前回ご紹介したクリステンセンのフレームワークで垂直統合型と水平分業型の事例を見ていきましょう。
大手レストランチェーンのサイゼリヤは、自社で野菜や牛乳、ワインまで生産しており、ある意味では垂直統合型といえます。一般には品質管理を徹底したいからであると解釈されますが、垂直統合しているということは、「顧客はまだまだ料理の品質に満足していないと考えており、自社で原材料から一貫して扱うことで付加価値の源泉としようとしているのだ」と推測することができます。
アップル社の例ですと、最初はマッキントッシュを自社工場で作っていましたが、今はスマートフォンやタブレットなども含めて外部に委託しています。「ハードウェアの製造を外注しているということは、性能が消費者には判別できない水準を超えたと考えているのだ」と推測することができます。その一方で、アップル社が統合している部分はOSやネットワーク関連の技術であることを踏まえれば、彼らがハードではなくソフトまで含めた領域に付加価値を求めているのだと推測できます。
このように現実を分類したり解釈したりするときに、経営理論やフレームワークを眼鏡として利用すると頭が整理され学習が進んでいくことがわかるかと思います。背後にあるロジックを理解することにより「垂直統合型と水平分業型のどちらのビジネスモデルが優れているのか」ではなく、「どのような場合に垂直統合型が良いのか、水平分業型が良いのか」といった思考方法で物事をみることができるようになります。
ここで一つ注意していただきたいことがあります。自社のケースで考える場合は「自社の強み」を再認識してください。一般には、得意なことは統合して不得意なことは外注すればよい、というような考え方があるかと思います。しかし実際には、自社が思っている強みは環境とフィットした時に初めて消費者に認識されます。イノベーションのジレンマの例からも分かるとおり、消費者に認知されなければ強みとはいえないのです。しかも、環境が変化するにつれ強みが消えることもあります。自分達の今の強みは何であるのか、環境との対話を通じて常に再定義しなければなりません。
最後になりますが、フレームワークの学習方法についてアドバイスできればと思います。「理論と現実の往復運動」と呼んでいますが、理論を学んだら現実をみる。現実は理論だけでは解釈できないので、もう一度理論を学び直してみる。このように、常に理論と現実を行き来しながら両側から山を掘っていくようにしてフレームワークの使い方を学んでいただければと思います。
理想を言えば、現実を理論にのっとって分析するだけで終わらないように、企業内研修やビジネススクールなど、直接フィードバックを得られる環境があると良いです。伸びる速さが違います。しかし、なかなか難しいかと思いますので、まずは書籍で学んでみてください。フレームワークを使って現実を分析した本は多く出版されています。レビューを読むと「分析が甘い」「分析が役立たない」との酷評コメントが並んでいたりしますが、目的は「理論を使った現実の分析例」を学ぶことです。著者の使い方と自分の使い方を比較したり分析を深めたりすることでフレームワークの使い方がわかってきます。
最後まで本稿にお付き合いいただきありがとうございました。皆さんが少しでも経営学、社会科学の思考法に興味を持っていただき、会社経営や事業運営の現場で物事を判断するときの眼鏡として活用していただけるようになれば幸いです。
藤山 圭
研究分野
経営戦略論・イノベーションマネジメント
論文
「イノベーターは誰かーデジタル・プロジェクターの普及プロセスを事例としてー」(2019/03/25)
「VPFビジネス・スキームに関する論点の整理」(2018/01/25)