメリットです。それから、幼少期の終盤で発達するのが脳の前頭前野と呼ばれる部分です。ここはコミュニケーション力や相手の気持ちを理解して適切な行動をとる能力など、人間らしい機能をつかさどる部分。「非認知能力」に関わってきます。
 
 アウトドアは、まさに非認知能力を養う上で適していると思います。キャンプに数人で行くとコミュニケーションや気遣いが求められますし、日常に比べて便利な道具がない分、やり抜く力や対応力が大切になる。子どもたちの脳の発達に重要な要素が揃っているといえます。

非認知能力を高めることが、学力などの認知能力向上にもつながる

青木 いまお話に上がった非認知能力は、社会に出てから特に求められる能力です。それもあって、近年重視されていますよね。非認知能力の対極に認知能力、学力やIQなどの能力がありますが、仮に学力が良く、良い大学を出て良い就職をしても、そこから社会で活躍できるか、あるいは豊かな人生を送れるかは、コミュニケーション力や諦めずにやり抜く力など、非認知能力が大切になってきます。

 とはいえ子どもたちを取り巻く現状を見ると、学校教育も保護者の考え方も、まだ認知能力主体と言わざるを得ません。もちろんそれも大切ですが、あわせて非認知能力を小さい頃から鍛えないと、受験や就職をクリアし、たとえ良い形で社会のスタートラインに立てても、そこから苦労してしまう可能性があります。

青木氏は、自然体験を通じた教育のあり方を追究してきた

 同感です。さらに最近は、認知能力の向上にも非認知能力が関係しているという報告も増えています。つまり、学力などを上げるために非認知能力が重要だと。

 考えてみれば、好奇心や探究心の高い方が、学業成績も高くなる可能性はありますよね。それは自分の子ども時代を振り返っても想像がつきます。私は北海道の生まれで、小さい頃から虫取りに夢中になりました。いまでも子どもと虫を追いかけているほどです(笑)。

 あるとき蝶をとるのに夢中になったら、次第に好奇心が湧いて図鑑で調べるようになり、そのうちに海外の蝶に興味を持って英語の本を一生懸命読むようになりました。そしてこの好奇心は、生物や歴史、地理など、いろんな方向に広がっていったんです。いわば勉強を勉強と思わず、趣味のつながりで興味本位に学べたと思っています。

青木 子どもの学びのプロセスは、体験から始まるといわれます。体験して不思議に感じると知的好奇心が生まれ、学ぶ意欲につながる。そうして学んだものが知性として身につき、今度はそれを生かそうと考える。この一連のプロセスを考えても、非認知能力と認知能力にはつながりがありそうです。

自然の中で出合うさまざまな虫や植物が、子どもの好奇心を生むことも

 感情と記憶は有意な相関があることがわかっており、面白いことや好きなことは覚えやすいんです。そう考えると、将来的に認知能力を高めるためにも、まずは幼少期にキャンプで非認知能力をつけることに大きな意味があると思います。ですので、青木先生が行ってきた子どもたちの組織キャンプにはとても興味がありますね。

日常の延長戦ではない関係だからこそ「コミュニケーション」が養われる

青木 組織キャンプの特徴のひとつは、何らかの「ねらい」や「目的」を持って行うことです。これがレジャーキャンプとの大きな違いですね。特に教育的な目的が多く、先ほどお話に上がったコミュニケーション力や仲間同士での関係づくり、あるいはやり抜く力の育成などを目的に据えて、プログラムを組んでいきます。

 もうひとつの特徴は、身内ではなく、第三者の大人が指導者となって子どもに関わることです。先ほど目的を持つのが組織キャンプの特徴と言いましたが、その目的を達成するために、ひとつひとつのプログラムに仕掛けを施していくのが指導者の役目です。もちろん、現場で子どもたちにかける言葉なども、その目的を達成するためにどうすべきか考えて行っていきます。

組織キャンプでは、薪割りの指導ひとつをとっても明確な意図がある

 親ではない、第三者の大人というのがポイントですよね。私も子どもが小学校1年のときに一度組織キャンプに出したのですが、1週間ほど親の手を離れるのは、子どもにとって大きな体験だったようです。少子化で世帯当たりの子どもが少なくなる中、私も含めてどうしても親は過保護になってしまう。子どもが親元から離れてキャンプを行うと、感じるものが多いのでしょう。

青木 仮に、親子で組織キャンプのようなことをやろうとしても難しい面があります。子どもは親に甘えるし、親も子どもを甘やかしてしまう。日常の関係性を引きずってしまうのです。そこを一線引いた指導者が関わることで、子どもの態度は大きく変わる。組織キャンプには初めて会ったお兄さんやお姉さんがリーダーとしているわけですが、リーダーに「認めてもらいたくて頑張る」というのはよくあることなんですよね。

 組織キャンプで重要なのは、日常の延長線ではないことです。指導者もそうですし、一緒にキャンプするメンバーも、学校とは違う関係性であることが多くなります。普段の生活と異なる環境、人間関係の中に行くので、一からコミュニケーションを構築しければなりません。

 また、組織キャンプの中には1週間などの長期のものもあります。子どもたちは3、4日までならいろいろと我慢できるのですが、それを超えると本音が出てくる。ここでどう他者と折り合いをつけるか。しかも、関係性の薄い他者です。まさにコミュニケーション能力の向上につながってきますよね。

 私たち大人もそうですが、普段の生活ではそれぞれに固定化したキャラクターのようなものがあります。しかし組織キャンプは、普段とは違うコミュニティで行くということですよね。すると、このキャンプでの自分のキャラや役割は「いつもと違うかもしれない」と、子どもなりに考えますよね。周りのメンバーを見ながら、こんなキャラクターで行った方がいいかもしれないと。それはコミュニケーション能力をつける上でとても大切だと思いますし、実は客観的な思考力、あるいは自己肯定感の醸成にもつながるかもしれません。

(後編では、なぜ組織キャンプが客観的に見る力や自己肯定感につながるのかを2人が語ります)

青木 康太朗

研究分野

野外教育、青少年教育、リスクマネジメント、レクリエーション

論文

青少年教育施設における危険度の高い活動・生活行動の現況と安全対策に関する一考察(2021/01/15)

キャンプにおける安全教育が参加者の危険認知能力の向上に及ぼす効果に関する研究(2016/02/25)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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