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浮世絵風の「あるある」が大人気!
山田全自動さんが大切にする「コトバ」の作法

つながるコトバ VOL.8(山田全自動 前編)

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山田 全自動 さん

2023年8月28日更新

 日常に潜むちょっとした出来事や感情のさざなみを切り取って、浮世絵風のマンガと短い文章で「あるある」マンガを発表し続けている山田全自動さん。Instagramのフォロワーは2つのアカウントを合わせて127万人。大人気のインスタグラマーでありブロガーだ。公式ブログは、なんと月間1,000万PVを達成!

 そんな山田全自動さんは、日頃「絵」について注目されることが多いが、今回は「文章」についてお話をうかがった。

 

「嫌な気持ちにさせない」「理解してもらえる」が自分のルール

 描かれるのは江戸町民やお侍。しかし内容は現代の日常に潜む「あるある」な事象。見た瞬間に「分かる〜」と声が出るようなネタを提供し続けている山田全自動さん。

 以前は現代人を描いていたが、平成28(2016)年頃、浮世絵風の絵で「あるある」を表したところ予想外の人気を博したため、この路線を貫いている。

 「大爆笑というよりはクスっと笑ってもらえるようなネタを、誰もが理解して共感してもらえるように描いています。ぼくの場合、絵を補完するために文章を加えています。だから長くは語らず、基本的には3行以内に収めるようにしています」

 そう語る山田さんは、制作にあたっていくつかルールを決めている。まず「意地悪な書き方はしない」こと。

 「キツく書けば、それはそれで切れ味のいい笑いになるかもしれませんが、人が嫌な気持ちになるようなことは書かないと決めています」

 たとえば「同窓会あるある」というネタ。「昔好きだった人が変わり果てた姿になっていた」という文章の下の絵を見ると、これはひとことで「デブになっていた」と言ってもよさそうな気がするが、それは山田さんの中ではキツすぎる表現なのだ。

「同窓会あるある」より。お腹が痛くなってトイレに駆け込むとかいったネタでも、その具体的内容は決して記されない。

「モテない言動あるある」より。下ネタの具体的内容までは書かれていない。

 また「断定しない」というのもルールの1つ。

 「“◯◯だ”と断定すると、キツく感じることがあります。ネタによっては『まるで自分のことを言われているみたい』と受け取って嫌な気持ちになってしまう人がいるかもしれない。そういうときは語尾を『〜〜な謎』とするなど、キツさをふわっと抽象的にするようにしています。笑うつもりでネタを見に来て、嫌な気持ちになったら一番よくないじゃないですか」

 

ネタ切れしない制作の秘訣

 現在山田さんはInstagramの2つのアカウントで「〜〜あるある」シリーズと「ござる日記」を展開している。毎日、各アカウントに1ネタ、合わせて2ネタをアップ。それを休まず続けているが、ネタ切れはないのだろうか。

 「まずはなんでもフッと頭に浮かんだこと『そういえば昔、こんなのあったな』とか、歩いているときに見かけたりしたことなんかを一言、スマホのメモに打ち込むんです」

 

左が思いついたことをそのまま書いたもの、右はカテゴライズしてネタとしてまとめ始めたもの。

 「思いついた言葉をそのままポンッと打ち込んでいるだけなんです。溜まってきたメモをスクロールして見直していくと、同じカテゴリーでまとめられるものが見つかるんです。カテゴリーの名前をつけて、1つにまとめていきます。

 たとえば『新幹線のポスター藤原竜也がめっちゃ載ってる』と『公共交通機関のWi-Fi繋がらない』というネタは『“新幹線あるある”でまとめられそうだな』といった感じです。それで同じようなネタをまとめていって、9つネタが集まると作画し始めます。Instagramで載せられる画像の数が10枚までなので、1枚は表紙でネタが9枚。

 また『マイケル・ジャクソンが連れていたバブルスくん』とか『多摩川にタマちゃん』なんかのメモは『懐かしの動物』でカテゴライズします。8つ集まったので、あと1つ思いついたら描こうかなと」

