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伝えたいことの芯にあるのは、究極のアナログ=人
(みんなのアナログ VOL.8 )

BEAMS名物ディレクターがこだわるアナログとは?(後編)

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BEAMSディレクター 加藤忠幸さん

2020年3月30日更新

 
 渋谷で活躍する皆さんに、ご自身が大切にしている「アナログなもの」についてうかがう「みんなのアナログ」。
 前回に引き続き     セレクトショップBEAMSの加藤忠幸さんにご登場いただきます。加藤さんが手掛けるのは、BEAMSでも異彩を放つサーフ&スケートブランド「SSZ」。前回はZINEについて語っていただきました。今回は、一筋縄では行かない、ギミックに満ちた服がどのようにして生まれるのか、服作りのこだわりについてです。そこにはやはり、アナログ的なこだわりが!?
 
 
――SSZが誕生する前、社長に手書きの企画書を持って直訴したそうですね?
 
加藤 ショップスタッフだったときですが、BEAMSでサーフィンとスケートの店を出したいと思って、一大決心して社長に企画を出そう!と。やっぱり思いを伝えるには、手書き以外ないと思ったんです。僕が思いを伝える手段は、だいたいアナログなんです。
 どうやったら社長に会えるか分からないので、社長秘書     に電話して「社長に時間を取っていただきたい」と話しました。もう、当時はペーペー中のペーペーですよ。でも、BEAMSって若い社員のアツさを無下にしないんです。なんと1時間も話を聞いてくれました。もちろんその場で結論など出ませんでしたが「僕はおもしろいと思うけど、サーフィンやスケートのことはよく分からないから、詳しいやつに聞いてみよう」と言ってくれました。その時は、上層部から     「サーフィンやスケートはそう甘いもんじゃない」という結論が出て、ボツになったんです。
 でも、そこで気持ちが落ちてしまったらだめ、いろんなやり方があるはずだから「よし、じゃあ違う角度から自分ができることってなんだろう?」と気持ちを切り替えたんです。
 

ショップスタッフ時代は商品企画書をたくさん提出した。不採用が続いたスランプの時、     加藤さんのセンスに着眼した上司がサーフィンしようと海に呼び出し、書き方指南をしてくれたこともあったそう。
 
 
――タフですね。
 
加藤 今のSSZに至るまでにはいろいろありました(笑)。お店のアイディアがボツになったあと、自分の所属している事業部のトップが、サーフ&スケートのバイイングの枠を自分に任せるって言ってくれたんです。すっげぇうれしかったですね! でも、いろいろありまして、そのときは実現しませんでした。
 そのあと、ショップスタッフ、アシスタントバイヤーを経て2012年にバイヤーという肩書をいただきました。SSZがブランドになってディレクターにもなり、原宿の店舗の中にコーナーを持つようになったのは2017年です。
 
――SSZは加藤ブランドということですよね。
 
加藤 SSZは加藤シグネチャーだと思っています。僕が好きなスケートブランドの創設者やアーティストへのオマージュ含め、今まで経験してきたカルチャーを伝えるブランドです。
 ストレートじゃなくて、ひねりを効かせて「あれっ? これなんだろう?」というギミックを仕込んでいます。でも実用性もある。
 SSZを知ってもらうために、今回はコラボレーションにも力を入れたんですけど「吉田カバン✕SSZ 2P4L」っていうバックバックは、吉田カバンさんとのコラボ。背面と前面どっちにもショルダーが付いていて、前と後ろで背負いあえるデザインです(笑)。2ピープル4レッグ、2人4脚ってタイトルですけど、実際に背負い合うことはないでしょう。けど、前と後ろで色を変えていますから(ちなみに、えんじとネイビーで、これは鎌倉にある学校のスクールカラーです)、気分でどっちも使えるようになってるわけで。背面のショルダーが邪魔だったら中に入れられます。こういう「え? あれれ?」っていう感じの癖がある服やアイテムがSSZっぽいんです。
 タイトルもユーモアを感じてもらえるように1つ1つすごく考えているんです。これは、マルセル・デュシャンってアーティストのタイトルの付け方にも影響を受けています。
※マルセル・デュシャン 現代美術の父とも言われる。作品タイトルはユーモアや皮肉を込めたものが多い。
 
――その癖が好きな人には、たまらないでしょうね。
 
加藤 人間、完全なものよりちょっとハズしたものが好きっていうところあるじゃないですか。そういう人に分かってもらえたらいい。
 万人が「うまい」っていう完璧なラーメンより、ちょっと癖があったり、ちょっと変だったりするほうが「オレはこの癖が気になる、好きだ」という熱烈なファンができる。
 「いざ鎌倉」も、自分の中にある鎌倉はこれですっていうのを分かりやすく形にしたつもりですが、自分だけの鎌倉では自己満足になってしまう。だから鎌倉といえばこれだというもの、大仏、流鏑馬、源氏、座禅、しらす、サーフィン……。そういうものを僕なりの解釈でフィルタかけて作っています。
 

ZINEそしてコレクションについて話すと、ファッションや尊敬するデザイナーへの思いが止まらない。1つ1つの号の内容を詳細に記憶して語ってくれた。
 
 
――そこが、加藤さんのものづくりのこだわりですか?
 
