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日本最古の書物『古事記』。世界のはじまりから神様の出現、皇位の継承まで、日本の成り立ちがドラマチックに描かれています。それぞれの印象的なエピソードには今日でも解明されていない「不思議」がたくさん潜んでいます。その1つ1つを探ることで、日本の信仰や文化のはじまりについて考えていきます。
世界各地の神話で、世界のはじまりは異なった描写で言い伝えられています。カオスの中から神々が生まれたというギリシア神話、神が7日間で世界をつくったというキリスト教の神話など、さまざまです。
中国の文献に残された神話ではどうでしょう。まず混沌として何の区別もない状態がありました。その状態を鶏の卵に例えることもあるので、「鶏の卵型」といったり、「原始混沌型」といったりします。その混沌とした状態から、やがて軽くて清んだ物が上方に行き、重く濁った物が下方に沈んだと言います。上方に昇った清んだ物が天となり、下方に沈んだものが固まって地となったと説きます。これを「天地開闢型」(天と地とが開く、別れる型)と言います。
『日本書紀』は、正にこの中国の神話をそのまま日本神話のはじめに位置付けています。一方『古事記』では世界のはじまりを「天地初発之時」と表記しています。特徴的なのは「発」の漢字を用いていることです。「発」は『古事記』においては発現する、出発する、などの意味を込めて使われています。ということは『古事記』においては、はじめに「天地が開いた」と描くのではなく、漠然と「天地のはじまり」を描写しているのではないかと考えられます。
『古事記』では、天地のはじまりの時に、既に「高天原」という天上世界が存在しています。これも『古事記』神話のオリジナルな要素です。その「高天原」に次々と神々が出現します。そして最後に出現したイザナキとイザナミが結婚して日本の国々と、多くの神々を生んで行くことになります。
ちなみに、天地開闢神話では、清く澄んだものが上昇して天となり、重く濁ったものが地となります。神様が住む天上界は清らかな世界、人間の住む地上界は濁っておりけがれた世界、という認識は、今日のあらゆる宗教においても認識されていますが、この世界の成り立ちからはじまっているといえるでしょう。
~國學院大學は平成28年度文部科学省私立大学研究ブランディング事業に「『古事記学』の推進拠点形成」として選定されています。~
谷口 雅博
研究分野
日本上代文学(古事記・日本書紀・万葉集・風土記)
論文
崇神紀祭祀記事の意味するもの-疫病の克服と国家の成立-(2022/04/30)
研究ノート:大碓命は小碓命に殺害されたのか(2022/03/10)