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多様な学問の視点を複合した「まちづくり」を学ぶ教育

観光まちづくり学部・西村幸夫学部長が目指す、学部の姿 ー後編ー

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観光まちづくり学部長・教授 西村 幸夫

2023年7月1日更新

 地域の課題が深刻になる中で、「地域を客観的に比較し、その地域の良さや可能性を見つける目を持ち、未来の地域づくりに貢献する人材を育成したい」と話すのは、観光まちづくり学部の西村幸夫学部長だ。では、その力を養う教育・研究として何をどのように行うのか。具体的に語った。

 

本学部の教育的特徴を色濃く表す「演習」カリキュラム

 本学部の学生教育では、学生が「地域を客観的に比較できる目」を養えるよう、1年次からさまざまな地域に赴き、フィールドワークや現地の方とのコミュニケーション活動をカリキュラムの中に取り入れています。

 一般的な大学教育は、まず講義形式で学問の基礎や理論を学び、その後、徐々に学生の関心に合わせて専門分野を絞り、実地や演習的な学びへと移行していくものでしょう。

 しかし、本学部のカリキュラムでは最初から学生に現場を見せていきます。なぜなら学生の多くは、地元の地域は知っていても、他の地域の暮らしや課題を考えた経験はほとんどありません。具体的な地域のイメージがない中で理論を学ぶのではなく、最初に現場を知り、リアリティをともなって学んでほしいという理由からです。大きな学問領域から徐々に学びのテーマを絞るのではなく、学生が最初から各専門分野の授業を高い濃度で経験していき、併行して本学部の学問を体系的に習得するという形を考えています。

 また、地域に関わるさまざまな学問分野の教員が共同で1つの演習授業を行うのも、本学部の教育の大きな特徴です。

 本学部では、スタジオと呼ばれる大教室で60人ほどの学生と作業をともなった演習を行うほか、自治体の協力のもと、学生全員がグループに分かれて現地調査を行い、地域の良さや強み、さらには課題を捉え、分析結果や解決策を提案する演習を行います。令和5年度からは、いよいよ2年生全員で取り組む演習が予定されています。地域の分析ツールを学び、そののち鎌倉のまちを歩いて、各地区の現場の状況を知るとともに、統計データなどから、現状を分析し、課題を抽出する演習です。

 これらの演習では、先に述べたように各スタジオにさまざまな分野の教員が複数名入り、それぞれの専門分野の視点から、学生のアウトプットや分析に助言します。すると、たとえば都市工学の観点では問題なくても、社会学の観点では課題が見つかるなど、分野ごとに違った見解が出てくるのです。

 これが本来のまちづくりであり、学問分野ごとに教員の見解が分かれるのは当然です。学生は、多様な視点からフィードバックを受けることに意味があり、あらゆる学問分野の見解をふまえて、納得できる施策づくりに取り組んでいくことになります。それが、すべての人にやさしい地域を作ることになります。この取り組みは今年から特に力を入れたい部分であり、成果を期待しているところです。

 教員にとってもこの授業体制はチャレンジの連続です。通常、異なる学問の教員と一緒にチームで教えることはほとんどありません。そこで本学部では、教員同士が互いの学問を理解しようと、普段から相互理解のために教授会で各自のプレゼンテーションをおこなうなど、学び合う努力を重ねています。

 これは学生教育だけでなく、本学部が「観光まちづくり」の学問を突き詰める上でも意味があります。教員自体が地域に関する多様な学問視点を吸収することで、ひいては自身の研究も高めていけるからです。

 

地域・観光だけでなく、さまざまな立場の人が活用できる学問

 さらに研究においては、社会貢献のひとつの形として、本学部が掲げる観光まちづくりの考え方を全国に広めていくことを考えています。このために、地域の調査・分析手法や、地域の個性の発掘方法、その個性を施策につなげる方法などを体系化した『「観光まちづくり」のための地域の見方・調べ方・考え方』という教科書を令和5年3月に刊行しました。「観光まちづくり」という学問へ向かう姿勢を提起した形です。

 この教科書は、本学部の授業で使用するだけでなく、日本全国、さまざまな地域の人々が活用してくれることも想定しています。これまで地域施策は個別に動くことも多かったのですが、共通概念ができることで、特定の地域のみが成功するのではなく、日本全体で地域が向上してほしいのです。

 教科書は、地域や観光に関わる職種の人だけでなく、それ以外の人にも価値のあるものです。住民として地元の発展に寄与したいという人のほか、企業も自社の置かれた地域や、ビジネスに関係の深い地域に貢献し、関係性を良くしていくことが重要であり、その役目を担う人にも有用です。

 観光まちづくりという学問は、多様な立場から活用できるところに価値があります。そして、それを実践することが本当の意味での日本の地域課題解決につながります。私たちは、学生たちが将来地域や社会を牽引する人材となるだけでなく、教科書などを介して同じ考え方を地域や社会へ提供することで、地域の物語の「次の章」を共に創造できる学部でありたいと考えています。

 

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西村 幸夫

研究分野

建築計画、都市計画

論文

「東京大学本郷キャンパスの計画とキャンパス計画室の役割」(2021/07/20)

文化遺産の未来へのまなざし(座談,第3部:建築文化遺産の未来,<特集>建築文化遺産-未来へのまなざし)(2020/11/20)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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