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武芸と神事の結びついた「競馬・流鏑馬」

~スポーツ、その日本のルーツを探る~

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神道文化学部准教授 藤本頼生

2017年12月3日更新

 日本においては、2019年ラグビーワールドカップ、2020年は東京オリンピック・パラリンピックと、スポーツのビッグイベントが続きます。さまざまな競技がある中、日本におけるその競技の伝統や起源を探っていくことで、グローバルなスポーツの中の「日本」を紹介いたします。(※画面の右上のLanguageでEnglishを選択すると、英文がご覧いただけます This article has an English version page.

〜「競馬(くらべうま)・流鏑馬」〜

JN(流鏑馬競馬①)

【住吉大社 白馬※住吉大社提供】

 

 

◆武芸と神事の結びついた「競馬・流鏑馬」

 オリンピックにおいても馬術競技はありますが、日本において馬が活躍するものとして代表的なものが「競馬(くらべうま)」「流鏑馬(やぶさめ)」であり、その歴史は古くまで遡ります。 

 流鏑馬は伝統的な騎射(うまゆみ)行事が神社に奉納されるようになったもので、疾走する馬上から的に向かって鏑矢(かぶらや)を射る日本伝統的な騎射技術であり、武士の鍛錬かつ、神の前で行う儀式でもあります。

 896年(寛平8年)に宇多天皇が源能有(みなもとのよしあり)に命じて制定され、「中右記」の永長元年(1096年)の項などに記されているように、馬上における実践的弓術の一つとして平安時代から行われるようになり、その後、武勇武芸を重んじた鎌倉武士の間で神事の武技として奉納されるようになり、とくに源頼朝(みなもとのよりとも)が鶴岡八幡宮で奉納して以降、各地に広まりました。

 競馬(くらべうま)は、『日本書紀』によれば、天武天皇8年(679年)の記事に良馬の駿足を鑑賞するために馬の走り比べを行ったとする記述があり、それが始まりと考えられます。

 平安時代には端午の節句の年中行事として定着し、神社に奉納されるようになりました。特に、毎年5月に行われる賀茂別雷神社(上賀茂神社)の競馬は有名で、「競馬会神事」(くらべうまえしんじ=賀茂競馬(かもくらべうま)とも言う)として現在でも行われており、古式の風習を今日まで継承しています。

 

◆厄を払い、成長や実りを祈念する神事

 

JN(流鏑馬競馬)②

【流鏑馬】

 

 流鏑馬は、毎年9月に鶴岡八幡宮の例祭にあわせて行われる流鏑馬が最も有名ですが、そのほか関東の神社での奉納が多く見られます。

例えば、寒川神社では、流鏑馬に天下泰平と五穀豊穣の祈念の意味が込められ、神職も射手として奉仕しています。

流鏑馬は室町時代以降、一時衰退しますが、江戸時代に入り、八代将軍の徳川吉宗が復興させ、将軍家の病気平癒や誕生祈願の際などに神社で度々奉納されるようになりました。明治以降も流鏑馬は神社での奉納を通じて継承され続け、現在に至っています。

 競馬は、平安時代以降、都や近郊の神社を中心に天下泰平、五穀豊穣を祈る神事として行われました。例えば、南北朝時代に始まったとされる、三重県の多度大社(たどたいしゃ)の「上げ馬神事(あげうましんじ)」は、六地区から一名ずつ選出された若者が騎手となり、境内の急な坂を馬に乗り、駆け上がります。無事に坂を乗り越えられた馬の数が多いほど、その年は豊作になるといわれています。

 

 

◆神様の使いとしての馬

【住吉大社 白馬※住吉大社提供】

【住吉大社 白馬※住吉大社提供】

 馬は、神様が人間世界にやってくる際の乗り物(神使)と言われ、馬を用いた神事は多く、馬と神社の縁も深いものがあります。また輸送や農耕など、人々の生活に深く繋がりがあったこともあり、馬は大事にされてきました。馬を見るという神事があることもその表れです。

 住吉大社の「白馬神事」(あおうましんじ)も2頭の白馬が各本宮を祭礼する儀式が行われています。年の初めに青馬(毛色が黒く青みがかった馬)を見ると1年の邪気が除かれ、延命長寿になるという中国の故事にちなむ行事です。後に青馬ではなく、白馬を使うようになりましたが、当初の名残りで「あおうま」と呼ばれています。

 

 

 伊勢神宮においても、「神馬牽参」(しんめけんざん)と言って、一のつく日の早朝、神職の先導にて神馬が内宮・外宮を参拝します。その神馬を見ると縁起が良いとも言われています。

 「競馬」「流鏑馬」からもわかるように、神の使いでもある馬の神聖性を通して、神事や武芸の奉納につながっていったという点と、宮中から始まった馬に関わる儀式が、神社に受け継がれていった点という2つの流れから、日本における馬にかかわるスポーツの原点ともいうべき独特の文化が育まれてきました。

 神社によくある「絵馬」も、古代において生きた馬を神馬(しんめ)として神様に献げてきたという儀式の代わりとして登場したと言われているのをご存知ですか? 

 

JN(流鏑馬・競馬)④

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藤本 頼生

研究分野

近代神道史、神道教化論、神道と福祉、宗教社会学、都市社会学

論文

「国家ノ宗祀」の解釈と変遷について(2023/06/30)

『THE SHINTO BULLETIN Culture of Japan』Vol.1 Uzuhiko Ashizu「The Shinto and Nationalism in Japan」 Yoneo Okada「The Faith in the Ise Shrine」について(2023/06/30)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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