「絵でも文章でも表現できないときに擬音語や擬態語を使います。好きなのは『スンッ……』てやつ。文章では絶対表現できないので」

 なるほど、日常生活のあらゆる場面がネタになっているのだから、ネタ切れとは無縁なのだろう。

 誰もが安心してクスッと笑えてこそ山田全自動ワールドなのだ。それはInstagramの山田さんの投稿に寄せられるコメントを見ても分かる。山田さんが描いた「あるある」ネタに合わせて、驚くほど多数の読者が自分の「あるある」を書き込んでいるのだ。しかも語尾を“ござる”にして。本編と同様にコメントもまた、クスッとするものばかりで、「コメントを合わせて読むまでがあるある」とでもいうような平和な世界がそこに広がっている。

 

一歩踏みとどまって中立な立場を守る

 山田さんが作品を発表する場はもう一つある。「あるある」を始める以前から書き続けているブログ「Y氏は暇人」で、おもに福岡のグルメや旅、郷土史などを扱っている。山田さんいわく「あるあるはあらゆる人に理解してもらえるように描いていますが、『Y氏は暇人』は自分の趣味を突き詰めて、誰も分かってくれなくてもいいと思ってやっている」という。

 「Y氏は暇人」のなかで、グルメや旅情報は写真が多めで文章は少なめだが、時折、文章が主体の骨太の記事がアップされる。たとえば「福岡市立霊園と多死社会の墓地問題」「福岡市近郊の結核療養所(サナトリウム)の歴史とその生活」、そして「福岡空港内に今も残る米軍基地」などである。

 米軍基地の記事については、なぜ基地をテーマに取り上げたのかと毎日新聞から取材も受けている。

 この記事を書いたきっかけは、かの2ちゃんねる開設者として知られる「ひろゆき(西村博之)」のツイートである。ひろゆきが沖縄県名護市辺野古で基地の移設に反対する抗議行動の現場を訪れたところ、「新基地断念まで座り込み抗議3011日」と書かれた看板の周辺に、その時誰もいなかった。そのことを揶揄したひろゆきのツイート「座り込み抗議が誰も居なかったので、0日にした方がよくない?」を見て、山田さんは「そういえば、福岡にも米軍基地があった」と思い出し、記事にしたのだという。

 その記事にはひろゆきの発言についても、福岡の米軍基地の存在についても、踏み込んだ発言はない。

 「常にフラットで、中立な立場で書こうと決めているので、個人的に踏み込んだ意見は言わないようにしています」

 そういう姿勢を貫いているから、どのサイトもSNSも批判やクレームが来ることはほとんどないが、来たとしても返信はしないと決めている。

 「SNSで議論はしないですね。解決も進歩もしないので。ただ、届いた意見すべてに目を通しています。内容について自分でダメだなと思うことは反省しますけれど」

 自分が発信する言葉についてルールをしっかり決めているから、老若男女に受け入れられているのだ。そんな山田さんは、落語や日本文学をマンガにした著作も上梓している。後編ではそれらの本と、好きな作家などについてうかがってみたい。

プロフィール

山田全自動(やまだ・ぜんじどう)

1983年佐賀県生まれ。イラストレーター、WEBデザイナー、ブロガー。日常の何気ない風景に潜む「あるある」ネタが大人気を博している。Instagramでは1日2ネタをアップし続け、現在Instagramのフォロワーは2アカウント(y_haiku,y_haiku2)合わせて127万人、Twitterフォロワーは18.2万人。2023年8月号から「コミック乱」(リイド社)で「あるあるで候」が連載開始。6月にはライブドアブログ「山田全自動のあるある日記」が月間1000万PVを達成。また福岡を中心とした郷土史研究も行っておりブログ「Y氏は暇人」でそのリポートを見ることができる。「山田全自動でござる」など著作は11冊、秋にはさらに1冊上梓予定。ペンネームは博多出身の自由律で知られる俳人・吉岡禅寺洞から取った。

関連リンク

山田全自動のあるある日記Y氏は暇人(ブログ)・山田全自動(サイト)・Instagram(あるある)Instagram(ござる日記)facebooktwitter (SNS)

取材・文:有川美紀子 撮影:庄司直人 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

 

 

 

 

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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