ARTICLE

グローバルな時代だからこそ
渋谷から「日本」のあり方を考える

シブヤ対談 Vol.24 トップによる未来への「問い直し」 『國學院大學×株式会社ジェイノベーションズ』

  • 全ての方向け
  • 国際
  • 教育
  • 文化
  • 渋谷
  • 渋谷キャンパス
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

2020年4月1日更新

針本正行学長(左)・大森峻太社長(右)

渋谷を本拠地とする、國學院大學の針本正行学長とジェイノベーションズの大森峻太社長が対談。日本文化を伝える國學院大學と、外国人と日本人の国際交流プラットフォームを運営するジェイノベーションズが、インバウンド時代の「問い直し」を語る。

プロフィール
針本 正行(はりもと まさゆき) 大森 峻太(おおもり しゅんた)
國學院大學学長

株式会社ジェイノベーションズ代表取締役社長

1951年生まれ

國學院大學大学院文学研究科博士課程を経て、2000年より同文学部教授。2019年4月に学長に就任。

1989年生まれ。

國學院大學法学部卒業。大学在学中から3度の海外留学をし、2016年にジェイノベーションズを設立する。

 

外国人に対し「日本代表」として接する

針本 インバウンド需要が盛り上がる中で、日本にいても外国の方と関わる機会が増えています。そこで感じるのは、外国の方との関わりが、逆に自分の足下、日本の文化を見つめ直すきっかけになるということです。私はさまざまな事象を「問い直す」姿勢が大切だと考えており、それは物事の淵源、成り立ちや今に至る変遷を辿り、事象そのものやそこにまつわる問題を考察することを意味します。インバウンドはまさに日本のあり方や日本文化を問い直すきっかけになると感じます。

大森 そう思います。弊社は、国際交流を希望する日本人と外国人をつなぐ国際交流プラットフォーム「ジャパン・ローカル・バディ」の運営など、訪日外国人観光客へのガイドサービス事業を主軸にしていますが、まさに同じ感覚です。神社とお寺の違いを聞かれるのは定番ですし、エスカレーターに乗る際、左右どちらに並ぶか地域で異なる理由なども尋ねられます。もともと、大学時代の留学がきっかけでこの事業を始めましたが、留学先でも、毎日「日本代表」として意見を求められました。グローバルになるほど、逆に日本を意識するのではないでしょうか。

針本 以前、渋谷区長の主導で、渋谷区を魅力的にするアイデアコンペが行われました。そこで本学の学生が、外国人向けのトイレマップを提案し、採用されたことがあります。アイデアの背景を聞くと、学生が渋谷区でボランティア活動をした際、外国人にトイレの場所を頻繁に聞かれたと。渋谷をよく知る日本人ならトイレの場所もだいたい把握していますが、外国人には大きな問題だったようです。学生はトイレマップに加え、外国の方からヒアリングした日本のトイレへの要望も区に提言していました。これも、グローバルの目線で問い直した渋谷や日本の姿ですよね。

「外国の方に日本文化を伝えることは、問い直しの機会になる」と針本学長

違いに気づき、一歩踏み出すことの意味

大森 特に渋谷はインバウンドの中心地と言えます。外国人に「行きたい場所」をリサーチすると、欧米豪の方はほぼすべての国で渋谷が1位になるほど。そして彼らが日本に来て魅了されるのは、古い街並みや伝統文化です。「新しいものは真似できても、日本の長い歴史の中で生まれてきたものは真似できない」と言われますし、だからこそ日本独自の魅力があると感じます。日本人としてそれらをきちんと残していくことが重要だと痛感します。

針本 確かに渋谷の「のんべえ横丁」も、外国人の姿が多いですよね。まさに古くから続く日本を感じるのでしょう。では、日本人が外国の方を横丁に案内したとき、お店にかかっている“のれん”とは何かといった文化的なことだけではなく、なぜこういう場所ができたのか。なぜこういった場所が時代の中で減っていったのか。それを辿ると、実は日本の文化だけではなく経済史までも見えてくるかもしれません。これが淵源を探ることだと思うのです。

