オーガニックコットンタオルの製造を通じてアフリカのウガンダ共和国と日本を長年にわたって繋いできた卒業生の奥龍将さん(平23卒・119期日文、ウガンダ政府公認特命コーディネーター、株式会社スマイリーアース代表取締役社長)。農業立国であるウガンダの人々に「うらやましく思うこともある」と語るワケは?
【前編】「分かり合う、分かち合う」 真の国際親善、これからも
――家業では環境に負荷をかけないタオル製造を続けている。
奥 ウガンダとの取引や交流を通じて学んだことは大きな財産になっている。その一つが資源循環の重要性だ。ウガンダの人々は、自然と共生し、周囲にある物を全て生かす術を知っている。農業を営むウガンダの人々には独特の落ち着きを感じる。
当社では、ウガンダから輸入するオーガニックコットンを原材料に、漂白や染色などの化学処理を行わない独自の製法でタオル製造を続けている。私たちが目指すのは、自然と共生するタオルづくりが、これからの世界のスタンダードになっていくことだ。2025年には国際万国博覧会が大阪で開かれる。この機会を活用して世界に発信し、地球を皆で守ることの重要性を考えるきっかけづくりができるよう努力したい。
企業経営をしていると、どうしても成長を考えてしまうが別の視点も必要。国内のタオル製造は大量生産・大量消費が主流になっている。しかし当社では、独自のタオルづくりを実現する中で、生産量を抑え、その余力を差別化技術、自然と共生する技術の開発に振り向けている。これも一つの進化であり、成長ではないかと考える。今、何をすべきかというヒントは、SDGsの理念を含めて数多くある。このことをウガンダの人々は自然体で実現できているので、私にとっては敬意を表する存在だ。
――SDGsの実践の一方で会社を成長・存続させる必要がある。
奥 最終的には「労働生産性」という話にいきつく。我々の国は人口が減少していくなか、一人一人の労働生産性は高くしていかなくてはならない。この点、当社を労働生産性という観点からみると、トップクラスに入る気がする。私の会社は社員数わずか5人。私自身がタオル職人を目指す「モノづくり屋」だが、とにかくなんでもする。所有する山林で山仕事もすれば、畑で農作業もする。周りにある土壌や資源が持っている価値の生かし方を考えてチャレンジしてきたい。そうした中に、持続可能な社会を実現していくためのヒントが隠されているのではないかと感じている。
大学時代は陸上競技を中心だったが、伝承文学の授業で学んだことが今、生きている。学んだ知識があるからこそ、自分たちの地域に残っているもの(価値)や祖父から残されたもの(財産)の大事さを理解できる。自分が託されたものへの理解を深め、時代に沿ったアレンジを加え、また次の時代の担い手に託していく。母校「國學院大學」で学んだ当たり前のことを、タオル作りという父から受け継いだ使命継承に生かそうとしているところだ。
――ウガンダ政府特命コーディネーターの今後の活動は。
奥 託された以上は重い責任がある。両国の友好親善を一層深めるために、責任を持ってこの役割に向き合っていきたい。今回、事前合宿の受け入れに関わったことで、どういう部分に配慮すべきかが明確になった。コロナ禍で手探り状態を強いられたが、多くの成果も得られた。今回の経験を生かかして日本とウガンダがより強く結び付くことができる方向性を見い出し、チャレンジしていきたい。
モノづくりという会社経営にかかわる部分は当然のこととして、日本とウガンダの関係を強めることに貢献できる新たな試みも検討している。その一つとして、ウガンダ陸連からの依頼に沿って、ウガンダ選手を国内の競技大会に招聘したり、日本企業に紹介したりするための窓口を担えないかと検討している。
ウガンダ共和国 アフリカ大陸の東に位置し、南スーダン、ケニア、タンザニアなどに囲まれた内陸国。日本の本州とほぼ同じ広さで、赤道直下に位置する。陸上競技中長距離種目の強豪国で、東京五輪では、男子5千メートルなどで4つのメダルを獲得した。
日本とウガンダの交流 奥氏らの交流が発展し、会社のある泉佐野市と同国北部のグル市は平成29年に、国内の自治体で初となる友好都市協定を締結した。東京五輪に向けて、泉佐野市では同国選手団を受け入れるホストタウンプログラムの登録をいち早く実施した。また長野県立科町は同国五輪選手団のうち陸上競技中長距離種目に出場する選手の事前合宿を受け入れた。立科町と学校法人國學院大學の連携協定などに基づき、本学厚生施設「蓼科寮」を宿泊地として提供した。