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コロナ禍を機に地方移住 この流れは本物か

地方と都会のこれから(前編)

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観光まちづくり学部 准教授 嵩 和雄

2022年5月16日更新

 新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、生活コストが高く、人口が密集する東京を飛び出す人たちが増えた。総務省が公表した2021年の住民基本台帳に基づく人口移動報告では、東京都への転入超過が5千人余り(23区では初の転出超過)と前年度に比べ大幅に減少している。

 しかし、観光まちづくり学部の嵩和雄准教授は「東京の人口減少が地方移住の増加を示すわけではない」と話す。コロナ禍をきっかけにリモートワークが普及し、「転職なき移住」の道が開けたが、コロナ後の地方移住や地方創生を成功させるための鍵は、受け入れ側の地元の意識改革にもある。カギは、地方と都会の交流の促進だ。

【中編】観光まちづくりを学び、東京と故郷を繋ぐ人に

【後編】地方創生の鍵は「金儲けより、人儲け」

―― コロナ禍をきっかけに東京の人口が減少している

 人口移動をみると、東京からの転出は増えているが、その多くは、千葉県や神奈川県、埼玉県など近県に流入している。確かにテレワークの普及は働き方だけではなく暮らし方や価値観も変えた。多くの人がこれまでは通勤時間を短くできる居住地を選んでいたが、週に1~2回出勤すれば良いとなると、出社日以外の時間を大切にして、自然環境に恵まれた場所で暮らしたいと考え、東京から少し離れた場所にゆとりのある広さの家に転居する人が増えたこともあるのだろう。

 また、これまでの移住希望者に加え、コロナ禍をきっかけに地方に関心を持つ人たちが増えているのは間違いない。

―― コロナ禍で地方移住の環境はどう変わったのか

 地方移住のためには、仕事をどうするかが最大の課題だ。地方は都会に比べると、魅力的な仕事や自分のスキルを活かせる仕事とそれに見合った収入を得られる職場が少ない。二番目の課題は住まいだ。地方都市以外では賃貸物件が少なく、貯えが少ない若い人たちが家を購入するためにローンを組もうとすると、転職直後の場合はローンを組みにくい現実があった。

 コロナ禍によってリモートワークが普及し、環境は大きく変わった。大手企業の中には、居住地制限や通勤手段の制限を撤廃したり、グループ企業への転籍という形で地方勤務を選択できる制度を導入したり、オフィスを都会から地方へ移す動きも出ている。国が提唱している「転職なき移住」が実現しつつある。同じ会社に勤めたまま、在宅勤務をするのであれば、仕事の問題が解決し、ローンも組みやすくなるので、2つの課題のハードルは下がる。

 しかし、3つ目の課題がある。移住を受け入れる側のコミュニティの問題だ。地方、特に農山村においては、よそ者に対して、そもそも若干抵抗感があり、コロナ禍で感染不安がそれに追い打ちをかけた。地元出身者でさえ、帰省をしにくい雰囲気が醸成されてしまった。こうした抵抗感は、ワクチンの普及によって落ち着いてきたが、受け入れ側の根底にあるよそ者への意識を変えなければ、地方移住は進まない。

―― 受け入れ側の行政の役割は

 行政は、地域をPRするため、都会へのアプローチすることが主な仕事だが、移住した後は一住民になるので、行政は必要以上のサービスは提供できない。移住した後の不安の解消や受け皿づくりは、地元住民が中心になる。行政の役割は、あくまで地元のフォローだ。

 移住者に優しい地域は、地元住民も転出が少ないまちだと言える。極端な言い方だが、子供たちがまちを出て、戻ってこない地域に、移住者が「来たい」とは思わない。誰にでも暮らしやすい地域づくりが、結果的に移住したい人を増やすことに繋がる。

 よそ者に対する抵抗感をなくすには、都会の人との交流が大事。まずは観光からでもいいので、地域に入ってもらい、それがきっかけで交流が深まっていくと良いのではないか。

―― 交流を深めるためにはどうすればいい?

 環境学習の分野では、自然とのかかわりを示す言葉として、「イン ネイチャー(in nature)」「アバウト ネイチャー(about nature)」「フォー ネイチャー(for nature)」(『繋がりひろがれ環境学習』小野三津子著)とある。段階を踏んで、関係性が深まるのは移住も同じだ。

 地域に入り(in)、もっと知りたいと感じ(about)、地域のために何ができるかを考えるようになり(for)、究極は地域とともに自分がある(with)と考えられるようになる。

 地域と共に考える人のことを「関係人口」と呼ぶ。観光客を示す「交流人口」と、移住してその地域に暮らす「定住人口」との間にあり、もっと地域に関わりたい、関与したいと考える人たちを指す。関係人口を増やすことが地方創生にとって重要であり、そのためには、地域と都会の考え方の違いを埋められる通訳者の役割が重要になっている。(つづく)

嵩 和雄

研究分野

地域計画

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