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既存の知を問い直し、未来をひらく場に

創立140周年 針本正行学長に聞く【前編】

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学長 針本 正行

2022年11月7日更新

 新型コロナウイルスの感染拡大によって、学びの環境はデジタル化が進むなどの大きな影響を受けた。大学が直面する課題にどのように向き合い、今後、國學院大學の教育はどう変わるのか。新たに策定された中期5カ年計画(令和4~8年度)の狙いなどについて、針本正行学長に聞いた。

―― コロナ禍のなかで、大学の学びはどのように変わったか

 教育する側、学ぶ側、また学修を支援する側にたいへんな苦労がありました。コロナ禍前は、デジタル技術を駆使して授業する教員は少なく、デジタル機器を活用する前に、リモート授業をどのように展開するのかで悩んだと思います。学生側も、対面授業の時は、教室に身を置いて学修すればよかったのですが、リモートによって、事前準備の時間やレポートを書くために授業内容を確認する時間が増えました。教員は、個々の学生によって異なる履修状況を把握していないことが多く、自分の授業にとって必要な予習や復習を指示します。すると、学生たちが提出しなければならない課題が増え、授業時間外の学修時間が大幅に増加したというケースも見られました。

 コロナ禍での経験を踏まえて、リモート授業のほうが、教育効果が上がる科目があること、対面で議論して、互いの感じ方を話し合う授業形態の方がふさわしい科目があることが明らかになりました。さらにコロナ禍を機に、ハイフレックス授業、対面とオンデマンドを組み合わせた授業、開講曜日のみ指定するオンデマンド授業など、新たな授業形態、多様な学びのあり方が工夫され、試行されています。教育・学修のあり方をあらためて問い直すきっかけになっているのです。

―― 大学を取り巻く国内外の環境や大学における課題は

 現在、中央教育審議会大学分科会が3つの課題を議論しています。「総合知の創出・活用を目指した文理横断・文理融合教育」と、「密度の濃い主体的な学びを可能とする学修者本位の教育の実現」、「大学の強みや特色を活かした連携・統合・再編の必要性」です。いずれも本学にとって重要な問題提起です。環境変化の具体的検証と内的省察をしっかりと行い、本学なりの対応をしていきたいと考えています。

 そのためには、「0と1の違いは何か」「三角形の内角の和は180度になるのはなぜか」など教えられた法則について、「どうして」「なぜ」と問い直すことが大切です。文系・理系の違いや、小中高大・社会人を問わず、「探求心の涵養」が求められているのです。

 AIをはじめとする情報通信技術の活用が日常化するほど、失われるものがあるのではないでしょうか。例えば、パソコンを使って文章を書く前は、言葉を選ぶために辞書を引いていました。今はWordなどのアプリケーションを使うと、画面に漢字の候補が出てきて、無意識に与えられた漢字を選ぶことができます。いかに自分の言葉で他者に伝えるかは、本来は悩みながら言葉を探って生み出すものです。知の道程に思いを致すことによって、法則が導かれた経緯が分かり、本質に迫り、未来の問題についても意識することができます。既存の知を問い直すことがその一歩なのです。

―― 中期5カ年計画に定めた将来像、教育目標に込めた思いと、実現への決意は

 國學院大學は国学を学ぶ私立大学として、日本の歴史や文化に関する教育を、その時々の社会課題や社会からの要請に応じた形で、提供することが使命です。伝統を踏まえながら、日本のあり方や世界のあり方を考え、既存の知を不断に問い直し、知を新たにしていく場でありたいという思いから、令和4年4月に公開した中期5ヵ年計画では、将来像として「知の創造。日本をみつめ、未来をひらく」を掲げました。大学は単なる知識の伝達の場ではなく、教員と学生、学生と学生とが共に学び合い、知を新たにし、未来をひらく場です。他者からある考え方が提起され、それが自分の考え方と違う時、安易に否定するのではなく、どうしてそういう考え方を持つようになったのかを考えることが大事なのです。

 『論語』「学而篇」の冒頭に、「他人が自分を認めてくれないからといって不平不満を言うことはない」とあります。他者から批判されることによって、自分の考え方を深めることができると説いています。

 中期5ヵ年計画の教育目標に示した「問い直す」「学び合う」「共に生きる」は、多様な価値観を認め合う社会において、人々の生き方やあり方を問うことに繋がる大事なテーマです。

 

 

このページに対するお問い合せ先: 広報課

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