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渋沢栄一から学ぶ次世代型CSRのヒント

渋沢が唱えた「継続性」から導かれる次世代型CSRのヒントとは?

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経済学部准教授 石井 里枝

2017年2月10日更新

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最終回となる本稿では、渋沢が重視した「継続性」について見ていきたいと思います。

事業の継続性を重視していた渋沢は、合本主義を提唱しました。経済的事業活動の際には、多くの人から少ない資本を集め共同体として会社を設立しています。経営者一族を中心に経営を行う財閥系企業のようなスタイルでは、彼らの身に何かあると事業が廃れてしまうおそれがあります。一族の繁栄やその生き残りを目的とした事業活動であればそれで良いのかもしれませんが、事業自体の発展を目的としている場合は、特定の事業家に依存するリスクを排除することができる共同体での経営の方が継続できるというわけです。

そして人材育成です。事業を継続するために必要な人材を、20年先、30年先にも安定的に獲得するためには、次世代を担う子供達への教育環境を整えなければなりません。また、子供達が安心して勉学に勤しむためには、豊かな生活環境作りが不可欠です。前回、渋沢が良い人材を送り出すために教育にも注力したことに触れましたが、他の社会事業に関しても、国民が幸せに過ごせる社会を創出することで良い人材を生む土壌作りにつながると、渋沢は考えていたのかもしれません。

時代は日本が鎖国から開国へと大きく舵を切り、欧米列強が次々と国内経済に参入してきた史上希にみる激動期です。当時の経営者らは初めて経験するグローバリゼーションの荒波にもまれ、社会との関わり方、ましてや将来の人材確保についてまで真剣に考える余裕はなかったかと思います。しかし、事業継続のためには目の前の大波を乗り越えつつも長い航海のことも考えねばなりません。

明治時代後期、中央慈善協会の発足式で渋沢は「思いつきでの慈善や名聞慈善は慈善事業として望ましいものではない」「いかにも道理正しく組織的に経済的に進歩拡張していくべきだ」と発言していますが、社会事業にも継続性が重要であることを説くだけでなく、「慈善事業は事業継続のために計画的に取り組むべき」と警笛を鳴らしていたのかもしれません。事業を継続するためには、経済的活動と社会事業の両輪、バランスが必要だと。今でいえば「CSR(企業の社会的責任)は、自社が継続するための施策として計画的に行うべきだ」ということになりますでしょうか。

現代において、自社の経済的活動とCSRを直結させるのは困難なケースが多々あります。しかし、渋沢が最も大切にしていた「継続性」という観点に立ち、自社が目指す将来像を実現しうる社会(良い人材を育成するための教育システムや豊かな生活環境など)を作るためには、どのようなCSRを行えば良いのかを考えてみると、これまでとは違った施策が出てくるかと思います。

経済・経営史学者による、社会事業家としての渋沢の研究が本格的にすすめられるようになったのは、ここ数年のことです。私も含め、分かりやすく書籍化することを試みてはいますが時間がかかります。最新の研究結果については大学の講義で学生に伝えることはできます。しかし、インターネットでの配信も含め、一般の方にはまだ充分にお伝えできていないのが現状です。経済史や経営史も情報の一つです。本稿をお読みいただき興味もっていただけたのであれば、社会事業の現場や私達の研究室を実際に訪ねていただき情報を得て、次世代のCSRやCSVをつくり上げていくためのヒントを得ていただければと願っています。

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