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国も企業も参加、SDGsが世界的な動きになった理由

地球の「危機」に、どんな振る舞いが求められるのか

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経済学部教授 古沢 広祐

2018年8月30日更新

地球の未来は、我々の手の中にある。

地球の未来は、我々の手の中にある。

 地球温暖化や気候変動、経済格差による貧困など、地球の環境や社会情勢は明らかに深刻化している。2015年には、その状況を打破する施策として、国連でSDGs(Sustainable Development Goals)が採択された。

 これは、「持続可能な開発・発展のための目標」として掲げられたもので、2030年に向けて“全世界”が共通で目指す17の大目標(ゴール)だ。目標は、経済、社会、環境という3つの分野が網羅されており、国はもちろん、世界中の大企業もこれに基づいた施策を打ち始めている。

「経済、社会、環境において、地球ではさまざまな問題が私たちの想像以上に深刻な状態です。これまでは、各分野で解決を目指す条約が多数作られてきましたが、それらをすべて合流させ、1つの共通した枠組みができたことは画期的だと思います」

 このようにSDGsを評すのは、環境学や持続可能社会を研究する國學院大學経済学部の古沢広祐(ふるさわ・こうゆう)教授。地球環境が悪化の一途をたどる中、SDGsはどんな位置付けなのか。古沢氏に話を聞いた。

JBpress(古沢先生)②

 

地球はあらゆる分野で「後がない状態」

――SDGsの話を伺う前に、今の地球環境はどれほど深刻なのでしょうか。

古沢広祐氏(以下、敬称略) 気候変動や資源の枯渇、生物多様性の問題など、非常に厳しい状況となっています。もっとも分かりやすいのは気候変動ですね。地球温暖化は進んでおり、その健康被害も増えています。イギリスのある医学誌が2017年に発表した内容によると、2000年以降、熱波で危険にさらされる高齢者は1億人以上増えたとのこと。日本でも、今年の夏の異常な暑さは「災害」として捉えられています。

 また、大雨による災害の発生件数は、この17年で1.4倍に増加したとのことです。環境問題に関する国家間の条約は数多く締結されてきましたが、それでも歯止めが利きません。21世紀中に平均気温が3〜4℃上昇するという予測も出ています。

 資源の枯渇も顕著で、中国は未来の資源を補うためにアフリカの土地を確保し始めるなど、グローバルレベルでは「資源の争い」が起きています。

――生物多様性についても深刻なのでしょうか。

古沢 はい。生物多様性は、遺伝子、生物種、生態系の3つが相互関係を持ちバランスを保っているので、どれかひとつでも崩れれば保全は難しくなります。数年前から、アメリカなどでは遺伝子組換えの技術が進化しました。遺伝子を変えることで、2倍の速さで成長する魚が生まれ、最近は熱帯魚の中に特殊な遺伝子を組み込み、紫外線を当てて発光させた例などが出ています。

 さらなる問題は、遺伝子操作(ゲノム編集)が、普通の人でも簡単な器具でできてしまうことです。まるでDIYのように。もちろん、これらの法規制をどうするか議論は進んでいるのですが、それより速いスピードでイノベーションが起きるので、枠組みづくりが間に合っていません。その間に、生物多様性のバランスが崩れる可能性もあります。

――さらにSDGsでは、貧困などの経済格差も大きな問題と捉えられています。この現状も厳しいものなのでしょうか。

古沢 日本でも子供の貧困が話題となっていますが、世界的に非常に深刻な状況です。たとえば、世界で最も裕福な8人の資産は、世界の貧しい下から半分の人々(36億人)が保有する資産に匹敵するといいます。

 注目すべき点は、この格差が近年急速に拡大していることです。上述の算出は2017年のものですが、2016年は62人、2010年は388人だったのです(データ制約で誤差はあるが傾向は明らか)。つまり、それほどのスピードで格差は広がっているのです。

 

分野をまたいだ17の目標、「誰も取り残さない」の意味

――この中で2015年に生まれたのがSDGsですよね。どんなものなのでしょうか。

古沢 国連で採択されたもので、17の大目標と169の小目標からなります。大きな特徴は、経済、社会、環境といった分野が大きな1つの枠組みでまとまっていること。「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」といったテーマから、「人や国の不平等をなくそう」「住み続けられるまちづくりを」「気候変動に具体的な対策を」など、幅広いテーマが網羅されています。

 その背景にあるのは、特定の分野だけの目標を達成しようとしても駄目で、複合的に取り組んでいこうという考え方です。なぜならば、17の目標として掲げられている問題のどれもが、経済・社会・環境が複雑に関わりながら発生しているためです。

SDGsで掲げられた17の大目標。

SDGsで掲げられた17の大目標。

――とはいえ、これまでにもさまざまな分野で国際条約は作られました。中には、主要国が参加せず期待外れに終わるケースもありましたね。SDGsにもその可能性はないのでしょうか。

古沢 今回、その点で大きな特徴となったのが「誰も取り残さない」という理念です。多くの条約では、上から強制する仕組みとして「○○年までに△△を削減・抑制する」目標が立てられ、それが参加条件になるケースが多くありました。しかし、国の状況によって達成不可能な場合や、最初からその条件に乗らない国が出てきました。さらには、参加するにも留保条件を作って、目標を守らないケースもありました。

 一方、SDGsではまず多くの国が参加することを目指しています。そこで、統一の参加条件を設けず、各国の自発的取り組みとして自分たちのできる範囲で目標を定めて、それを積み上げていくボトムアップ方式をとりました。

