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地味だけど、それでいい。
「本物の学問」がここにある

文学部・矢部健太郎学部長が目指す、学部の姿 ー前編ー

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文学部長・教授 矢部 健太郎

2023年4月15日更新

 日本でもっとも古い私立大学8校のひとつである國學院大學。文学部は、長きにわたりその中枢を担ってきた。令和3(2021)年度から学部長を務めている矢部健太郎教授は「本学部は“地味”かもしれないが、ここには本物の学問がある」と言い切る。なぜそう考えるのか。背景にあるのは、先人たちがここで継承してきた学問の蓄積、つまりは「学統」にあるという。

 

前2年の振り返り。人文科学系の重要性は再認識された

 学部長に就任してからの2年間は、コロナ禍でかつてない社会情勢となりました。その中で伝統ある本学部の質を落とさず、むしろこの期間にどう上を目指していくか。必死にその難題に取り組んできたといえます。

 徐々に知見が溜まる中で、教育面ではオンライン授業の有効性、とりわけ効率の良さがわかってきました。特に本学は渋谷とたまプラーザにキャンパスがあり、オンラインであれば離れたキャンパスからの参加が可能。一方、対面授業の長所も改めて明確になりました。学生・教員がお互いの反応を確認しやすいため、コミュニケーションの密度が高まる。心に残る授業をしやすいと考えています。

 こうした分析をふまえ、オンライン・対面の使い分けを最適化してきました。現在は対面授業がおよそ9割ですが、どちらかに100%振るのではなく、教員や学生が状況に応じてチャンネルを選択できる形にしたいと考えています。

 コロナ禍は文学や史学、哲学など、本学部の学問分野の重要性を社会が認識した時期だとも考えています。働き方や人との関わり方が大きく変化する中で、私たちに突きつけられた問いは「人間はどう生きていくのが良いのか」「人間とはどういう存在なのか」でした。

 本学部の研究は、この根本的な問いを突き詰めることに他なりません。研究対象が『源氏物語』の解釈であれ、豊臣秀吉の生涯であれ、本質的に見ているのはその先にある人間の行動原理や心理です。

 そもそも人間の最大の個性は、言語によるコミュニケーションと、文字による記憶と伝承です。それを研究する私たちの学問は、すなわち人間の深奥に迫ることといえます。

 加えてこれらの学問が、人を動かす力やリーダーシップに役立つという認識も強まっています。リーダーがチームの士気を高めたいとき、哲学や思想は有効になりますし、自分の判断に説得力を持たせたいなら、過去の経緯やデータをふまえた歴史的思考が重要になるでしょう。

 「文学部の研究は社会で役に立たない」と言われることもありますが、そうは考えていません。「桶狭間の戦い」の研究をそのまま社会で使うことはなくても、研究の方法や、研究で明らかになる人々の行動や心理、データは実社会に応用展開できるのです。

 

昔話のように、何世代も前からの学問が現代に下りていく

 本学部の特徴をひと言で表すなら「本物の学問がある」ということです。本物とは何かといえば、単なる博識や“〜好き”とは一線を画すものです。

 歴史学でたとえるなら、本物の歴史学者とは「歴史を作ることができる人」です。過去の記録を調べ、考証を重ねる中で、これまでの見識とは違う歴史を生み出すことができる。あるいは、いままでの説を“確か”だと実証できる。亡くなった人は真実を語れませんが、本物の研究者は亡くなった人が残した記録をもとに、歴史の代弁者になれる人です。

 本学部のイメージは、世間的には「地味」かもしれません(笑)。でもそれでいいのです。学問に重きを置き、真面目に研究を突き詰める学部です。本物のスキルは本物の学問からしか学べません。

 こういった研究を支えているのが、長い歴史の中で本学部が積み重ねてきた蓄積です。といっても、ただ長いから良いということではありません。

 文学部の教員の中には、國學院大學出身者が多くいます。私自身、本学部の出身であり、師匠の二木謙一名誉教授も、その師匠の故・桑田忠親名誉教授も本学部を卒業し、のちにここへ来て研究・教育を行いました。

 学生時代に図書館で調べ物をしていたとき、手に取った本の中に桑田先生の書き込みを見つけたことがあります。また、私の父も本学出身ですが、父の判子が押された栞を図書館の本に見つけたこともあります(笑)。それは余談ですが、本学部出身者が卒業後に再び戻り、後進に教えるサイクルが連綿と続いています。

 つまり、何代も前の先人が学んだことを次の世代が引き継ぎ、また次の世代が…という繰り返しを本学部の中で行ってきたのです。確かな「学統」があると言えます。個人だけでは紡げない学統の力がなければ、この積み重ねは生まれません。本学部の大きな価値です。

 教員数も豊富で、本学大学院を見ても、関東私学系の文学部でこれだけの教員を擁す機関は多くありません。確かな学統があるからこそ、卒業生がここに戻ってくれるのだと考えています。

 一方で、教員が100%本学出身者になるのも望ましくありません。学統を尊重しつつ、適切に外部からの優れた人材を招く。硬直化を避け、学統をさらに良い方向に発展させるためにも、その按分が大切だと考えています。

 

——後編へ続く

 

 

 

矢部 健太郎

研究分野

戦国・織豊期の政治史・公武関係史

論文

「中近世移行期の皇位継承と武家権力」(2019/11/01)

「豊臣政権と上杉家」(2017/11/01)

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