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ゼロから学んでおきたい「戦国時代」《下》

史料で実証、戦国の認識も変わる

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文学部教授 矢部 健太郎

2020年5月29日更新

 「戦国時代は戦乱が続く暗黒の時代」とする一般的な理解が間違っていることは、近年の研究によって段々と分かってきました。「小説やテレビドラマの影響が大きい」と多くの研究者はその間違いの出所を指摘します。「ゼロから学んでおきたい 戦国時代」の最終回は、「歴史の学び」にスポットを当て、國學院大學文学部の矢部健太郎教授に実証史学の観点から解説していただきます。

戦国末期に落城した逆井城の跡地には二層櫓などが復元され、戦国初期の雰囲気を伝える=茨城県坂東市

史料研究で進む歴史の更新

 矢部教授は「信長の野望」というゲームで歴史に興味を持つようになったそうですが、「私が知った当時のゲームは、とにかく周囲の国を倒すだけ。それが、最近は同盟を結んだり、物のやり取りをしたり、寝返ったり・・・戦争状態以外の事象もゲームに反映されるようになりました」と変化に舌を巻いています。戦国時代のドラマはどうしても戦闘シーンが頭に残りがちです。名のある戦国大名や武将を主人公として描くため、人口の8割を超す庶民はフォーカスされません。これが「戦国時代は暗黒」だったり「戦国大名は常に戦っている」というステレオタイプな見方を生んだ、と矢部教授は力説します。そして、「その認識が徐々に変わった背景には、歴史研究の進展があるのです」と続けます。

 「教科書に書かれた歴史は不変」と思う人が多いと思います。しかし、実際には刻々と歴史は塗り替えられているのです。矢部教授には『関白秀次の切腹』(KADOKAWA)という著作がありますが、これは豊臣秀吉に実子の拾丸(後の秀頼)が生まれたことで、後継者として関白に任命されていた甥・秀次が切腹を命じられたとする通説に対し、「秀次は自ら死を選んだ」とするものです。

 「切腹命令は日程的に存在が疑わしく、江戸時代の偽文書の可能性がある」と、通説に違和感を覚えた矢部教授は研究を進め、「秀次自死説」にたどりついたのだそうです。遺跡発掘などで「歴史を塗り替える大発見」が報じられることがありますが、それはきわめて希なケース。歴史を塗り替えた新説の多くは、地道な史料研究から生まれるのです。矢部教授の著作も、丹念に史料を読み込む作業が新説につながることを証明したといえます。

 國學院大學の史学科では「教科書的な通説を疑い、自分で史資料や学術論文にあたり、合理的な解釈・検証を行って、自分の力で過去の歴史を読み解き再構築する」との「実証史学」を掲げており、矢部教授の新説はこれを実践したものといえます。しかし、実証史学に欠かせない史料研究にはさまざまな困難がつきまといます。例えば、文化財に指定されているような貴重な史料はなかなか閲覧させてもらえません。また、原本の多くは崩し字などで書かれているため読みこなすにはそれなりの知識が必要となります。そこで役に立つのが、「本学図書館の資料収集に対するポリシーだ」と矢部教授は指摘します。

 「本学の図書館は自治体が発刊する史料集を多く揃えています。そのラインナップは都道府県レベルどころか市区町村レベルにも及ぶ圧倒的なもので、閲覧に来る外部の研究者も多いのです」と矢部教授。まず、活字化された史料集の段階で研究の焦点を絞り、必要に応じて原本にあたるというスタイルが効果的だそうです。

 しかし、歴史学は図書館などでの座学だけではありません。渋谷駅からの通学路に鎮座する金王八幡神社の拝殿前に、一つの石材が置かれているのをご存じでしょうか? これは、平安末期から一帯を支配した渋谷氏が居城とし、後北条氏の攻略によって落城した渋谷城の石垣の一部とされるもの。このように、身近なところでも「戦国時代」に触れることは可能なのです。

 

逆境生き抜いた戦国の人々に学べ

 「国難」ともいわれる新型コロナウイルスの感染拡大で混乱が広がり、多くの国民は不安にさいなまれています。本学でも授業や行事変更等をお願いする異例の事態となっていますが、外出自粛で学びの場を奪われ、自宅などでの学習を余儀なくされている学生も多いはずです。そんな〝籠城戦〟での学び方について矢部教授は、「多くの研究機関がデータを公開しているので、インターネットを通じた学習は可能。学ぼうと思えば学べる環境は整っています」とエールを送ります。

 「日本列島は災害、飢饉、疫病など多くの国難を経継してきましたが、人々はそれでも上を向いています。今こそ冷静に行動することが大事です」と矢部教授は指摘します。情報通信技術をはじめとしたイノベーションが進むなか、新型コロナウイルスという新たな敵に翻弄される現代。この逆境の時代に、さまざまなイノベーションによって生き抜いた戦国武将や庶民から学ぶ物は多いかもしれません。

矢部 健太郎

研究分野

室町・戦国・織豊期の政治史・公武関係史

論文

「豊臣政権と上杉家」(2017/11/01)

「上杉家の上洛・「清華成」と儀礼認識-「清華成」の認知度-(2016/09/01)

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