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「たまたま」と「わざわざ」がつながりと仕事を作る

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フリーライター 有井太郎

2019年10月7日更新

コワーキングスペースの未来を見据える専門家の視線(前編)

コワーキングスペースに込められた「仕掛け」とは。

コワーキングスペースに込められた「仕掛け」とは。

 近年増えてきた「コワーキングスペース」。本連載では、國學院大學経済学部の山本健太准教授に取材し、同氏の研究からコワーキングスペースの実態や本来の“あり方”を考えてきた。

【前回の記事】「コワーキングスペースで『つながり』が生まれる理由」

 ここからは、実際にコワーキングスペースを運営する事業者と対談し、この施設の意義や可能性をさらに探っていく。山本氏が対談相手に選んだのは、ツクルバ代表取締役CCOの中村真広氏だ。

 同社は、「co-ba(コーバ)」というコワーキングスペースを全国に展開しており、山本氏は「その運営手法を見ると、『つながりを生む』という本来の思想を丁寧に追求している印象があります」という。

 ポイントとなるのが、コミュニケーションにおける「たまたま」と「わざわざ」を誘発する仕掛け。実際の工夫や取り組みを話しながら、2回にわたり考察を深めていく。

2人が対談を行った「co-ba jinnan」。(写真提供:ツクルバ)

2人が対談を行った「co-ba jinnan」。(写真提供:ツクルバ)

“言い訳の設計“が「たまたま」のコミュニケーションを誘発

 山本健太氏(以下、敬称略) ツクルバでは、「co-ba(コーバ)」という会員制のシェアードプレイス(コワーキングスペース)を運営されていますよね。今、コワーキングスペースは増えていますが、単に誰でも働ける“箱”を作るのではなく、いろいろな人がつながり、文字通り“共創する場”を提供するのが本来のあり方だと思っています。co-baの情報や中村さんの著書*1を見ると、それをきっちりやられていると感じました。

*1『場のデザインを仕事にする: 建築×不動産×テクノロジーでつくる未来』(学芸出版社)

中村真広氏(以下、敬称略) ありがとうございます。co-baは、今日お話ししている「co-ba jinnan」を含め、全国に22店舗あります。おっしゃるように、私たちが目指すのは、本質的に共創するオフィス。空間表記としてのコワーキングスペースではなく、振る舞いとして共創する場所です。たとえば月1回の交流会や、利用者がプレゼンするピッチ大会を設けて、利用者同士がつながる場を作っています。

山本 中村さんの著書を読んで興味深かったのが、ビジネスのコミュニケーションにおける「たまたま」と「わざわざ」の考え方です。「たまたま」は、立ち話などの偶発的なコミュニケーション、「わざわざ」は会議などの確信的なコミュニケーションですよね。実は今日、中村さんと話したかった内容の1つです。

中村 私はもともと建築の出身で、ツクルバはオフィスデザインも行っています。「たまたま」と「わざわざ」は、メルカリ社のオフィスデザインを担当した際に意識していたものですね。

山本 その「たまたま」と「わざわざ」こそ、コワーキングスペースのキーワードになると思いました。というのも、私は大都市でクリエイティブ産業が発展する理由を研究しています。そのひとつとして、アニメスタジオの実態や、その中での働き方を調査してきました。
 アニメスタジオを見て感じたのは、多様な人が同じ空間に集い、「たまたま」と「わざわざ」という2つのコミュニケーションをきわめて自然に、日常的に行っていること。実はその絡み合いで、クリエイティビティが発揮されていると考えています。
 アニメスタジオは、作画や演出家、色塗りなど、多様な技術者がひとつの空間にいます。彼らをつなぐのが制作進行(ディレクター)で、ある技術者が作ったものを、通りかかった別の技術者をつかまえて、クオリティや今後の進行の確認など、フランクに聞くシーンがあります。それが “たまたま”話す場を誘発しています。そして、その話をもとにきちんと会議をしようと“わざわざ”の場が設けられる。「たまたま」を誘発し、スムーズに「わざわざ」へとつなげる仕組みがあるのです。
 このように、多様な人が容易につながり、きちんと形にする地点まで加速させる仕組みがコワーキングスペースでも大切ではないでしょうか。