 2030年にむけて各国の取り組み状況や課題については、国連ハイレベル政治フォーラム(閣僚会議)で毎年「自発的国別レビュー」が行われていくことによって、進捗状況を見ていく形になります。日本では、政府が「SDGs実施指針」を作り、地方自治体や企業の取り組みを強化・支援する仕組みができつつあります。

――まずはとにかく参加することを優先したんですね。

古沢 環境や経済格差の問題は非常に深刻です。人類共通の目標として一体で取り組まなければ、事態を改善することは不可能です。また、これまでの条約が不参加の国や排除する国を生んだ結果、紛争や国の軋轢(あつれき)、場合によっては差別やテロリズムにまで繋がりました。だからこそ、ボトムアップ方式のこの方針になったと言えるでしょう。

 実際、国連では全会一致で採択されましたし、世界の大手企業が集まる「ダボス会議」でも、SDGsについて各企業がその重要性を説いています。

――多くの国や企業が指標にすべきものとなったわけですね。

古沢 とはいえ、規模が大きくなれば、折り合いのつけ方は困難を極めます。私も国連会議などに参加しながらSDGsの決定過程を見てきましたが、17の目標の裏には、各国や企業、団体の駆け引き、さまざまな利害関係があります。「みんなが合意できるもの」ということは、ある意味で中途半端な「妥協の産物」という側面もあるのです。そういう消極的な面が今後どう出てくるのか、そこにも注視しなければなりません。

 

企業がこれほどSDGsに積極的なのはなぜか

――とはいえ、今の地球の状況を見ると、SDGsの意義は大きいということですよね。

古沢 もちろんです。歴史を紐解くと、国家を超えたレベルで地球環境について議論されたのは、1972年の「国連人間環境会議」が契機でした。公害問題が世界的に広がり始めた頃で、日本でも水俣病が社会問題となりました。この中で、開発と環境保持の両立、SDGsの中核である「持続可能な開発(Sustainable Development)」が概念として徐々に認知され始めます。

 開発と環境保全、この両立をしなければ地球は危機に達する――。そういった考えは生まれたものの、周知の通り、状況は悪化していきます。1992年には地球サミットで気候変動など地球環境問題への対応が世界の共通認識となりました。その後、気候変動関連では京都議定書やパリ協定などが締結されますが、依然として状況は深刻化しています。

 一方、2000年には「MDGs(ミレニアム開発目標)」として、途上国の貧困問題を解消するための8つの目標が国連で定められました。実はこれをベースに今回のSDGsが生まれたと言えます。急速なグローバル化が進む中で、貧困問題や環境問題は、途上国に限定されない広範の人類共通の課題となり、冒頭でも述べたように環境や開発関連など、これまで各分野で作られてきた条約や国際的取り組みが、SDGsという1つの枠組みの中に合流した。そういった認識で捉えるべきでしょう。

――先ほど少し話に出ましたが、今回のSDGsは、企業も積極的に行動している印象があります。なぜでしょうか。

古沢 まず、SDGsは国だけでなく、さまざまなステークホルダーと連携することを目的にしています。加えて、企業が積極的に参加する理由は、「リスクヘッジ」と「ビジネスチャンス」という2つの側面があるでしょう。

 地球上で起きている問題は、各企業のビジネスにおいてもリスクとなっています。これまで構築してきたビジネスモデルを変えなければならない場合もあるでしょう。そのリスクを抑えるためには、企業自らがSDGsの目標に貢献していく。特に大企業はグローバルにビジネスを展開しているので、SDGsで挙げられた諸問題に直面しています。

――一方の「ビジネスチャンス」とはどういう意味でしょうか。

古沢 地球環境が変わる中で、それをビジネスチャンスと捉えて動く企業もあります。地球環境の悪化は深刻で、すでに「予防」は難しい。私たちは「どう折り合いをつけて生きていくか」を議論するフェーズになっています。危機回避の中で、企業は新しいビジネスや次世代につながる事業を探しています。

 たとえば、公害問題や環境破壊が契機になって新たな環境ビジネスが多数生まれました。気候変動でも、緩和策や適応策、被害回避の対応が次々と求められています。適応という点は、北極海航路はかつて氷河に覆われ航路としては利用できませんでしたが、近年は温暖化により時期限定で航海が可能になっています。

 このようなことが世界中で起きており、それらをどう活用していくか。もちろん利害調整に配慮した持続可能な開発という視点が求められます。企業としては、数十年後を考えてSDGsの課題にうまく対応・活用しながら、次世代の姿を模索しているとも言えるのです。

 大切なのは、幅広いSDGsの課題をうまく捉え、企業や国が活用していくことです。ある意味、使い方次第でプラスにもマイナスにもなるでしょう。加えて、どんな物事にもSDGsは関わってくると言えます。さまざまな事象をSDGsの視点で見ることが大切です。

――SDGsの視点とは、どのような見方なのでしょうか。

古沢 ものごとを、時間的、空間的など複眼的に捉える見方です。SDGsの視点で見ると、身近なものもまったく違う印象になってくるはずです。最新の話題だけでなく、昔ながらの文化がSDGsのヒントになることもあるでしょう。たとえば、ワラなどはその代表ですね。

――ワラとは、稲や麦などのワラのことですか。

古沢 はい。日本人のワラの使い方は、SDGsの視点で非常に面白いものです。「温故知新」、あるいは「ルネッサンス」の時代の到来と言えるかもしれません。次回、詳しく説明しましょう。

(つづく)

 

 

 

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