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熱量120%のZINEを見よ!
(みんなのアナログ VOL.8 )

BEAMS名物ディレクターがこだわるアナログとは?(前編)

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BEAMSディレクター 加藤忠幸さん

2020年3月30日更新

 渋谷で活躍する皆さんに、ご自身が大切にしている「アナログなもの」についてうかがう「みんなのアナログ」。
 今回は1976年創業、誰もが知るセレクトショップの先駆けBEAMSで、ちょっとひねりの効いたブランドSSZを展開するディレクター&バイヤーを務める加藤忠幸さんに2回に渡りお話を伺いました。
 SSZはサーフィンやスケートカルチャーをテーマにしたブランド。2017年創設から、ジワジワと人気が高まっています。今回はその人気を高める要因になったであろうアナログツール、加藤さん手作りのZINEに注目してみます。
 

2020春夏コレクション「いざ鎌倉」のために作られたZINE。表紙も含めて全65ページの大作! どのページも加藤流“鎌倉愛”にあふれている。
 
 
――加藤さんのZINE、今回の「いざ鎌倉」号、2020春夏コレクションの服1つ1つのコンセプトを書いた手書きの文章といい、ホチキスで止めた感じといい、まさにアナログですね。
※ZINEとは個人で作る手作りの小冊子、雑誌のこと。
 
加藤さん(以下加藤) はい。ZINEはもともと、服のコンセプトを伝えるツールとして、自分が作ったものです。僕はショップスタッフの時代が長かったのですが、アシスタントバイヤーになったとき、仕入れができるようになったので、なぜ、この商品を仕入れたのかを説明するためにZINEを作ったんですね。
 スケートボードのカルチャーって、ちょっとアウトサイダーだったりします。そのカルチャーから生まれたファッションには、作った人の思いとか、人間性とかが重要な情報としてあるんです。
 それを伝えるには、口頭の説明だけじゃなくてZINEがいいかなと思って。
 2017年にサーフ&スケートのブランド「SSZ」ディレクターになってからは、新しいコレクションごとにZINEを作っています。
 

「子どものまんま、大人になっちゃいました」と本人が言うとおり、あらゆることに好奇心いっぱいで話も広がっていく。
 
 
――文章はもちろん加藤さん、写真やデザインは?
 
加藤 「いざ鎌倉」号では、1点を除いて自分で撮影しました。文やデザインも僕が担当しました。鎌倉はホームグラウンドですから、毎日サンプルをでかいバックに入れて鎌倉まで持ち帰って、うちの子どもたちを下校時に車で拾って、服を着せてそのまま撮影、みたいな。コーディネートも自分、ロケーションも自分で決めました。そして、後半ページには、鎌倉で自分がリスペクトできる人、モノ、愛すべき鎌倉スポットについてびっしり描きました。そこは袋とじになっているんですよ。
 

後半5ページは袋とじ! この5ページに登場する少年2人は加藤さんのお子さん。袋とじを開くとガイドブックにはないレアな鎌倉情報がびっしり。
 
 
――凝ってますね。制作物としてすごいクオリティのZINE、ここまでアウトプットしてしまって、インプットはどのように?
 
加藤 僕、仕事とプライベートの線引きができていないんです。今回の「いざ鎌倉」はとくに、作りながらインプットでありアウトプットしたような感じ。
 100%じゃなく120%やりきった感がありますね。毎回そうです。とにかくコレクションもZINEも、その内容に関する僕の引き出しは惜しみなく全部出してます。そして、終わったら切り替えてまた次にもっといいものを作ろう! 作るぞ! と口に出すんです。
 
――120%のものを作ってしまったら、次のハードルが上がって苦しくなりませんか?
 
加藤 そこはあえて「オレ、言っちゃったよね〜」みたいなプレッシャーを、自分に与えるんです。SSZにいる5人のスタッフにも「オレ、次のコレクションも最高にするんで、任せてください!」って口にします。もちろん、コレクションもZINEも「前のものを超えられるかな?」と思うこともあるけど、毎回、自分が使えるもの、出来ることを全部出し切って、超えていってます。その都度「今回が最高!」って思っています。
 

進化し続けたいから「あの号はよかったのにね」とは言われたくない。だから毎回「立ち止まらずに全部出しきってやっています」。
 
 
――すごいです!
 
加藤 「まあ、いいか。このくらいで……」と手抜きすると、絶対それは周囲に伝わってしまう。「うっわ、加藤さん、ここまでやってるの!?」と言われるぐらいの力を毎回出さないとダメなんです。その背景には、親父の言葉があります。僕の親父は家業である「加藤農園」の3代目(僕は4代目です)なんですけど「会社でお前がどう働いているか知らないけど、大きな会社の看板を頼って仕事をするなよ。相手が『加藤さんだからやりましょう』って、心の底からそう思ってくれるようにするには、全部自分をさらけ出せ」と教えられてきましたから。
 
