令和4年4月、國學院大學に新しい学部が誕生する。日本各地の歴史や文化を学び、「まちづくり」は何かを考え、地域に貢献できる人材の育成を目指す「観光まちづくり学部」だ。新学部の設置は人間開発学部以来13年ぶりになる。なぜ國學院大學に観光まちづくり学部なのか。どんな人材を育成するのか。多くの「なぜ?」を、都市工学の第一人者で観光まちづくり学部初代学部長(予定)・新学部設置準備室長の西村幸夫教授に聞いた。
新学部設立、建学の精神と深い結びつき
新学部の理念は、「地域を見つめ、地域を動かす」。実践的な教育を重視し、日本の地域資源を生かすまちづくりを学ぶ。西村教授は「文学や歴史学、神道学などで研究成果を挙げている本学は、地域の資源を磨くという知見を持ち合わせている」と語る。
なぜ國學院大學に観光まちづくり学部を設置するのか。その答えは國學院大學の建学の精神と深い結びつきがある。本学の設立は明治時代に遡る。当時、明治維新で欧米の思想や文化の導入が急速に進む中で、日本古来の思想、文物が顧みられない状態になってしまっていた。そこで、単に欧米の模倣ではなく、思想や文化、体制も日本の歴史や民族性に基づいたものでなければならないと、明治15(1882)年、國學院大學の母体である、皇典講究所が創立された。
こうした背景で設立された國學院大學は、文学や歴史学、神道学、民俗学で研究実績があり、多角的に日本を学ぶことを重視してきた。西村教授は「単なる観光学部ならなぜ國學院大學でとなるだろう。だが、地域に軸足をおく観光まちづくりとは、地域の宝を磨くということ。つまり、その土地の歴史や文化、自然などの地域資源を見つめ直すことだ。國學院大學が力を入れてきた学問に沿っている」と語る。
西村教授はまた「地域が伝承してきた祭りや、文化、歴史を語る人が増えると、地域コミュニティーの活性化につながる」と話す。新学部ではこうした新しい街づくりをけん引する人材育成を目指す。
「観光と交流」を軸に、地域資源の魅力を生かす
従来の観光はどちらかというと地域を「売り込む」ことに主眼が置かれてきた。しかし、観光まちづくり学部では「観光と交流」を軸に、地域資源の魅力を深掘りし、その資源を生かす「まちづくり」を学ぶ。それぞれの地域の特性に合ったまちづくりに取り組むことは、その土地が持つ文化の特性を理解するきっかけにもなる。
もう1つ、新学部設立のきっかけになったのが、本学卒業生(院友)たちの声だ。院友には日本各地の神社で神職として神事や祭りなどで地域に関わる方も多い。地元のまちづくり運営協議会のメンバーとして、コミュニティーづくりに取り組む院友もいる。西村教授は「院友の方たちからは『人口減少が進み、地域の祭りの担い手が減るなど地域の結びつきが弱くなっている。まちづくりで地域を活性化させる人材を育成してほしい』という声が寄せられていたと聞く。これも観光まちづくり学部の設置を検討する一つのきっかけになった」と説明する。
西村教授は都市工学を専門にし、日本各地の都市計画やまちづくりに携わってきた。自身が関わってきた町の1つとして、岐阜県高山市を挙げる。春と秋に行われる高山祭は、豪華絢爛な12台の祭り屋台が町中を練り歩き外国人からも人気の祭りだ。国の重要無形民俗文化財で、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産にも登録されている。「祭りには地域の子どもから大人までが参加し、祭りを軸にコミュニティーが形成されている。まちづくりについて皆が共通のイメージを描けている」(西村教授)
「地域の文化や歴史を深掘りすることは、当たり前だと思っていたことが実は特別なことだと気付くきっかけになる」と西村教授は言う。人口減少が進み、過疎化が進む地方ではこれまで以上に地域の魅力づくりが重要になっている。新学部では観光資源の質を向上させ、主体的にまちづくりに働きかける力を持つ人材を育てる。