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お母さんの声で読み聞かせを【子育てリレーエッセイ】

心にしみとおるひとしずくを

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人間開発学部 教授 成田 信子

2018年10月30日更新

声や仕草で伝わる

 横浜の子育て支援施設や保育所、幼稚園、小学校に、学生と絵本の読み聞かせに通っています。「絵本キャラバン」と名付けた活動です。子育て支援施設ではお母さんが子どもといっしょにおはなしを聞いてくれます。聞きながらお母さんが笑ったり、驚いたりすると、子どもたちもまた嬉しそうにしたり、じっと絵本を見たりします。

 お母さんの仕草や声が子どもたちを包んで、子どもたちはおはなしの世界に引き込まれるようです。おはなしが好きな子はぐっと前に来ておはなしを聞くこともありますが、時々後ろのお母さんの方を見ては反応を確かめます。

 学生との読み聞かせの一幕は、日常の子どもとの接し方にもヒントを与えてくれます。お母さんの声で読み聞かせをし、お母さん自身が楽しむと、おはなしの世界がまるごと子どもたちに伝わるのです。「まるごと」と表現しましたが、子どもがすみからすみまで意味をつかむということではなく、声のトーンや表情、仕草で感じ取るということです。

 今は電子メディアが発達して、例えば録音されたテープでおはなしを聞くこともできますが、子どもとつながっている親や養育者や教師が自らの声で読むことに大きな意味があります。

子供に絵本を読む家族

心にひとしずく

 幼年童話を書いている、あまんきみこさんにお話を聞く機会がありました。あまんさんの「おにたのぼうし」「白いぼうし」「ちいちゃんのかげおくり」は小学校国語科の教科書に載っています。原作の絵本や単行本は、ほんとうに多くの子どもたちに読まれてきました。あまんさんは幼年童話について、今はわからなくても、心にひとしずくなにかがしみとおっていけばよい、とおっしゃっていました。
 「おにたのぼうし」では、鬼の子のおにたが節分の日に豆まきで追われて、豆のにおいのしない家に行き、病気のお母さんの看病をする女の子に出会います。おにたはぼうしで角を隠して、女の子に食べ物を運び幸せな時間を過ごします。でもその女の子が「みんな豆まきすんだのかな」と言うのです。おにたは姿を消します。

 幼年の読者、小学生の読者、中高生の読者、大人の読者とそれぞれ受けとるものはちがうでしょうが、それぞれの年代でしずくのように心に落ちていくものがあるでしょう。読み聞かせによってお母さんの感動が静かに伝わることもあると思います。
 お母さんの読み聞かせで心にひとしずくを、と願っています。

 

 

 

成田 信子

研究分野

国語教育

論文

文学を読み合うことで子どもの中に生まれるもの(2019/10/10)

リデザインで追究する文学の授業づくり ―登場人物との対話がもたらしたもの―(2016/03/04)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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