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地域の物語の“次の章”を作る人材を

観光まちづくり学部・西村幸夫学部長が目指す、学部の姿 ー前編ー

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観光まちづくり学部長・教授 西村 幸夫

2023年7月1日更新

 観光まちづくり学部の学部長を務める西村幸夫教授。昨年度の学部創設時から、初代学部長として本学部を率いてきた。そんな同氏が目指すのは、地域を客観的に比較し、その地域の良さをもとに未来のまちづくりを担う人材だ。1年目の振り返りとともに詳しい内容を聞いた。

 

学部として順調なスタート。学生の地域を見る目は大きく変わった

 学部設立から2年目を迎えて、改めて昨年1年間を振り返ると、非常に熱心な学生が多く集まったと感じています。「地域に関心がある」「地元を元気にしたい」という思いが日々の授業からも伝わってきます。

 教育内容においても、本学部特有の学びを提供できているという手応えがあります。地域に入っての実習を数多く行い、現場を視察。学生が地域の方にプレゼンする授業をはじめ、町の町長や、駅や市街地のデザインを手がけた方、離島で宿を営む方など、さまざまな見識を持つ方と会話する機会を創出してきました。

 講義も地域の実例をもとに伝えることが多く、実際の変化などを、論理的な概念理解だけでなく、写真・データでリアルに伝えています。すでに学生の「地域を見る目」は大きく変わっており、1年次教育としては当初の想定を超えて順調なスタートができたと考えています。

 地域の課題は年々深刻になっています。特に地方部では人口減少や少子高齢化が進み、それにともなう地域コミュニティの解体や地方経済の縮小も危惧されます。加えてコロナ禍は地域のあり方を再考する機会になりました。観光客は激減し、地域行事もできない状況が生まれました。かたや現在は、地域によっては観光客が一気に戻り、今度は受入体制の構築が急務となっています。激動の中で地域は何を拠り所にし、どんなあり方を突き詰めるべきか。大きな課題を突きつけられています。

 こういった中で、新たな地域構築の形を確立しようと本学部は設立されました。そもそも、國學院大學は地域との関わりが非常に強い大学です。母体となる皇典講究所が明治15年に設立されて以来、長きに渡り神職養成に携わってきました。院友(本学卒業生)の多くが日本各地の神社で神職として活動しています。

 昔も今も、神社が重要な地域コミュニティの土台のひとつであることは変わりがありません。たくさんの院友が神職として間近で取り組んでいるのが地域課題であり、全国各地の神社にネットワークを持つ國學院大學にとって、地域を元気にすることは社会的な使命です。

 

学生に養ってほしい「地域を客観的に比較できる目」とは

 本学部が目指すのは、「地域を見つめ、地域を動かす」研究・教育です。地域を見つめるとは、歴史や文化から育まれた地域の個性、人のつながり、暮らしといったものを細かく見つめ、改めて地域の持つポテンシャルや可能性を浮き彫りにすることです。そして地域を動かすとは、それをもとに未来の地域を作ることを意味します。

 「観光まちづくり学部」という名称ではありますが、本学部の“観光”が意味するのはあくまで地域を軸足とした観光のあり方の模索です。地域を元気にするには、外部経済を取り込んだり、関係人口を増やしたりするのが有効です。その一環として、地域の個性や長所から特色を作り、観光へとつなげていくのです。

 特に学生に養ってほしいのは、地域を客観的に比較できる目です。たとえば地元を他の地域と比較すると、「他にあって地元にないもの」に目が行きやすくなります。しかし、どんな地域にも必ずや素晴らしい資産があります。ただ、地元の人にとってそれは当たり前で資産と感じにくい。結果、“ないもの”に目が行ってしまう。まずは客観的に他地域と比較し、資産を見出す目を養っていくようにしたい。

 歴史や文化の深い考察をふまえて地域を見つめると、何でもないと思っていた地域ひとつひとつに個性的な物語があるとわかります。こういった洞察力を持つことは、やがて“地域を動かす”ことにつながります。最初に「この地域にはこれがない」というネガティブな課題から入ると、そこから生み出す施策は、地域の人々の前向きな気持ちを醸成しにくい。しかし、最初にこの地域の良さ、資産を浮き彫りにした上で「さらに良くするための施策」を提案すると、人々は地域に愛着を持ち、ポジティブな原動力になります。そして、地域の物語の“次の章”を作っていこうとなる。その起点となる人物を育成したいのです。

 従来から、観光学や都市工学、社会学、経済学など、地域を考える学問はさまざまにありました。しかし、地域はひとつの学問、側面でのみ語れるものではありません。さまざまな学問要素が複雑に絡みあっています。縦割りの学問だけで理解すると、バラバラのまちづくりになるのです。

 その意味で、本学部は多様な専門分野の教員を揃え、文理の枠を超えて、学問を横つなぎにして地域を捉えていきます。社会にとって新しい学問であり、教育やカリキュラムのあり方、教員や研究の体制もゼロから構築し臨んだ初年度でした。ここでの研究・教育により、大小さまざまな地域が「観光まちづくり」の視点から盛り上がっていく。そんな学部の研究と教育の姿を引き続き描いていきます。

 

——後編へ続く

 

 

 

西村 幸夫

研究分野

建築計画、都市計画

論文

「東京大学本郷キャンパスの計画とキャンパス計画室の役割」(2021/07/20)

文化遺産の未来へのまなざし(座談,第3部:建築文化遺産の未来,<特集>建築文化遺産-未来へのまなざし)(2020/11/20)

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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