(※画面の右上のLanguageでEnglishを選択すると、英文がご覧いただけます。This article has an English version page.)
日本神話最小の神・スクナビコナの登場は、なんとも謎めいています。
あるときオオクニヌシのもとに、ミソサザイの羽を身にまとったとても小さな神が、海の向こうからガガイモのサヤに乗ってやってきます。この不思議な神の正体を探ろうと、オオクニヌシが周りの神々に尋ねると、ヒキガエルがクエビコなら知っているだろうと答えます。クエビコとはカカシのこと。物知りなクエビコは、この小さな神がカムムスヒの子のスクナビコナだと答えました。
天にいるカムムスヒは、スクナビコナが小さすぎて指の間から落ちてしまったのだといい、これからはオオクニヌシと兄弟となって国作りに励むよう命じました。そこから二神の国作りははじまります。
古事記には国作りの内容は記されていません。しかしスクナビコナの正体が田に住むカエルやカカシによって明かされたことを考えると、稲作に関わることだったと推測されます。「播磨国風土記」や「出雲国風土記」にオオクニヌシとスクナヒコナが一緒に稲を運ぶ様子が描かれていることも、そのことを示しています。
また日本書紀には、二神が人間や家畜のために病を治す方法を定めたとあります。医術も広めたということです。「伊豆国風土記逸文」にも、オオクニヌシとスクナビコナが人間たちが早く死ぬことを哀れんで、薬と温泉の使い方を教えたとあります。日本では健康のために温泉に入ることが古くから行われていました。その背景には、この二神の存在があったということでしょう。全国各地の温泉地に二神を祀る神社があります。
天から落ちてきた小さな神スクナビコナは、これまで地上になかった医術や恵みをもたらしました。知恵や恵みをもたらす小人little peopleは、世界各地の物語にも登場します。日本には鬼を退治し宝を持ち帰る一寸法師がいます。グリム童話で白雪姫を助ける七人の小人も有名です。北海道のアイヌにはコロポックルという小人の話が伝わります。蕗の下に住み、アイヌの人々にごちそうを贈っていましたが、いたずらをしたら村を呪って去ってしまいます。北欧神話の小人アンドヴァリは、黄金とAndvaranautという指輪の持ち主でしたが、それらをロキに奪われると、宝に呪いを掛けます。北欧神話ではこの小人の宝をめぐって英雄と竜が争う話が展開していきます。体は小さいけれど、人間にはない知恵や宝を持つ小人。大事にしないと災いももたらすことになるということでしょう。
2019年10月7日付け、The Japan News掲載広告から