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誰でも自由に創作活動を楽しめる地域の拠点 
私が「アトリエももも」を作った理由(後編)

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鈴木真知子さん(アトリエももも共同代表/ 平4卒・100期哲)

2023年6月19日更新

 誰もが自由に創作活動を楽しめる「アトリエももも」を立ち上げ、福祉とアートをつなぐアートサポーターとして活動している鈴木真知子さん。アートサポーターになるまでの経緯をうかがった前編に続き、後編では「アトリエももも」の活動内容について詳しくうかがっていく。

 

「アトリエももも」では、何を作ってもいいし、何もしなくてもいい

 共同代表の西川直子さんとともに、「アトリエももも」を設立したのは令和2(2020)年2月のことだ。

 「障がいのあるなしに関わらず、誰でも来ることができて、自由に自分を表現できる――その表現活動を通じて人との交流が生まれるような、仲間づくりができるような場所を作りたいと思いました」

 屋号の「ももも」は、息子さんのつぶやきからひらめいたもの。「何か分かりやすい言葉を」と考えていた時に、「もんもんもん……」というつぶやきを思い出し、それにしようと決めた。

 古民家の一画を間借りしてアトリエを開設。もともと蚕室だった部屋を2年かけて、地域の人たちと一緒に少しずつ改修し、今の形に作り上げた。

空間づくりは地元で活動するプロの建築家にサポートを依頼。

 壁には色とりどりの画材や毛糸、木材などがずらり。利用者は、これらを制限なく自由に使えるというのだから、創作活動にも精が出るというものだ。

 「一般的な造形教室のように、『今日はこの作品を作りましょう』というテーマはありません。ペースや気持ちは人それぞれなので、何を作ってもいいし、何もしなくてもいい。学校や幼稚園では、『自分のやりたいことじゃないからつまらない』と、さほど創作活動に興味を示さなかった子も、ここに来て創造力を発揮する、という場面を私たちは何度も見てきました」

アトリエ内のあちこちに、参加者の作品が飾られている。毛糸やフェルト、木材など、地域の方々から寄付された素材も多い。

多様な声にも心を寄せ、さまざまなアトリエ活動を展開

 毎月第2日曜と第4土曜に開催している自由創作の日「アトリエももも」から派生して、現在はさまざまなアトリエ活動を展開している。

 「第4月曜日に開いている『こどもアトリエ』では、おやつも画材も子どもたちには無料(取材時)にして、学校帰りにふらりと立ち寄れる空間を提供しています」(令和5(2023)年度は、子ども500円/大人1,000円)

「アルコールマーカーを全色使いたい!」というところから、大きな虹の絵を描くことを思いついた。

 この日はわいわいにぎやかな雰囲気。毎回20人ぐらいの子どもたちが訪ねてくるという。フリースクールとも連携していることから、不登校の子どもたちが訪れて学校帰りの子どもたちと一緒になって遊ぶ光景も見られる。しかし「ももも」の活動は、不登校の子どもたちを学校に行かせるようにすることが目的ではない。目指しているのは、アートをツールにした誰もが自由に創作活動を楽しめる場。不登校の子どもたちや引きこもりの大人たちが気軽に外に出ていけるような、自分らしくいられる場所づくりだ。

子どもも大人も無心になって創作活動に没頭している。

 にぎやか過ぎて輪に入れない子どもや、静かに創作活動に取り組みたい人たちからの声にも耳を傾け、第3水曜日には「しずかなアトリエ」の日を設けた。表現はすべてアート、料理もアートという位置づけで、みんなで料理を作る「暮らしカフェ」や、料理と創作活動をセットにした「こももアート食堂」も月に1度ずつ開催しているほか、芸術療法士の資格を持つ共同代表の西川さんによる「アートセラピーの相談支援」も月に2回行っている。

 

「人との交流」を求めている人たちの居場所に――

 アトリエの活動を始めて3年が経った今、利用者の数はのべ500人以上にもなるというが、その内訳は、障がい者よりも地域住民の方が上回る。

 「“障がい”をどう定義するかにもよるのですが、生きづらさを感じている人が思っている以上に多くいるということが分かりました。学校や会社に居場所がないと感じている人、地域に訪れる場所がないと感じている人が多くいて、『誰かとつながりたい』と思っている人たちがたくさんいることに気付いたんです」

 利用者に「アトリエももも」の魅力をアンケートで聞いたところ、「自由創作」の次にチェックが付いていたのは「人との交流」という項目だったそうだ。

 「人ともほとんど話さずに黙々と作品を作っていた不登校のお子さんが、どんどん表現の幅が広がって、いつの間にか、ほかの子たちともすごくしゃべるようになって。表情が明るくなっていったんですよ。自分を表現するという行為だけでなく、『すごいね』、『きれいだね』と自分を認めてくれる人がいるということが、自信や安心につながっていくのだということを改めて感じました。“アートの力”によって、みんなが元気になっていくのを感じられることがすごく楽しいし、私自身もエネルギーをもらっています」

 アトリエの活動にやりがいを感じているが、現実は厳しい。

 「一番大変なのは、資金繰り。『これだけやっているのだからもっと参加費を上げたらいいのに』と言ってくださる方もいるのですが、そうすると、結構な金額をとらなければいけなくなってしまう。気軽に来ていただくためにも『金銭的なハードルを作りたくない』という思いがあるので、障がい者手帳を持つ人だけでなく、『こどもアトリエ』と『こももアート食堂』の時は、子どもも無料(取材時)にしています(令和5(2023)年度は子ども500円)。助成金だけではやりくりが非常に難しいのが現状ですが、今後、『普通のアルバイトは難しいけれど、ここの仕事だったら手伝いたい』という方が来た時にもお給料が渡せる仕組みも作っていきたいので、どのようにお金を工面していくかは避けて通れない課題です」

 

答えのない問いをひたすら考えるという経験が、人生に生きている

 鈴木さんの人生をたどっていくと、すべての出来事が重要なピースとなってつながっている。最初の大きな分岐点は、大学の友人たちに影響されて学芸員を目指したこと。哲学科に身を置いて、「アートとは何か」「表現とは何だろう」という答えのない問いをひたすら考えていたことも、障がい者アートをサポートする上で役立っている。

 「大学で『人間とは何か』『生きるとは何か』ということを考えていた経験があったからこそ、障がいのある子を授かった時も、『一緒に生きていこう』と前を向けたのだと思います。アトリエ活動を始めたことも、入口は『息子のため』、『福祉のため』というお堅いところからでしたが、いろいろな方とお会いして、いろいろな生き方があることを知ることで、『大丈夫、息子も私もきっと生きていける』と思うことができました。こんな風に思えるのも、学生時代にあれこれ考える癖を付けていたおかげかな。今の活動、私の人生のベースには、間違いなく哲学科で学んだ経験が生きています」

 

取材・文:松井さおり 撮影:砺波周平 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學

 

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