加藤 
 僕は、モノを作ってる人の行動や考え方が大事かなって思う。自分が作って世の中に出しているものは、自分のハンコを押しているようなもんじゃないですか。だったら中途半端なことは絶対できない。
 大量生産品も世の中にあって当然ですが、僕は「こういう人がこんな考えで作っている」という物作りの背景を伝えることが大事だと思うんです。服を通して加藤忠幸はなにができるのか? ということを形にしているともいえます。だから毎回、苦しもうがなんだろうが前回よりもっと良くしていこうと思っています。
 
――そのことを伝える手段の1つが、前回伺ったZINE。そして、服についているタグもですね。
 
加藤 手書きのタグ。1つずつに「こういうコンセプトで作っています」とリーガルパッドに書いたものをそのままタグにしてつけています。暑苦しい思い満載の(笑)。
映画『男はつらいよ」とコラボ     したコレクションのときは、寅さんの履歴書をタグにしています。寅さん、1回だけ履歴書を書いたことがあるんですよ。定時制高校に行くために。それで松竹の方にお願いして履歴書を使わせていただいたんです。
 服のデザイン自体は、僕の〝アップデート寅さん〟としてフィルターを掛けてますから、一見、寅さんだかなんだか分からない。でもタグを見れば一目瞭然なんです(笑)。
 

これがSSZの服についているコレクションのコンセプトを綴った「暑苦しい」タグ。写真のタグは、テーマが「Signature」のときのもの。
 
 
――癖が苦手な人には伝わらなくても?
 
加藤 そこは両面あって……。万人受けしないといっても、徐々に知っている人が増えてきていることはうれしいんです。けど、広がっていくことでSSZらしさが薄くなるのは絶対ダメ。もっと深掘りしていきたい。「SSZ、売れてますね〜、よく聞きますよ」って大勢に言われたら「ええ? よく知ってんのー?(チェッ)」みたいな気持ちにはなるかも(笑)。伝わってる人には「おおっ、今回もキテるな!」と言われて、でもあんまり売れてない……ぐらいがSSZらしいかな(笑)?
 
――今度のオリンピックではスケートボードも競技になって、日本にもメダルが期待される選手もいますが、これを機にSSZを着てもらおうなんてことは?
 
加藤 有名な誰かに着てほしいという気持ちは一切ないですね。
 でもずっとSSZを着てくれているお客さんがいるのは、うれしい。この間も「いざ鎌倉」の発売開始日に、接客のために原宿の店舗     にいたんです。そうしたらあるお客さんが「加藤さんですよね? 4年前にSSZの服を買ってからすごく好きになって」と話しかけてくれて「ありがとうございます! どちらからいらしたんですか?」と聞いたらなんと「中国です。今、単身赴任中なんですけど、発売日にあわせて帰国しました。明日帰ります」って言うんです。
 新潟から来た方もいて「子どもを保育園に送ってから新幹線に飛び乗ってきたんですが、ほしかったZazen Pantsが自分の目の前で売り切れちゃって。でも、別のやつ試着したらそれも良かったんで買いました!」って。ほんとうにうれしかった。こんなに癖のある服でも、わざわざ遠くから買いに来てくれるんだ……と思って。
 こういう人たちには「SSZ、テイスト変わらないですね、毎回良くなってますね」と言われたいな。そこはがんばりたいですね。
 

「憧れるのは、偉人や有名人じゃなく会ったことのある人。会ったことがない人には憧れない     」と、どこまでもリアルな「人」にこだわる加藤さん。
 
 
――お話を聞いていると、加藤さんがお客様に手渡したいのは「人」なんだなと感じました。
 
加藤 そうですね。リスペクトしているスケートブランドの創設者やデザイナーの思想や生き方、人間性を、服を通して伝えたい。「Signature」がテーマのときは、有名無名関わらず、スタイルのある生き方をしている人をモデルにしました。人ありき、ですね。
 だから今回の発売開始日、並んでいただいたお客さんの先頭から5人目ぐらいまでは、試着もせずにまとめ買いする方が多くて、それはちょっと残念だったかな。
 
――やっぱり、アナログな手書きや伝えたいことが詰まった服を愛してくれる人に受け取ってほしいですよね。ところで、加藤さんがいまハマっている沼は?
 
加藤 うーーん。どうだろう。最近考えていることはいろいろあるけど……、そうだ、僕ラッパーになりたいです。
 

今、ラップに興味があるという。「じつは僕、ミーハーなところがあります。新しいもの、流行ってる音楽、とりあえず見に行きます。着てくれる人の気持ちになって服を作らないと、思いが伝わらないから」と言う。
 
 
――え!?
 
加藤 〝服づくりやデザインは当たり前〟の加藤になってしまったところで「ラップやってます」「えっ、なに、ラップもできんの!?」という相手のリアクションが見たい。
 ああ、僕はなにかに一人で深みにハマるというより、それを相手に伝えたときの反応も込みでハマるのかもしれません。癖のある服、ギャップがあるものを作っているのも「えっ、これってこうなってんの?」という顔が見たいのかも。だから、何かにハマるより、ハマるものを探しているときが一番楽しいのかもしれませんね。
 
 
 
加藤忠幸(かとう・ただゆき)
株式会社ビームス(BEAMS)サーフ&スケート部門バイヤー/SSZディレクター
1973年神奈川県出身。ショップスタッフからアシスタントバイヤーを経て2012年にサーフ&スケート部門バイヤー。2017年、SSZブランドを立ち上げディレクターに。自らデザインを描く。加藤農園4代目として野菜づくり・収穫・出荷も行いつつ、地元鎌倉で仲間とサーフィンやスケートボードを楽しむことも忘れない。
Instagram アカウント @katoyasai
株式会社ビームス: https://www.beams.co.jp/company/
 
 
取材・文:有川美紀子 撮影:柳大輔 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學
 
 

 

 

 

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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