中村 空間設計のコンセプトとしてだけではなく、例えばco-baの運営でもその点は意識しています。「たまたま」を誘発するために行うのが“言い訳の設計”。何もないところでいきなり自分から「どうも、〇〇です」と他人に声をかけるのはハードルが高いですが、誰かが仲介すると、ある種の“言い訳”ができて話しやすいですよね。それを担うのが各店舗のコミュニティーマネージャーです。
 他にもやっていることがあります。たとえば「co-ba shibuya」では、利用者ごとの本棚を作り、自由に本を入れてもらいました。そして、本棚にその利用者の名刺を置いておく。これにより、利用者の趣味・嗜好が他の人に分かり、「この領域に強そうだから、今度聞いてみよう」とか「こんな仕事をお願いしてみよう」という動機が生まれますよね。そうやって、「たまたま」のコミュニケーションを誘発しています。

國學院大學経済学部准教授の山本健太氏。

國學院大學経済学部准教授の山本健太氏。博士(理学)。東北大学大学院理学研究科博士課程修了。九州国際大学特任助教、同助教、同准教授を経て現職。地理学の視点から日本の経済・地域経済の振興を研究する。「ひたすら歩き、話を聞くことで地域の経済が見えてくる」を信条に、フィールドワークを中心とした実証主義に基づく研究を続ける気鋭の地域経済専門家。

コワーキングスペースの価値は、「場所」ではなく「コミュニティ」

山本 今も私たちが対談している傍らで、利用者同士の立ち話が生まれています。その「たまたま」の話から、新しい発想や仕事の構想が浮かぶ。それを会議やプレゼン、交流会といった「わざわざ」の場にスムーズに移していくのでしょう。
 コワーキングスペースの強みは、「たまたま」と「わざわざ」をフレキシブルに行き来できること、その偶発性と確信性の組み合わせではないでしょうか。むしろ、2つをどう仕掛けるか、導線の作り方が重要であり、ここで働く“意義”にもなりますよね。

中村 最も「わざわざ」なのは会議のような場ですが、交流会などのイベントも「わざわざ」要素が強い場です。そこで心がけているのはメンバーを固定化させないことです。こういったコミュニティは、一歩間違えると関わるメンバーが固定化され、閉鎖的になる可能性があります。中の人の居心地は良くなるかもしれませんが、外から入りにくくなり滞留してしまう。なので、そうならないよう“半開き”の状態を心がけて「たまたま」要素を加えるようにしています。
 具体的には、会員以外の方も自由に参加できるようにしています。最初は会員だけのイベントにしていたのですが、何カ月か経つと参加率が下がり始めたんですね。同じメンバーばかりで新鮮味がなくなったのかもしれません。しかし、会員以外も参加できるようにすると、参加率が高まりました。

山本 良い形の「わざわざ」を作る工夫ですね。コミュニケーションにおいて、「わざわざ」はハレの場、「たまたま」はケの場かもしれません。従来のシェアオフィスには、その場がありませんでした。
 繰り返しになりますが、「たまたま」と「わざわざ」が生まれやすい空間は、クリエイティブなシナジーも発生しやすくなります。だとすると、コワーキングスペースとは、物理的な意味での“場”ではなく、ここで生まれるコミュニティやネットワークを含めた抽象的なものだと考えるべきでしょう。

中村 かっこいいオフィスやワークスペースって、今はたくさんあるんですよね。物理的な“場”の面白みだけでは優位性にならなくて、場所そのものより、そこに行くと生まれる関係やつながりが魅力になると思います。
 co-baの交流会でも、なるべく私たちが提供者側になりすぎないようにして、熱の高い利用者に役割をパスしています。すると、その人の自己有用性が高まり“自分ごと”になる。結果、彼らが自然に仲間を呼んでくれるのです。