――ZINEは、今までどのくらい作っているんですか。
 
加藤 ZINEはSSZがブランドになる前から作っているから、全部で40冊以上は作っていると思います。見てお分かりの通り、会社の休み時間や空き時間に……なんてレベルではできない。プライベートを切り裂いて作るわけですが、4代目として農家もやってますんで、その隙間を縫って時間を作っています。
 最初はまったくの手作りで、ガキの頃からストックしてる雑誌を材料にして写真やイラストを切り抜いて、文字も手書きで書いて、台紙に貼って近くのコンビニでコピー。切って、折って、製本して。でもコピー代が3〜4万円もかかっていたので、一時期、会社のコピー機を使わせてもらってたんです。そしたら怒られました。「会社の備品で!」って。しょうがない、会社でやるのはやめようと思ったら、副社長が「いいじゃないか、これは!」と言ってくれたので続けられたんですけど。最近は台紙をスキャンしてパソコンに取り込んでくれる人がいるのでプリントアウトできるようになりました。とはいっても基本、アナログです。
 最初は50部ぐらいでしたが、今は外部の方に会った時にお渡しすることもあるので、100部ぐらい作っています。
 

今まで制作したZINEの一部。トータルでは40〜50冊作っているそう。中には友だちに頼まれてイベント用に制作したものもあるとか。
 
 
――コレクションのテーマがユニークだから、ZINEも楽しい。
 
加藤 ええ! (と、今までのZINEの原紙が入ったファイル10冊以上を開きながら、止まらない解説がスタート。太字はコレクション名です)。
 ファーストコレクションは、映画から取った「キッズ・リターン」。このときは鉛筆で絵を描いたりもしてました。「BOYS&GIRLS」っていう号の時は、昔買ったポルノグラフィの写真も使ったなぁ。これは「Signature」っていう、コレクション。たとえば石田純一モデル! 僕ね、多くの男性が思うように、モテたいんですよ。だから「そうだ、石田純一さんのシグネチャーモデル作ったらモテるんじゃないか!?」と思って……(笑)。
 

「Signature」コレクションのZINEの原紙。右ページが「モテ」を目指した石田純一モデル。左はなんと、高見山!?
 
 
――加藤さんならではのアイデアが、随所にちりばめられていますね。
 
加藤 あと、僕すごく汗っかきなんですけど、汗染みって恥ずかしいじゃないですか? だから、最初っから汗かいちゃってる模様のパンツを作ったんです。そのアイテムの説明には一番汗かいてる漫画を描いている蛭子さん(蛭子能収)の絵と、一番汗をかかない「ゴルゴ13」が、最初に汗をかいたシーンを描いてZINEに載せました。こんな風にギリギリな感じのことをやってるんです(笑)。
 それからこのFUCKED UP。FUCKED UPっていうのは、B品っていう意味なんですけど、スケートブランド「ワールドインダストリー」を作ったスティーブ・ロコが、Tシャツの不良在庫を抱えていた時に逆転の発想でFUCKED UPってスタンプを押して出荷したんです。そしたら逆にそれが大人気になったという。それをイメージして、間違ったように見えるデザインで服を作ったのがコレクション「FUCKED UP」なんです。
 服って着て楽しむものなんだけれど、「じつはそのデザインになった背景にはこんな考えがある」ってことを、SSZでは伝えていきたいと思っているんです。ZINEはそのためのツールです。
 

シーズン中は     ビームス 原宿に展示されているZINEの原紙。シーズン終了後、こうして1つ1つファイルされる。
 
 
――おもしろい! このアツさが伝わるのも、アナログならあではというところがありますね。
 
加藤 暑苦しいほどの手書きですからね! やっぱり思いを伝えるには手書きだと思っているんですよ。
そしてアナログの良さって、やっぱり人っぽい感じ? あたたかさのようなものがある。今はテクノロジーがどんどん進化して、あれもこれも機械でできて、スゲェ! って思うけど、それに麻痺しないようにしています。僕は、自分にフィットしたやり方でやりたい。
 あ、でもInstagramは活用しています。ZINEは一般に配布していないので、シーズンのラインナップを全部、インスタに載せています。
 
――今回のコレクションのパンツであるZazen Pantsの解説は、ZINEでは約300字、インスタではまったく違う文章で1500字! 
 
加藤 なかなか気持ち悪いでしょう(笑)? あえて暑苦しいぐらい長文にしてるんです(笑)。スルーする人はそれでよくて、なにか引っかかった人が「うわっ、なんだこれ。……でも癖になるな……」と思ってくれればいい。
 
――SSZもですが、ZINEで加藤さんがすごく有名になったとか。
 
加藤 いやあ、この会社にはすごいことしている人がたくさんいますからね。だいたい僕自身、やっていることに「いいね!」って言ってもらえ     るようになったのはごく最近なんです。     好きなことはずっとやっていましたが「なにやってんだこいつ」という目線で見られ、理解されないなんていうこと     も経験しています。でもそういう時代があったからこそ、熱を止めないで走り続けているところがありますね。
(後編では服作りを含めた加藤さんの“ものづくり”への思いをうかがいます)
 
 
 
 
加藤忠幸(かとう・ただゆき)
株式会社ビームス(BEAMS)サーフ&スケート部門バイヤー/SSZディレクター
1973年神奈川県出身。ショップスタッフからアシスタントバイヤーを経て2012年にサーフ&スケート部門バイヤー。2017年、SSZブランドを立ち上げディレクターに。自らデザインを描く。加藤農園4代目として野菜づくり・収穫・出荷も行いつつ、地元鎌倉で仲間とサーフィンやスケートボードを楽しむことも忘れない。
Instagramアカウント @katoyasai
株式会社ビームス: https://www.beams.co.jp/company/
 
 
取材・文:有川美紀子 撮影:柳大輔 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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