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日本最古の書物『古事記』。世界のはじまりから神様の出現、皇位の継承まで、日本の成り立ちがドラマチックに描かれています。それぞれの印象的なエピソードには今日でも解明されていない「不思議」がたくさん潜んでいます。その1つ1つを探ることで、日本の信仰や文化のはじまりについて考えていきます。
天岩戸神話は何を意味する?
皇室の祖神・日本国民の総氏神とされるアマテラス。彼女は、高天原を治める太陽神としての性格を持っています。ある時、弟のスサノオが高天原を訪れますが、その乱暴な振る舞いに堪えられなくなったアマテラスは、自ら岩屋に籠もってしまいました。すると高天原も地上世界も真っ暗闇になってしまいます。困った神々は相談をして、アマテラスを岩屋から導き出すための鏡や玉などを作って祭りを行います。そしてアメノウズメという女神が裸踊りをし、神々が歓声を上げて騒いでいました。何の騒ぎかと思ったアマテラスは岩屋を少し開けました。そこを見逃さずに力持ちの神がアマテラスを岩屋から引っ張り出します。そうすると高天原も地上世界も再び明るくなったと言うエピソードです。この話は、日食に対する人々恐れや驚きが神話化されたものと見ることが出来ます。
東南アジアにもある、日食を描く神話
東南アジアには広く日食・月食の起源神話が伝えられています。もともと人間であった日と月の兄弟(或いは姉妹)、それともう一人の弟のうち、日と月とは死後に太陽と月になるが、行いの悪かった末弟は怪物になってしまう。日食・月食はこの怪物となった弟が兄達を飲み込もうとして起こる現象であると説くものです。アマテラスにも弟に月の神もいますし、末弟のスサノオが乱暴を働くことで太陽神が隠れてしまうという点で、この東南アジアの神話に類似していると言えます。
「太陽」を象徴とする神話・宮中行事
自然現象との関係ではもう一つ、日の出から日の入り、つまり太陽の出現時間が最も短くなる冬至の神話化という見方もあります。冬至は日が一番短い日、すなわち太陽が最も弱っている時期にあたります。その翌日から日が長くなっていくので、冬至は太陽の復活・再生を象徴する日ともいえます。
そうした太陽の死と再生に重ね合わせて、冬至の時期にあわせて行っていたとされる祭儀が「鎮魂祭」(天皇の忌み籠り)と「大嘗祭」(即位に係る儀式)」です。
岩屋に籠もったアマテラスを導き出そうとする神々の行為(鏡や勾玉、踊りの奉納など)は、宮中で行われるこうした儀式の内容と重なるものです。岩屋籠もりの神話が先に生み出されたのか、儀式が先に生み出され、後にそれが神話化したのか、定かではありませんが、太陽への信仰が関係していることは確かでしょう。
~國學院大學は平成28年度文部科学省私立大学研究ブランディング事業に「『古事記学』の推進拠点形成」として選定されています。~
谷口 雅博
研究分野
日本上代文学(古事記・日本書紀・万葉集・風土記)
論文
崇神紀祭祀記事の意味するもの-疫病の克服と国家の成立-(2022/04/30)
研究ノート:大碓命は小碓命に殺害されたのか(2022/03/10)