ツクルバ代表取締役CCO(チーフ・コミュニティ・オフィサー)の中村真広氏

ツクルバ代表取締役CCO(チーフ・コミュニティ・オフィサー)の中村真広氏。1984年千葉県生まれ。東京工業大学大学院建築学専攻修了。建築家 塚本由晴氏のもとで学ぶ。不動産デベロッパーの株式会社コスモスイニシアに新卒入社、その後ミュージアムデザイン事務所にて、デジタルデバイスを活用したミュージアム展示や企画展などの空間プロデュースを経験。環境系NPOを経て、2011年8月に株式会社ツクルバを共同創業。代表取締役CCOに就任。デザイン・ビジネス・テクノロジーを掛け合わせた場のデザインを行っている。

雑談が“良いノイズ”になり、ビジネスへと発展するためには

山本 この連載で述べてきたのですが、場所の概念として「サードプレイス」というものがあります。住む場所を「第一」、働く場所を「第二」とした場合に、それ以外の、家庭と仕事の領域を超えて、個々人が集って語り合う場を指します。飲み屋や、昔のサロンやカフェなどが該当します。
 そのサードプレイスとの違いは、交流会などのソーシャルイベント、「わざわざ」の場が企画されるかどうかです。コワーキングスペースは、空間にソーシャルな要素を追加することで人間関係を促進させる。それが新しい働き方につながるのではないでしょうか。

中村 「コワーキングスペース」という名称から、“空間”が主のように思われがちですが、主従の関係でいえば、そこに生まれる“コミュニティ”が主で、空間が従なのかもしれません。

山本 もうひとつ、この2つの場を比較すると、サードプレイスは働く場ではないので、必ずしも同じような価値観の人たちが集まるわけではありません。社会的・経済的な地位を超えて公共で意見交換する場です。
 一方、コワーキングスペースは、立地や店舗の特性により、似たような価値観、業界にいる人が集まる傾向にあります。私はこの「多様性と画一性のバランス」がコワーキングスペースの価値であり、生命線だと思います。ある程度は共通項がないと、多様な人間がつながろうとしてもシナジーは起きにくいでしょうから。

中村 その意味でいうと、co-baもメンバーになる方にはフィルターをかけています。具体的には、事前に面談を行い、co-baのコンセプトや運営スタンスを説明。雑談や交流会など、つながりをつくることへの理解をしていただきます。
 さらには、その方がどんなキャリアプランややりたいことを持っているかも尋ねます。まるで採用面談のように、きっちりやりますね(笑)。職種や業種のフィルターはかけませんが、co-baの価値観やその人の熱意は測っています。
 これらを行うのは、日々巻き起こる雑談や立ち話を「グッドノイズ」に変えたいからです。カフェで仕事をしていても、周りの雑談からビジネスに発展することは少ないですよね。それは、属性もモチベーションもバラバラの人が集っているから。でも、フィルタリングをかけると、雑談がグッドノイズに変わりやすい。「さっきの話を聞いていて思ったんですけど・・・」ということが起きます。

山本 なるほど、例えばco-ba jinnanをみてみると、ここで働く人のコミュニティには、ある種のトーンができるわけですよね。co-ba jinnanという“場所”で働くことが重要ではなく、co-ba jinnanのコミュ二ティ、そこに集う人たちのトーンが重要になる。
 取っ掛かりとしてはフィジカルな場所でのつながりですが、きっとその先はSNSなどのバーチャルな空間でもつながっていくのではないでしょうか。つまり、コワーキングスペースで作られたコミュニティが、空間を超えて継続されていくかもしれません。それこそが価値といえるでしょう。

コワーキングの本質について語る二人

 今回はco-baを通して、コワーキングスペースのつながりをつくる仕組みを語り合った。対談の後編では、地方や企業における可能性を展望したい。地域コミュニティの“センター”として、あるいは企業のオープンイノベーションを生む場所として、コワーキングスペースの価値を考える。(後編へ続く

研究分野

経済地理学、都市地理学

論文

大都市の創造性とアニメーションスタジオの役割:労働者の働き方とネットワークに着目して(2018/04/01)

アメリカ議会図書館蔵初期外邦測量図データベースの構築(2017/02/01)

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