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社会課題の解決に貢献する、人づくりの学問

人間開発学部・太田直之新学部長が目指す、学部の姿 ー前編ー

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人間開発学部長・教授 太田 直之

2023年6月15日更新

 平成21(2009)年に設立された人間開発学部は、「人づくりのプロの養成」をモットーに10年強の間に3学科体制を確立し、たくさんの卒業生を教育現場へ送り出してきた。これとともに、一般企業など、教職以外の分野で活躍する卒業生も少なくない。令和5(2023)年度から舵取りを行うことになった太田直之学部長は、小学校教員をはじめとした教育現場の現状と、それに対する本学部の役割をどう捉えているのか。太田学部長が語る。

 

教育現場で今、求められている人材像とは

 長い間、深刻な社会課題となっているのが、小学校教員と保育者の人材不足です。文部科学省の調査(令和3年5月1日時点)によると「教師不足」が生じている小学校は全国に794校あり、4.2%の割合となっています。保育者に関しても、労働環境に関するネガティブなニュースが多く、目指す人が減っている現状です。離職率の高さも深刻になっています。

 また、求められる人材像にも変化が生じ、「実践力」が強く求められる傾向にあります。

 こうした状況から、本学部には「数」の面で教育人材の不足を補うことと、「スキル」として実践力のある人材を育成することの両方が社会から求められています。それに応えることが我々の社会的な責務であり、現在までに一定の役割を果たしてきました。

 「数」については、平成21年の学部開設以降、教員や幼児教育・保育の指導者を数多く輩出してきました。昨年度までに合計1300名以上の卒業生が小学校教諭や保育士として、もしくはそれに類する職場で実際の実務にあたっています。

 「スキル」についても、本学部の立ち上げ時から「実践力」の養成を強く意識してきました。それに沿ったカリキュラムを構築しているほか、学生が大学内の事業やイベントにスタッフとして参加したり、地域とのプログラムを多数展開しています。

 そもそも國學院大學は、戦前から「中等教育」を中心に、多数の教員を養成してきました。国語科・社会科の教員は今も非常に多い。その実績から「教職の國學院」と呼ばれてきました。

 この伝統を継承し、強化しようと平成21年4月に開設されたのが人間開発学部です。それまで本学にはなかった、小学校教員や保育者、保健体育教員やスポーツ指導者などの養成を軸にしました。

 「人間開発」という名称にもこだわりがあります。従来の「教育」は“教え込む”という一方的なベクトルで行われるイメージがありました。しかし私たちが目指す人間開発とは、人それぞれの持つ可能性が自然に育ち、発露する形です。人づくりのための学問として、その発露を促す環境づくりやサポートに取り組んでいます。

 実現のためには、既存の教育論や知識では足りません。人材育成の質を高めようと、学部設立以来、さまざまな分野・視点を統合し、学際的な手法を突き詰めています。今までになかったこの学問領域を確立するため、「國學院大學人間開発学会」も設立しました。各分野の教員が研究報告を毎年行うほか、この学問に関わる学術活動の支援も手厚くしています。

 本学部卒業生は、教職以外の一般企業などに就職するケースも見られます。本学部での学びは、必ずしも教育現場でのみ有効なものではなく、企業の人材育成、スポーツ指導など、「指導者」や「リーダー」に必要な能力を開発することを目指しており、学生が社会の幅の広い分野で活躍してくれることを願っています。

 

日本を学ぶ教育は、学生に何をもたらすのか

 本学部の教育には、学生が日本の国柄や文化を学んだ上で、専門的な知識を身につけるという特長があります。私も専門分野は日本中世史です。まさに本学部の「日本を学ぶ」という点を担当してきました。

 将来“人を育てる”学生が、なぜ日本を学ぶ必要があるのか。戦後の日本社会は産業の構造が大きく変化し、人々の暮らし方や家族のあり方もこれにあわせて変わってきました。特に近年は教育現場もグローバル化する中で、さまざまなルーツを持つ子どもが存在し、保護者の価値観も多様化しています。そのため、これまでの日本社会で“当たり前”とされてきたことに疑問を持つ人が増えてきています。

 このとき、教員や指導者が日本の文化や歴史を理解しておかなければ、なぜそれを行ってきたかという説明ができません。日本の文化を理解することが、時代や状況に合わせた社会の変化を考えたり、多様な文化のあり方を理解する土台になります。

 平成18年度に改訂された教育基本法やこれに基づく学習指導要領でも伝統文化教育が重視されています。昔からの年中行事を行う家庭や地域は減少している中、現在の教育現場は、子どもと日本文化の重要な接点であり、次世代へつなぐ前線としての役割を果たしているのです。

 日本を学ぶというと、お茶やお花、歌舞伎といった分かりやすいものに目が行きがちです。しかし本学部が重視するのは、たとえば日常に何気なく溶け込んでいる文化的事象、年中行事や子どもの成長儀礼の“奥”に通底している日本的な思想や伝統です。これらはいくら情報が充実した現代でも、自分ひとりで勉強できるものではありません。学問による体系的な理解が必要です。

 こうした学びは、國學院大學が国文・国史・国法を攻究する研究機関として積み重ねてきた歩みと、本学部の人づくりにかける思いが重なって提供できるものです。國學院らしさと学部の研究・教育に対するこだわりを保持しつつ、質をともなった人材輩出を行い、引き続き社会に貢献できる学部を追求したいと考えます。

 

——後編へ続く

 

 

 

太田 直之

研究分野

日本中世史

論文

日本古代における穀断ち行の受容と変容(2021/11/01)

祓の季節ー夏の年中行事の起源と歴史ー(2018/03/20)

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