大森 重要なのは、たとえば文化の違いに気づいた後、それを自分の経験として活かすことではないでしょうか。おそらく旅行に行けば、皆さん日本との違いに気づくはずです。たとえば6年ほど前、アメリカを訪れた際にシェアサイクルが流行していて、自由の女神像の近くにシェアできる自転車が並んでいました。一瞬「これは何?」と思っても、多くの人は次の瞬間に自由の女神を見ているかもしれません。そこで疑問に終わらせず、シェアサイクルのシステムやシェアリング文化の流行を調べてみました。そうすると、シェアという動きが出てきているという日本との違い、その国の動きを知ることができました。違いに気づくだけでなく、追求して展開する。そうやって“一歩踏み出す”と、より深い問い直しになるだけでなく、“違いの発見力”が自分の武器に昇華されると思います。

針本 先ほどのトイレマップはまさに「一歩踏み出した」実例かもしれません。今はSNSやデジタルツールにより、一人の気づきや行動が共有化・マニュアル化されていきます。トイレマップも同様です。それは、より多くの人が新しい知の発見をする動機になるかもしれませんし、逆に情報をあまりにも手軽に得られるので、その人自身が気づき、考える機会を逸する可能性もあるでしょう。

大森 両面あると思います。まさに世界の流れや価値観は「共有化・シェア」であり、一人の気づきをSNSなどで拡散します。それは素晴らしいことですし、発信した側にはプラスでしょう。しかし、共有された側がその情報を受け取る“だけ”になると、学びにつながらない。情報が大量にあるだけに、受け身だけの人は自己成長の意味で厳しい時代になるかもしれません。

大森氏は、違いに気づき深く考察する「違いの発見力」の大切さを語る

多様なあり方を受け入れ、重ね合わせる

針本 スタートアップの経営者としての実感のこもったお考えですね。一方、教育機関としては受け身の学生、時に一歩踏み込むことをためらう学生もいますが、彼らも自立した存在として尊重するべきだと考えています。どうしても社会は「こうあるべき」「こうしよう」と一義的な方向に流れる傾向にあります。しかし、人間のあり方は多様です。海外との違いに気づいて行動に移せる人も良いでしょうし、なかなか行動に移せない人も良いでしょう。ただし、学生たちがチャレンジしようと思ったときに、できる仕組みは整えておく。それが教育機関としてのスタンスです。

大森 お互いの立場による見方の違いですよね。やはりスタートアップで前に進んでいく立場としては、一歩踏み出す部分の育成が大事だと考えています。僕自身、学生の頃はそれをクセにするよう心がけました。そうして実際に行動すると、今まで知らなかった外の世界に出るので、さまざまな学びが生まれます。ですから、若いうちは居心地のよくない場所にたくさん踏み出すべきだと思っています。

針本 おそらく、一歩目の踏み出し方は人それぞれ異なるでしょう。大森さんは海外留学が引き金になりましたし、別の形の人も当然いる。教育機関としては、学生がさまざまな一歩目、違う環境にチャレンジできる仕組みをつくっておき、踏み出す先は強制しない形でありたいなと思います。ひとつの形として、グローバルに身を置くことは自分の足下や依って立つ場所を見出す契機となるでしょう。

大森 今は日本人が忘れかけていたことを外国の方が発見して、日本人が再度気づくという「価値を見出す連鎖」が起きています。私も國學院大學の卒業生ですが、本当の意味で大学の良さに気づいたのは、卒業してからでした(笑)。まさに日本文化を学べる場所ですし、その土台をもとに海外の文化と比較できます。

針本 それは嬉しい言葉です。国際交流は、日本文化を一方的に押し付けるのではなく、外国の文化も教えてもらうものだと思います。そうやって自らと異なるものから学ぶことが重要ではないでしょうか。私は源氏物語の研究をしてきましたが、研究の世界も根本は同じです。源氏物語は、鎌倉時代から1000年続く研究史があり、各時代で完結した研究成果が出ている。一方、時代を重ねるごとに新しい視点の研究も出てきます。たとえば、日本の古典である源氏物語を海外の文学理論で考えるといった研究方法も出てきています。大切なのは、古来からの研究成果を見直しつつ、新しい研究成果を見ること。両方を受け入れ、重ね合わせることが求められると感じます。

ジェイノベーションズが携わる渋谷区観光協会の「青ガエル観光案内所」

 

 

 

針本 正行

研究分野

平安時代文学の研究

論文

「『八まんの本地』の解題と翻刻」(2019/03/07)

「國學院大學図書館所蔵『俵藤太物語』の解題と翻刻」(2018/03/07)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

MENU